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仕組まれた罠②

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「そういえば、使用人が盗みを働いて解雇されたそうね」

 ノエラは目を丸くしてわざとらしく驚いた表情で言った。
 リエルは落ち着いて紅茶を飲む。

「噂ではあなたが使用人を唆してアラン殿下の気を引こうとしたっていう話よ」

 リエルは紅茶を飲む手を止め、静かにカップを置く。

「噂って怖いわよねえ。リエルがそんなことをするなんてあり得ないから、あたしがみんなに言い返してやったわよ。リエルに限ってそんなことないわよってね」

 満面の笑みでそんなことを言うノエラに、リエルは真顔から笑顔になった。

「当たり前じゃない。私がそんなことをするわけがないわ」
「ええ。あたしがリエルの濡れ衣は晴らしておいたわ」
「ありがとう、ノエラ」

(その噂、あなたが広めたのね。わざとらしいわ)

 ふたりはお互いに笑顔で見つめ合う。

「ありがとう、ノエラ。あなたはいつも私の味方でいてくれるのね」
「もちろんよ、リエル。だって親友ですもの」

 ノエラの口角が不自然に上がる。
 リエルはそれに気づいたが、黙って微笑むだけだった。

 リエルはおもむろに立ち上がり、にっこりと笑った。

「これから仕事があるの。先に失礼するわね」
「大変ね、王太子妃になるって」
「そう、大変なのよ」

 リエルは余裕の表情でそう言って、エマとともに立ち去った。


 その場に残されたノエラはしばらく笑っていたが、やがて真顔になった。
 しばらくノエラは沈黙のまま突っ立っていたが、やがて周囲に人がいないことを確認すると、テーブルの上のナプキンを引っ掴んだ。
 その拍子にカップが落下し、割れてしまった。
 ノエラはそんなことにお構いなく、ナプキンを地面に落として足で踏んづけた。

「何よ! 何なのよ、あの余裕は! てっきり泣きついてくると思ったのに!」

 ノエラは叫びながらぐしゃぐしゃとナプキンを踏みつける。

「リエルのくせに余裕ぶってんじゃないわよ!」

 ギリギリと歯を食いしばりながら宙を睨みつける。

「以前は少し変な噂が出回るだけで落ち込んでいた子が……!」

 ノエラは学院時代にもリエルの根も葉もない噂を流しては落ち込む彼女を慰めて、自分は優越感に浸っていた。
 王宮となればもっとリエルの苦しむ顔が見られるかと思ったのに、あまりの余裕じみた顔をされてイライラするのだ。

「噂だけじゃ足りないわ。もっと徹底的に痛い目にあわせなきゃ」

 そんなことを呟いた瞬間、がさりと音がして人が現れ、ノエラはびくっとした。
 誰かに聞かれたと思ったら、その相手が侍女長だったので安堵する。
 侍女長はリエルを嫌っている。その点で、ノエラと同じ考えを持っていた。

「いい方法がありますよ」
「侍女長」

 にやりと笑う侍女長を見て、ノエラも自然と口角が上がる。

「わたくしにお任せくださればよろしいかと」
「うふふ、話が早くて助かるわ」

 侍女長ならリエルに容易に接触することができる。
 ノエラは自身の鬱憤を晴らしてもらうため、侍女長と計略を練った。

(見てなさい。余裕ぶっていられるのも今のうちよ)



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