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意外な人物との再会②
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アランは周囲に目をやり、何とか事を収めようと冷や汗をかきながら言い訳を述べる。
「あの者が何か間違ったのでしょう。あとで強く言い聞かせておきます。失礼いたしました」
あの者とはノエラのことだ。
ノエラはぐっと歯噛みして怒りをこらえている。
「あらためて紹介しますが、彼女が私の婚約者のリエルです」
アランは何事もなかったかのように平然とリエルをグレンに紹介した。
リエルは真顔でぺこりとお辞儀をする。
グレンは「ふうん」と軽く反応した。
グレンがどう答えるのかアランもリエルも黙って見ていたが、彼はおもむろにリエルの手を握ったのだった。
そして、グレンはリエルの手の甲にキスをした。
「なっ……何を!」
アランは驚き、慌ててリエルの腕を掴んでグレンを振り払う。
「帝国流の挨拶です」
グレンはまったく悪びれた様子もなく言った。
リエルは羞恥に頬を赤らめた。
グレンが何を思ってこんなことをしたのか、リエルにはわかりかねる。
それとも彼が言うように本当に帝国の挨拶なのだろうか。
しかし、今この状況でこんなことをすればアランの機嫌を損ねることくらいわかるだろうに、と思う。
グレンは穏やかに微笑みながらアランに向かってさらりと言う。
「これほど美しい女性とご結婚されるアラン王太子殿下が大変うらやましい」
「そ、そうですか。まあ、そうでしょう。リエルはどの女よりも美しいですから」
アランはまんざらでもなく、嬉しそうににやけた。
それを見たリエルはただ真顔で黙ったままだ。
侍女長と使用人たちは驚愕のあまり硬直していて、ノエラは怒りで今にも爆発しそうだ。
それなのに、グレンはまるで空気が読めていないようなふりをして堂々と自分の意見を言い放つ。
「だが、大切な婚約者がこんな目に遭っているのに、まったく声をかけないのはいささか疑問ですね」
グレンは少し首を傾げ、眉根を寄せて困惑の表情でアランに指摘する。
アランが視線を向けた先には汚れたドレスを着たリエル。
彼は小さく舌打ちする。
侍女長たちは焦り出し、リエルはため息をついた。
(これ以上アランを刺激しないでほしいわ)
仕方なくリエルは自分があいだに割って入ることにした。
「皇太子殿下にお目にかかれて光栄でございます。ですがこの通り、私は着替えなければなりません。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。それでは失礼いたします」
リエルは軽やかに挨拶をおこなうと、くるりと向きを変えて立ち去った。
エマも深くお辞儀をしてリエルを追いかける。
アランはしばらくぼんやりしていたが、ハッとしてリエルに水をかけた使用人たちを睨みつけた。
「おいっ、どうしてこんな失態をしたんだ?」
「も、申しわけございません!」
使用人たちは驚いてすぐさま頭を下げる。
そしてアランは侍女長に向かって鋭い視線を投げつけた。
「侍女長、あとで俺のところへ来るように」
アランがあまりに恐ろしい目つきをするので侍女長は萎縮し、神妙な面持ちで頭を下げる。
いつも温厚に見せているアランの怒りの表情に使用人たちは戸惑っていた。
それを、黙って見ているのはグレンだ。
彼はノエラの怒りに満ちた表情に気づいて、ふっと笑う。
(なるほど。面白い)
グレンはだいたいの状況を理解していた。
「あの者が何か間違ったのでしょう。あとで強く言い聞かせておきます。失礼いたしました」
あの者とはノエラのことだ。
ノエラはぐっと歯噛みして怒りをこらえている。
「あらためて紹介しますが、彼女が私の婚約者のリエルです」
アランは何事もなかったかのように平然とリエルをグレンに紹介した。
リエルは真顔でぺこりとお辞儀をする。
グレンは「ふうん」と軽く反応した。
グレンがどう答えるのかアランもリエルも黙って見ていたが、彼はおもむろにリエルの手を握ったのだった。
そして、グレンはリエルの手の甲にキスをした。
「なっ……何を!」
アランは驚き、慌ててリエルの腕を掴んでグレンを振り払う。
「帝国流の挨拶です」
グレンはまったく悪びれた様子もなく言った。
リエルは羞恥に頬を赤らめた。
グレンが何を思ってこんなことをしたのか、リエルにはわかりかねる。
それとも彼が言うように本当に帝国の挨拶なのだろうか。
しかし、今この状況でこんなことをすればアランの機嫌を損ねることくらいわかるだろうに、と思う。
グレンは穏やかに微笑みながらアランに向かってさらりと言う。
「これほど美しい女性とご結婚されるアラン王太子殿下が大変うらやましい」
「そ、そうですか。まあ、そうでしょう。リエルはどの女よりも美しいですから」
アランはまんざらでもなく、嬉しそうににやけた。
それを見たリエルはただ真顔で黙ったままだ。
侍女長と使用人たちは驚愕のあまり硬直していて、ノエラは怒りで今にも爆発しそうだ。
それなのに、グレンはまるで空気が読めていないようなふりをして堂々と自分の意見を言い放つ。
「だが、大切な婚約者がこんな目に遭っているのに、まったく声をかけないのはいささか疑問ですね」
グレンは少し首を傾げ、眉根を寄せて困惑の表情でアランに指摘する。
アランが視線を向けた先には汚れたドレスを着たリエル。
彼は小さく舌打ちする。
侍女長たちは焦り出し、リエルはため息をついた。
(これ以上アランを刺激しないでほしいわ)
仕方なくリエルは自分があいだに割って入ることにした。
「皇太子殿下にお目にかかれて光栄でございます。ですがこの通り、私は着替えなければなりません。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。それでは失礼いたします」
リエルは軽やかに挨拶をおこなうと、くるりと向きを変えて立ち去った。
エマも深くお辞儀をしてリエルを追いかける。
アランはしばらくぼんやりしていたが、ハッとしてリエルに水をかけた使用人たちを睨みつけた。
「おいっ、どうしてこんな失態をしたんだ?」
「も、申しわけございません!」
使用人たちは驚いてすぐさま頭を下げる。
そしてアランは侍女長に向かって鋭い視線を投げつけた。
「侍女長、あとで俺のところへ来るように」
アランがあまりに恐ろしい目つきをするので侍女長は萎縮し、神妙な面持ちで頭を下げる。
いつも温厚に見せているアランの怒りの表情に使用人たちは戸惑っていた。
それを、黙って見ているのはグレンだ。
彼はノエラの怒りに満ちた表情に気づいて、ふっと笑う。
(なるほど。面白い)
グレンはだいたいの状況を理解していた。
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