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さあ、どうするの?

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 ノエラはわざと周囲に聞こえるように大声で言い放つ。

「あたくしは令嬢が殿下にふさわしい妃となるべく支えるつもりでした。ですが、このような裏切りを許すことはできません」

 ノエラはまるで観劇の主役のように高らかに声を上げる。

「あたくしは殿下に勇気ある決断を求めます!」

 周囲から「おおおおっ!」と歓声が上がった。
 次々とノエラに称賛の言葉が集まっている。

「素晴らしいわ、メイゼル令嬢!」
「やはり王太子妃にふさわしいのは彼女よ!」

 アランは予想とまるで違う展開になったことに焦っている。

「な、何を言っているんだ? ノエラ」
「殿下、今こそこの国にふさわしい妃を決めるのです」
「だから、妃はリエルで君は側……」
「殿下のそばで支えになれる女は誰ですか? 殿下を愛して差し上げられる女は誰なのですか?」
「……ノエラ」

 アランは苦悶の表情で困惑している。
 この騒ぎの中、冷静なのはリエルとグレンだけだった。
 ふたりは真顔でこそこそ話す。

「いい具合に盛り上がってるね」
「私たちへの非難しかないけどね」
「気になる?」
「別に。散々言われてきたからもういいわ」

 グレンの女癖の悪さやら他者への冷酷さ、リエルの悪女ぶりや無能ぶり。
 そんなあらゆる批判と、国を裏切ったことへの罵倒。
 汚い言葉が次々とふたりにぶつけられる。

 そして、ふたりへの非難の中で向けられるアランの誠実さとノエラへの称賛も高まっている。
 そんな声に、アランは混乱した。

(くそ、どうすればいい? ここで全員の支持を得るにはリエルを捨てるしかない。だが、あの男にだけは渡したくない。あの憎らしい皇太子にだけは!)

 アランはグレンを睨みつける。
 しかし、グレンは目が合った瞬間にっこりと笑顔を向けた。
 アランはそれに苛立ち、ギリっと歯を食いしばる。

 そのとき、会場の扉が開いて護衛騎士たちに囲まれた国王陛下が現れた。

「ずいぶんと騒がしいな」

 国王は世話人に支えられ、杖をついて立っている。
 周囲が一斉に注目し、アランは驚愕した。

(なぜ父上がここに?)

 もちろん周囲も動揺している。

「国王陛下。病で伏せっていらっしゃるのでは?」
「ご病気は大丈夫かしら?」

 少し前から公式行事に姿を見せなくなっていた国王が、パーティに顔を出したのだ。
 全員が驚いて国王に注目した。

(まさか陛下も参加されるなんて知らなかったわ)

 リエルも予想外の出来事に不安だった。
 国王は厳しい顔つきでアランに命じる。

「アランよ。わかっているな? 裏切り者はこの国にはいらぬ」

 その言葉に周囲は「さすが陛下だ」と称賛にわいた。
 そこで一気にリエル追放へと流れが加速した。
 アランは悔しそうにギリっと歯を噛みしめている。
 
 一方のリエルは国王の言葉に少々傷ついていた。

(仕方がないわ。せっかく信用してもらえそうだったけれど)

 結局、信頼を裏切ることになったのだ。
 回帰前と何ら変わっていない。
 
 リエルが落胆していると、となりでグレンが肩を抱いて笑顔で言った。

「王は君の味方だ」
「どういうこと?」

 驚くリエルにグレンはひっそりと話す。

「俺がこの3日、何もしなかったと思うか?」
「え……?」

 グレンはにやりと笑い、事の経緯を説明した。

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