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憤慨する王太子
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その夜、アランはノエラの部屋を訪れて彼女を責め立てた。
皇太子の前で余計なことを言ったノエラにも苛ついていたのだ。
「ノエラ、なぜあのような真似をしたんだ?」
「なぜって? だって殿下があたくしをリエルの代わりに皇太子さまへ紹介してくれたではありませんか」
それは事実だ。
リエルの遅刻にイライラしていたアランは綺麗に着飾ったノエラを自分の妃として紹介したのだ。
どうせリエルはもう来ないだろうと思ったから。
「そのことは仕方がない。だが、皇太子とリエルが鉢合わせたときに君は機転を利かせるべきだった」
すでに妃として紹介されているのだから、リエルのことは友人だと適当に話を合わせるべきだったのだ。
「そんなことを言われましても……」
ノエラは言いわけもできないのか、突然涙ぐみながら上目遣いでアランを見つめた。
いつもなら可愛いと抱きしめてやるが、今はむしゃくしゃしてその気になれない。
(皇太子の前であんな醜態をさらして……くそっ、一番知られたくない奴に!)
アランは昔グレンと幾度か会うことがあった。
しかし何事に関してもグレンに敵わなかった。
交流のための乗馬大会や剣術大会などいつもグレンが圧勝で、アランはそのたびに彼を恨んだ。
グレンのまわりには自然と女の子が寄ってくるのにアランにはまったくなかった。そのこともあってアランはグレンが女好きで遊び人だと他国の者たちにまで吹聴した。
それなのに、彼はまったく動じることもなく余裕じみた顔で現れた。
(父の命令でなければあいつをこの国に招いたりしなかった)
資源の少ないディアナ王国にとってアストレア帝国は重要な貿易相手国。
特に鉱山事業の発達した帝国に頼る国は数多く、遅れをとっているこの国は帝国に頭を下げてても取引きをすべきだというのが父王の考えだ。
しかしアランは個人的な事情で帝国を敵視している。
主にグレンに対して。
「殿下、あたくしが悪いのですか? そもそもきちんとお出迎えに来られなかったリエルの責任ではございませんこと?」
ノエラがうるうるした目で訴える。
それを見たアランはやはり、ノエラの同情を引く態度にすんなり流されてしまった。
「ああ、そうだ。すべてはリエルのせいだ。妃になる自覚が足りないのだろう。俺に生意気な態度ばかりだ」
そもそもどうしてこんなことになったのかと考えると、すべてリエルが原因なのだ。
最初から生意気な態度ばかりで扱いづらい。
「殿下、あの子は昔から周囲に迷惑をかけてばかりなのです」
「ノエラ、君はそのたびに彼女の尻ぬぐいをさせられていたのか。可哀想に」
「そうなのです」
ぐすっと涙をこぼすノエラの表情を見て、アランは自分が傷ついたような気分になった。
(まるで皇太子のようだな。俺もあいつにひどい目に遭わされてきた)
ノエラが自分と同じ境遇なのだと思い、アランは同情心を抱いた。
同時に、リエルに対する怒りがふつふつと湧き上がった。
「リエルには呆れたものだ。よく考えたらあのときの君の態度はまるで妃のようだった。君こそが妃にふさわしいのではないだろうか」
それを聞いたノエラは歓喜のあまり手を叩いて声を上げた。
「まあ、殿下。ご冗談がすぎますわ」
「いいや。冗談ではない」
アランはハッと思いついて、口もとに笑みを浮かべる。
「先々代には側妃という制度があった。つまり王妃の他に何人か妃を娶ることができるんだ。君をその側妃にすることもできるぞ」
「まあ、本当に? ああ、でも正妻はリエルなのですね」
ノエラの歓喜の表情はすぐに落胆に変わる。
「それはもう決まっていることだからな」
アランはノエラの肩に手をまわし、慰めるように抱き寄せる。
(リエルは気に入らないが、仕事はできる女だ。妃としての利用価値はある。将来は彼女を形だけの王妃にしておいて、ノエラを側妃にすれば万事うまくいく)
にやりと笑うアランの懐で、ノエラはひっそりと悔しそうに表情を歪ませた。
ノエラはやはりリエルが王太子妃の座につくことは気に食わない。
なんとしてもリエルを破滅させたいと考えていた。
皇太子の前で余計なことを言ったノエラにも苛ついていたのだ。
「ノエラ、なぜあのような真似をしたんだ?」
「なぜって? だって殿下があたくしをリエルの代わりに皇太子さまへ紹介してくれたではありませんか」
それは事実だ。
リエルの遅刻にイライラしていたアランは綺麗に着飾ったノエラを自分の妃として紹介したのだ。
どうせリエルはもう来ないだろうと思ったから。
「そのことは仕方がない。だが、皇太子とリエルが鉢合わせたときに君は機転を利かせるべきだった」
すでに妃として紹介されているのだから、リエルのことは友人だと適当に話を合わせるべきだったのだ。
「そんなことを言われましても……」
ノエラは言いわけもできないのか、突然涙ぐみながら上目遣いでアランを見つめた。
いつもなら可愛いと抱きしめてやるが、今はむしゃくしゃしてその気になれない。
(皇太子の前であんな醜態をさらして……くそっ、一番知られたくない奴に!)
アランは昔グレンと幾度か会うことがあった。
しかし何事に関してもグレンに敵わなかった。
交流のための乗馬大会や剣術大会などいつもグレンが圧勝で、アランはそのたびに彼を恨んだ。
グレンのまわりには自然と女の子が寄ってくるのにアランにはまったくなかった。そのこともあってアランはグレンが女好きで遊び人だと他国の者たちにまで吹聴した。
それなのに、彼はまったく動じることもなく余裕じみた顔で現れた。
(父の命令でなければあいつをこの国に招いたりしなかった)
資源の少ないディアナ王国にとってアストレア帝国は重要な貿易相手国。
特に鉱山事業の発達した帝国に頼る国は数多く、遅れをとっているこの国は帝国に頭を下げてても取引きをすべきだというのが父王の考えだ。
しかしアランは個人的な事情で帝国を敵視している。
主にグレンに対して。
「殿下、あたくしが悪いのですか? そもそもきちんとお出迎えに来られなかったリエルの責任ではございませんこと?」
ノエラがうるうるした目で訴える。
それを見たアランはやはり、ノエラの同情を引く態度にすんなり流されてしまった。
「ああ、そうだ。すべてはリエルのせいだ。妃になる自覚が足りないのだろう。俺に生意気な態度ばかりだ」
そもそもどうしてこんなことになったのかと考えると、すべてリエルが原因なのだ。
最初から生意気な態度ばかりで扱いづらい。
「殿下、あの子は昔から周囲に迷惑をかけてばかりなのです」
「ノエラ、君はそのたびに彼女の尻ぬぐいをさせられていたのか。可哀想に」
「そうなのです」
ぐすっと涙をこぼすノエラの表情を見て、アランは自分が傷ついたような気分になった。
(まるで皇太子のようだな。俺もあいつにひどい目に遭わされてきた)
ノエラが自分と同じ境遇なのだと思い、アランは同情心を抱いた。
同時に、リエルに対する怒りがふつふつと湧き上がった。
「リエルには呆れたものだ。よく考えたらあのときの君の態度はまるで妃のようだった。君こそが妃にふさわしいのではないだろうか」
それを聞いたノエラは歓喜のあまり手を叩いて声を上げた。
「まあ、殿下。ご冗談がすぎますわ」
「いいや。冗談ではない」
アランはハッと思いついて、口もとに笑みを浮かべる。
「先々代には側妃という制度があった。つまり王妃の他に何人か妃を娶ることができるんだ。君をその側妃にすることもできるぞ」
「まあ、本当に? ああ、でも正妻はリエルなのですね」
ノエラの歓喜の表情はすぐに落胆に変わる。
「それはもう決まっていることだからな」
アランはノエラの肩に手をまわし、慰めるように抱き寄せる。
(リエルは気に入らないが、仕事はできる女だ。妃としての利用価値はある。将来は彼女を形だけの王妃にしておいて、ノエラを側妃にすれば万事うまくいく)
にやりと笑うアランの懐で、ノエラはひっそりと悔しそうに表情を歪ませた。
ノエラはやはりリエルが王太子妃の座につくことは気に食わない。
なんとしてもリエルを破滅させたいと考えていた。
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