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意外な人物との再会①
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金髪に翠眼の整った容貌。しゃらんっと揺れる金の耳飾り。
シルバーグレーを基調とした正装姿のグレンだ。
初めて出会ったときはフードをすっぽり被っていたが、高貴なオーラは隠しきれていなかったことから、リエルはてっきり貴族だと思っていた。
しかし、まさか皇太子だとは思いもよらなかった。
「グレン? その格好は」
「名前、憶えててくれたんだ。嬉しいね」
グレンはにっこり微笑み、リエルは呆気にとられた。
驚きのあまり混乱し、とりあえずとっさに思いついた言葉が口から飛び出す。
「騙したの?」
「騙してないよ。正体を隠していただけ」
グレンはゆっくり歩いてくると、リエルに顔が接近するまで近づいて、ひっそりと言った。
「でも、君の動揺した姿を見られたからラッキーだったな」
「な、何を……!」
あまりに近すぎてリエルは狼狽えながら離れる。
グレンは面白そうに笑う。
「その顔。あのときは何を言っても無表情だったから、そういう慌てた顔が可愛くてたまらないな」
「冗談言わないで!」
リエルは真っ赤な顔で抗議した。
エマはふたりのやりとりを歓喜の表情で見守り、アランは驚愕のあまり放心状態である。
侍女長と使用人たちは呆然としていて、ノエラは怒りで震えている。
(嘘でしょ!? リエルと皇太子が知り合い? そんなの知らないわ。どうして? なぜリエルなんかが帝国の皇太子と!)
ノエラは拳を握りしめながら歯噛みした。
気に食わない顔をしているのはノエラだけではなかった。
アランも拳を握りしめ、眉を吊り上げている。
(何だ、あれは? 不愉快極まりない!)
アランはつかつかとふたりのあいだに割り込んで、グレンを睨みつけながら言い放つ。
「グレイアム皇太子。彼女は私の婚約者だ。あまり馴れ馴れしくしないでいただきたい」
リエルはその言葉に眉をひそめた。
バケツの水を浴びたドレスを身につける惨めなリエルをわざわざ自分の婚約者と紹介するとは、アランのつまらないプライドはどこへ行ったのか。
ぴりっと緊張感に包まれる。
エマはグレンとアランを交互に見てそわそわしている。
ノエラは憤怒の表情で今にも爆発しそうなのを耐えている。
そんな中、グレンだけは意味がわからないというふうに、きょとんとしていた。そして、彼は満面の笑みでわざとらしく言い放った。
「あれ? 先ほど貴殿からそちらの女性を紹介されたのだが、もしかして僕の記憶違いだったかな?」
グレンがちらりと目をやった先にはノエラがいた。
アランはハッとして自分の間違いに気づき、羞恥のあまり顔を赤らめた。
ノエラをリエルの代わりに婚約者として紹介したのに、実は別の女でしたとあとで訂正したのだから。
エマが笑いそうになるのを必死にこらえている横で、リエルは冷めた目でアランを見つめている。
グレンは穏やかな表情で、さらに続けた。
「だとしたら、彼女は一体何者だろうか? さっきあなたの婚約者に命令していましたよ?」
意味ありげな目でじっと見つめるグレンに、アランはますます顔を赤らめる。
エマはついに吹き出してしまい、必死に手で口を押さえた。
リエルは真顔のまま成り行きを静観する。
するとグレンは遠慮なく自分の疑問をはっきりと口にした。
「王太子殿下の婚約者に向かって命令できる女性。それは格上の、たとえば王妃となりますが、貴殿はどのようにお考えですか?」
アランは返す言葉が見つからないのか、悔しそうに歯を食いしばる。
となりでノエラはばつが悪そうに俯き、ドレスの裾がしわくちゃになるまで握りしめた。
エマはもう完全に笑っている。
リエルは顔に出さないように苦笑した。
(なかなか煽ってくれるわね)
シルバーグレーを基調とした正装姿のグレンだ。
初めて出会ったときはフードをすっぽり被っていたが、高貴なオーラは隠しきれていなかったことから、リエルはてっきり貴族だと思っていた。
しかし、まさか皇太子だとは思いもよらなかった。
「グレン? その格好は」
「名前、憶えててくれたんだ。嬉しいね」
グレンはにっこり微笑み、リエルは呆気にとられた。
驚きのあまり混乱し、とりあえずとっさに思いついた言葉が口から飛び出す。
「騙したの?」
「騙してないよ。正体を隠していただけ」
グレンはゆっくり歩いてくると、リエルに顔が接近するまで近づいて、ひっそりと言った。
「でも、君の動揺した姿を見られたからラッキーだったな」
「な、何を……!」
あまりに近すぎてリエルは狼狽えながら離れる。
グレンは面白そうに笑う。
「その顔。あのときは何を言っても無表情だったから、そういう慌てた顔が可愛くてたまらないな」
「冗談言わないで!」
リエルは真っ赤な顔で抗議した。
エマはふたりのやりとりを歓喜の表情で見守り、アランは驚愕のあまり放心状態である。
侍女長と使用人たちは呆然としていて、ノエラは怒りで震えている。
(嘘でしょ!? リエルと皇太子が知り合い? そんなの知らないわ。どうして? なぜリエルなんかが帝国の皇太子と!)
ノエラは拳を握りしめながら歯噛みした。
気に食わない顔をしているのはノエラだけではなかった。
アランも拳を握りしめ、眉を吊り上げている。
(何だ、あれは? 不愉快極まりない!)
アランはつかつかとふたりのあいだに割り込んで、グレンを睨みつけながら言い放つ。
「グレイアム皇太子。彼女は私の婚約者だ。あまり馴れ馴れしくしないでいただきたい」
リエルはその言葉に眉をひそめた。
バケツの水を浴びたドレスを身につける惨めなリエルをわざわざ自分の婚約者と紹介するとは、アランのつまらないプライドはどこへ行ったのか。
ぴりっと緊張感に包まれる。
エマはグレンとアランを交互に見てそわそわしている。
ノエラは憤怒の表情で今にも爆発しそうなのを耐えている。
そんな中、グレンだけは意味がわからないというふうに、きょとんとしていた。そして、彼は満面の笑みでわざとらしく言い放った。
「あれ? 先ほど貴殿からそちらの女性を紹介されたのだが、もしかして僕の記憶違いだったかな?」
グレンがちらりと目をやった先にはノエラがいた。
アランはハッとして自分の間違いに気づき、羞恥のあまり顔を赤らめた。
ノエラをリエルの代わりに婚約者として紹介したのに、実は別の女でしたとあとで訂正したのだから。
エマが笑いそうになるのを必死にこらえている横で、リエルは冷めた目でアランを見つめている。
グレンは穏やかな表情で、さらに続けた。
「だとしたら、彼女は一体何者だろうか? さっきあなたの婚約者に命令していましたよ?」
意味ありげな目でじっと見つめるグレンに、アランはますます顔を赤らめる。
エマはついに吹き出してしまい、必死に手で口を押さえた。
リエルは真顔のまま成り行きを静観する。
するとグレンは遠慮なく自分の疑問をはっきりと口にした。
「王太子殿下の婚約者に向かって命令できる女性。それは格上の、たとえば王妃となりますが、貴殿はどのようにお考えですか?」
アランは返す言葉が見つからないのか、悔しそうに歯を食いしばる。
となりでノエラはばつが悪そうに俯き、ドレスの裾がしわくちゃになるまで握りしめた。
エマはもう完全に笑っている。
リエルは顔に出さないように苦笑した。
(なかなか煽ってくれるわね)
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