今世ではあなたと結婚なんてお断りです！

バカにするのも今のうちよ

　アランは苛立ちが募り、拳をぐっと握りしめる。

（皇太子と抱き合っただと？　リエルはどこまで俺に恥をかかせるつもりだ）

　怒りに震えるアランとともに、周囲も非難の声を発する。

「なんと破廉恥な！」
「アラン殿下、お気をたしかに！」

　アランが落ち込んでいると勘違いしたのか、周囲が慰める。
　だが、アランは怒りを表に出さず、余裕ぶった表情で寛大な人物を演じた。

「ああ、私は大丈夫ですよ。彼女は婚約者だ。私は彼女を信じている。そんなことよりもこの国や民のことで私は頭がいっぱいですよ」

　それを聞いた貴族たちは感動のあまり声を上げた。

「なんと！　殿下はやはり素晴らしいお方だ」
「さすが未来の国王陛下ですな」

　完全に周囲を味方につけたアランは満面の笑みを振りまく。
　だが、そのとなりでノエラは歯噛みしている。

　アランは演技をしているとわかっているのに、ノエラは腹立たしくてたまらなかった。

　ノエラは前日、アランに言われていた。
　当日はリエルのことで周囲からいろいろ言われるだろうが、うまく立ち回るので邪魔をしないようにと。

　リエルが妻だと宣言するが、本当に愛しているのはノエラだと。
　そうして甘い夜を過ごしたのだが、ノエラはやはり気に食わない。

「しかしカーレン令嬢は遅いですな」

　その言葉を聞いたアランはいかにも申しわけないという気持ちで答える。

「みなさまには大変なご迷惑をおかけしています。私から謝罪しましょう」
「もうよろしいのでは？　メイゼル令嬢もいらっしゃることだ」

　それを聞いたノエラはご機嫌になり、アランの腕を握ってぴったりくっついた。

「殿下もご苦労なさっているでしょう。メイゼル令嬢が妃ならよろしいのに」

　その言葉にノエラは歓喜の表情で微笑んだが、アランは複雑な表情で苦笑した。
　アランはひどくイライラしている。

（くそっ、早く来いリエル。これ以上俺に恥をかかせるな！）

　そのとき、会場の扉が開いてようやくリエルが登場した。

　リエルは大きな花柄の装飾のある真っ赤なドレスを着ている。
　あまりに派手すぎて周囲はドン引きした。
　もちろん、リエルは普段このようなドレスを着たりしない。
　演出である。

「ご覧になって。あれが殿下の婚約者よ」
「んまあ、不貞を働いたという？」
「下品なドレスだこと。どこの衣装屋にオーダーしたのかしら？」

　周囲から冷たい視線が集まってくるも、リエルは堂々とアランに向かってまっすぐ歩いていく。

「おいおい、あんな女が王太子妃だと？」
「まるで娼婦だ。殿下が気の毒になるな」

　リエルはアランの前に立つと、形式的テンプレな挨拶カーテシーをおこなった。

「お待たせいたしました、殿下」
「遅い」

　アランは周囲に聞こえないくらいの声でリエルを咎める。
　そして、アランのとなりではノエラがわざとらしく困惑の表情をしている。

「本当に、リエルったらどれだけ人に迷惑をかければ気が済むの？」

　困った子ね、とでも言わんばかりにノエラは苦笑した。