23 / 110
侍女長の退場
しおりを挟む
その後、アランは執務室に侍女長を呼び出すと、怒りのあまりバンッと執務机を叩いた。
びくっと震え上がる侍女長に、アランは険しい顔で見つめる。
「俺に恥をかかせるなと言っただろう!」
「申しわけ、ございません……」
侍女長は頭を下げながらぎりっと歯を食いしばる。
(あの生意気な令嬢のせいで、わたくしがこんな目に……)
また何かやり返してやらないと気がすまないと思っていたが、アランのひとことで侍女長は頭が真っ白になった。
「もういい。お前は首だ」
「お願いでございます。それだけは……今後はより一層使用人の管理を厳しく徹底いたしますので」
「聞き飽きたんだよ!」
いつもは味方になってくれるはずのアランが感情的に怒鳴っている。
侍女長は驚き、呆然とした。
「よりにもよって、皇太子の前であんな恥さらしなことを!」
「申しわけございません。深くお詫びを……」
震えながら謝罪する侍女長に、アランは命じる。
「早急に荷物をまとめて出ていくように」
「殿下! なにとぞお慈悲を!」
「黙れ! これは命令だ!」
ここまで言われたら何も言えない。
侍女長は肩を落とし、消え入るような声を発する。
「……かしこまりました」
その後、侍女長が荷物をまとめて王宮の裏口から出ていくときに、見送ってくれる者は誰もいなかった。
*
その頃、リエルは部屋着のドレスに着替えて自室のソファでくつろいでいた。
エマがお茶を淹れながら、先ほど得た情報を告げる。
「侍女長が解雇されたみたいです」
「へえ、そうなの」
リエルはたいして興味のなさそうな返答をした。
エマは顔に怒りを滲ませながら続ける。
「でも、リエルさまのドレスを破ったのは侍女長の命令だったんですよ。他の者たちが証言しました。解雇されて当然ですよ」
「そうね」
リエルはあっさりと返して紅茶を飲む。
あの場で大恥をかかされたアランが八つ当たりできる相手は侍女長しかいない。
もちろん、以前ならリエルに怒りをぶつけただろうが、おそらく皇太子と知り合いとわかったことでリエルに手出しできなくなったのだろう。
代わりに侍女長を首にして鬱憤を晴らしたということだ。
しかし――。
(ノエラの命令で侍女長が実行したのでしょうね。でも、アランはそこまで見抜いていないでしょうけれど)
リエルにはわかっていた。
あくまで侍女長は実行犯で、計画したのはノエラだということを。
リエルはバルコニーから庭園を眺める。
侍女長は誰も通らない城の裏口からこっそり追い出されただろうから、当然その姿は見えない。
リエルはにやっと静かに笑みを浮かべた。
びくっと震え上がる侍女長に、アランは険しい顔で見つめる。
「俺に恥をかかせるなと言っただろう!」
「申しわけ、ございません……」
侍女長は頭を下げながらぎりっと歯を食いしばる。
(あの生意気な令嬢のせいで、わたくしがこんな目に……)
また何かやり返してやらないと気がすまないと思っていたが、アランのひとことで侍女長は頭が真っ白になった。
「もういい。お前は首だ」
「お願いでございます。それだけは……今後はより一層使用人の管理を厳しく徹底いたしますので」
「聞き飽きたんだよ!」
いつもは味方になってくれるはずのアランが感情的に怒鳴っている。
侍女長は驚き、呆然とした。
「よりにもよって、皇太子の前であんな恥さらしなことを!」
「申しわけございません。深くお詫びを……」
震えながら謝罪する侍女長に、アランは命じる。
「早急に荷物をまとめて出ていくように」
「殿下! なにとぞお慈悲を!」
「黙れ! これは命令だ!」
ここまで言われたら何も言えない。
侍女長は肩を落とし、消え入るような声を発する。
「……かしこまりました」
その後、侍女長が荷物をまとめて王宮の裏口から出ていくときに、見送ってくれる者は誰もいなかった。
*
その頃、リエルは部屋着のドレスに着替えて自室のソファでくつろいでいた。
エマがお茶を淹れながら、先ほど得た情報を告げる。
「侍女長が解雇されたみたいです」
「へえ、そうなの」
リエルはたいして興味のなさそうな返答をした。
エマは顔に怒りを滲ませながら続ける。
「でも、リエルさまのドレスを破ったのは侍女長の命令だったんですよ。他の者たちが証言しました。解雇されて当然ですよ」
「そうね」
リエルはあっさりと返して紅茶を飲む。
あの場で大恥をかかされたアランが八つ当たりできる相手は侍女長しかいない。
もちろん、以前ならリエルに怒りをぶつけただろうが、おそらく皇太子と知り合いとわかったことでリエルに手出しできなくなったのだろう。
代わりに侍女長を首にして鬱憤を晴らしたということだ。
しかし――。
(ノエラの命令で侍女長が実行したのでしょうね。でも、アランはそこまで見抜いていないでしょうけれど)
リエルにはわかっていた。
あくまで侍女長は実行犯で、計画したのはノエラだということを。
リエルはバルコニーから庭園を眺める。
侍女長は誰も通らない城の裏口からこっそり追い出されただろうから、当然その姿は見えない。
リエルはにやっと静かに笑みを浮かべた。
2,869
お気に入りに追加
5,333
あなたにおすすめの小説
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
完結まで執筆済み、毎日更新
もう少しだけお付き合いください
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる