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皇太子の計画

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 2日前、グレンは貴賓室で国王とひそかに会っていた。
 彼はリエルの引き渡しを条件に帝国からの支援を国王に提示していた。
 軍事や資源あらゆる面において圧倒的にまさる帝国からの援助は比較的貧しいこの国にとって何を差し出してもほしい条件だ。
 しかし、国王はすぐに首を縦に振らなかった。

「あの娘はさとい。我が国にも必要だ」
「しかし、彼女はあの王太子のそばでは無力に等しい」

 国王はぴくりと眉を動かし、険しい顔つきになった。
 するとグレンは苦笑しながら弁解した。

「失礼。あなたの息子を咎める気はなく、事実を正直に言っただけなので」

 その言い分に、国王は渋い顔つきで肯定も否定もしない。
 少し間を置いてグレンは続ける。

「彼女が能力を発揮できる場所が必要だ」
「貴国ならそれが叶うとでも?」
「あなたもわかっているはずだ。どうすれば双方の国にとって最善であるか」

 国王はやがて諦めたように嘆息した。

「まったく、君は師匠にそっくりだよ」
「そう言ってもらえると亡くなった祖父も喜ぶ」

 グレンは穏やかに笑う。

 グレンの祖父と国王は剣の師弟関係だった過去がある。
 国王が帝国側に軍事を学びに留学した際、剣を直接稽古してくれたのが帝国の先代皇帝であった。
 グレンはふたりの関係を利用して国王を説得したのだ。

 ―――――――
 ――――

 グレンの話を聞いたリエルは驚いて目を丸くした。

「そんなことがあったなんて……」
「最終手段のつもりだった。アランが君を簡単に手放すとは思えなかったからね」
「でもそれなら、どうして陛下はこのパーティを中止しなかったのかしら?」

 国王の命令なら婚約披露パーティ自体を中止することができるはずだ。
 グレンは少し遠くへ目を向けて訊ねる。

「よく見て。ここにいるすべての人間がアランに忠実だと思うか?」
「え?」

 リエルはじっと周囲の様子を観察する。
 アランを支持する者たちと、リエルを非難する者たち。
 その中であきらかに蚊帳の外にいる者たちがいる。

 傍観者だ。
 アランに興味がないか、あるいは不支持者。

 リエルの目に映るのは、それが貴族派ではなく中立か王族派の者たちである。彼らがパーティを延期したことに不信感を持った者たちなのか、あるいは以前からアランに不信感を持っている者たちなのか。
 ここでは判断しかねるも、これだけはわかる。

「アランの不支持者ということは……」
「そういうこと」

 これ以上は言葉にできないのでリエルは胸中で呟く。

(ユリウス王子殿下の支持者だわ!)

 国王は貴族たちを一気に集めてユリウスの支持者がどれくらいいるのか判断したかったのだ。
 つまりこのパーティはリエルにとっても国王にとっても都合のいい行事だった。
 アランはそれを利用されたことになる。

「滑稽だわ」

 リエルはぼそりと呟いた。
 狼狽えるアランの姿を見て、リエルはまったく同情する気もなく、ただ冷たい目を向ける。
 国王の命令が追い風となり、一気に会場全体の空気がリエル追放へと向かった。

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