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王太子の偽善②
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「許すわけにはいかないわ。あなたは王宮で盗みを働いたのよ。あなたを解雇するしかないわね。そうでしょう? 殿下」
リエルはちらりとアランに目をやったが、彼は眉をひそめながらも複雑な表情をしている。
そして、使用人に愛想笑いを向けながら遠慮がちに言う。
「う、うむ……だが、そのような事情なら致し方ない。未遂で終わったんだ。もう一度チャンスを与えてはどうだろうか?」
リエルははぁっとため息をついた。
(そう言うと思ったわ。いい人を演じたいのね)
使用人はアランを見上げて涙ぐむ。
自分が哀れで不幸な生い立ちなのを訴えてアランの同情を引くことに成功したのだ。
周囲の使用人たちも笑みを浮かべる。
「アラン殿下、なんて慈悲深いお方なの」
「やはり殿下は素晴らしいお方だわ」
「それに比べて……」
使用人たちはリエルに軽蔑の視線を向ける。
この場ではまるでリエルひとりが悪者となっている。
前回は犯人を許して責め立てられ、今回は真逆の行動をして非難される。
結局みんな、リエルが気に食わないのだろう。
アランは極上の笑みを浮かべながら使用人に手を差し伸べた。
その態度にリエルは呆れて軽蔑の眼差しを向ける。
そんなことに気づくこともなく、アランは使用人に優しく声をかける。
「給金については侍女長に伝えておこう。もう二度と盗みを働かないと誓えるね?」
「はい、殿下。この御恩は一生忘れません。精一杯殿下のために働きます」
「ああ、そうしてくれ。これからもしっかり俺たちを支えてほしい」
「もちろんでございます!」
ふたりのやりとりを感動しながら見つめる周囲に対し、リエルはただ冷めた目を向けている。
このまま野放しにすると厄介だ。
一応、アランに忠告しておくことにした。
「殿下。お言葉ですが、一度盗みを働いた者は二度も三度も繰り返します。解雇が妥当かと存じますが」
それを聞いた周囲が一斉にリエルを責めるような目で見つめた。
アランは眉をひそめ、リエルに険しい顔を向ける。
「君には人の情というものがないのか? まるで人形のように冷たい女だな」
「何とでもおっしゃってくださって結構です。私はその者を許す気はございません」
「これは王太子である俺の判断だ。君の指図など受けない」
「今回許してまた同じことが起こった場合はどうなさるおつもりですか?」
アランはやれやれとでも言うように肩をすくめる。
「その者は今、俺と約束しただろう? 二度と盗みはしないとな」
「甘いですね」
「何?」
さすがにアランは痺れを切らしたのか、急に感情的になり、声を荒らげた。
「リエル、君はなんて薄情な人間なんだ。君は人の気持ちがわからないのか? この者は苦労してきたのだぞ。俺はこの国の民には皆に幸せになってもらいたい。そのために俺ができることは何でもするつもりだ」
アランはまるで正義を振りかざすように言い放った。
使用人たちからの尊敬の眼差しを受けて、彼ははますます盛り上がる。
「この俺の命ある限りな!」
アランが高らかと宣言したあと、周囲から歓声が上がった。
「殿下はなんて素晴らしいお方なのでしょう」
「このお方に仕えられて私たちは幸せだわ」
「殿下が王になられたらこの国は安泰ね」
リエルは吐き気がするほど気分が悪くなった。
リエルはちらりとアランに目をやったが、彼は眉をひそめながらも複雑な表情をしている。
そして、使用人に愛想笑いを向けながら遠慮がちに言う。
「う、うむ……だが、そのような事情なら致し方ない。未遂で終わったんだ。もう一度チャンスを与えてはどうだろうか?」
リエルははぁっとため息をついた。
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自分が哀れで不幸な生い立ちなのを訴えてアランの同情を引くことに成功したのだ。
周囲の使用人たちも笑みを浮かべる。
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「やはり殿下は素晴らしいお方だわ」
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その態度にリエルは呆れて軽蔑の眼差しを向ける。
そんなことに気づくこともなく、アランは使用人に優しく声をかける。
「給金については侍女長に伝えておこう。もう二度と盗みを働かないと誓えるね?」
「はい、殿下。この御恩は一生忘れません。精一杯殿下のために働きます」
「ああ、そうしてくれ。これからもしっかり俺たちを支えてほしい」
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それを聞いた周囲が一斉にリエルを責めるような目で見つめた。
アランは眉をひそめ、リエルに険しい顔を向ける。
「君には人の情というものがないのか? まるで人形のように冷たい女だな」
「何とでもおっしゃってくださって結構です。私はその者を許す気はございません」
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「このお方に仕えられて私たちは幸せだわ」
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