今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ

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侍女長の退場

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 その後、アランは執務室に侍女長を呼び出すと、怒りのあまりバンッと執務机を叩いた。
 びくっと震え上がる侍女長に、アランは険しい顔で見つめる。

「俺に恥をかかせるなと言っただろう!」
「申しわけ、ございません……」

 侍女長は頭を下げながらぎりっと歯を食いしばる。

(あの生意気な令嬢のせいで、わたくしがこんな目に……)

 また何かやり返してやらないと気がすまないと思っていたが、アランのひとことで侍女長は頭が真っ白になった。

「もういい。お前は首だ」
「お願いでございます。それだけは……今後はより一層使用人の管理を厳しく徹底いたしますので」
「聞き飽きたんだよ!」

 いつもは味方になってくれるはずのアランが感情的に怒鳴っている。
 侍女長は驚き、呆然とした。

「よりにもよって、皇太子の前であんな恥さらしなことを!」
「申しわけございません。深くお詫びを……」

 震えながら謝罪する侍女長に、アランは命じる。

「早急に荷物をまとめて出ていくように」
「殿下! なにとぞお慈悲を!」
「黙れ! これは命令だ!」

 ここまで言われたら何も言えない。
 侍女長は肩を落とし、消え入るような声を発する。

「……かしこまりました」

 その後、侍女長が荷物をまとめて王宮の裏口から出ていくときに、見送ってくれる者は誰もいなかった。


 *


 その頃、リエルは部屋着のドレスに着替えて自室のソファでくつろいでいた。
 エマがお茶を淹れながら、先ほど得た情報を告げる。

「侍女長が解雇されたみたいです」
「へえ、そうなの」

 リエルはたいして興味のなさそうな返答をした。
 エマは顔に怒りを滲ませながら続ける。

「でも、リエルさまのドレスを破ったのは侍女長の命令だったんですよ。他の者たちが証言しました。解雇されて当然ですよ」
「そうね」

 リエルはあっさりと返して紅茶を飲む。
 あの場で大恥をかかされたアランが八つ当たりできる相手は侍女長しかいない。
 もちろん、以前ならリエルに怒りをぶつけただろうが、おそらく皇太子と知り合いとわかったことでリエルに手出しできなくなったのだろう。
 代わりに侍女長を首にして鬱憤を晴らしたということだ。

 しかし――。

(ノエラの命令で侍女長が実行したのでしょうね。でも、アランはそこまで見抜いていないでしょうけれど)

 リエルにはわかっていた。
 あくまで侍女長は実行犯で、計画したのはノエラだということを。

 リエルはバルコニーから庭園を眺める。
 侍女長は誰も通らない城の裏口からこっそり追い出されただろうから、当然その姿は見えない。

 リエルはにやっと静かに笑みを浮かべた。


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