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わずかな希望

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「あなたも王族ならわかるでしょう? 自由に振る舞っていても本当の自由なんてない。あなたは将来皇帝になるのでしょうから」

 グレンは真剣な顔でリエルを見つめる。

「たしかに制約はある。だが、どう行動するかは自分で決める」
「……いいわね。でも、女はそうはいかないのよ」


 リエルは幼少期から家のために妃教育を徹底的に受けさせられてきた。
 それでも実の母は優しかった。
 父の厳しさに耐えられないとき、母は優しく抱きしめてくれた。

 母が死んで継母を迎えてからは、嫌がらせが始まった。
 継母は元妻に似たリエルに憎しみを抱いた。

 貴族学院でトップの成績を収めたが、周囲からは付き合いが悪い、話が面白くないと評判が悪かった。
 すべて父の命令で、他の貴族と仲良くしてはいけないと監視をつけられていたから仕方がなかった。

 唯一会話を許されたのが父とも懇意にしている伯爵家のノエラだった。
 しかし、ノエラもリエルを殺したいほど憎んでいたのだ。


(家のために、殿下のために、この国のために懸命にやってきた結果、私はすべての人に恨まれて殺される)

 本当はわかっていた。
 アランに捨てられても家には戻れない。
 貴族の暮らしをしてきた自分が平民として生きていけるかもわからない。

 本当は逃げ出す勇気などない。
 アランはそれを見破っている。

(また同じことが繰り返されるんだわ)

 リエルは感情が高ぶり、涙があふれそうになった。
 それを見抜かれないよう宙を仰ぐも、グレンは気づいてしまったようだ。
 彼はリエルの手を掴み、自分へと引き寄せる。
 くるりと振り返ったリエルはぼろぼろと涙をこぼした。

「リエル……」
「これは、目が乾燥しているのよ」
「じゃあ、どうしてそんなにつらそうなんだ?」
「つらくなんか……」

 グレンがあまりに真剣に訊くから、リエルは涙が止まらず言葉を失った。
 すると、グレンは突然リエルを抱き寄せた。
 リエルは驚愕のあまり抵抗すらできない。
 グレンはそっとリエルの頭を撫でて言った。

「よし、わかった」
「え?」
「俺がどうにかして君を自由にしてあげる」

 リエルは戸惑ったものの、信じられずに苦笑する。

「だから、冗談は……」
「冗談じゃない。君をこんなところに置いておくのはもったいない。君を必要とする場所はこの世界にいくらでもある」

 そんなふうに言われて、リエルは目の前に広い世界が見えた気がした。
 驚きと高揚感で固まっているリエルに、グレンが話を進める。

「その代わり、俺の願いをひとつだけ聞いてほしい」
「取引って、こと……?」

 リエルは泣きながらたどたどしく訊ねた。
 するとグレンは笑顔でうなずく。

「まあ、そういうこと。必ず成功させてみせるから」

 リエルは呆気にとられながら、ただ静かにうなずいた。
 グレンが一体何をするのかわからないが、妙な説得力にリエルは安堵した。

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