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嫌がらせには屈しない
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王宮へ来た翌朝。
使用人たちがリエルの部屋を訪れた。
「リエルさま、朝食をお持ちいたしました」
テーブルに並んだのは見るからに硬そうなパンと具のないスープ、それに熟しすぎて異様な匂いを放つ果物だ。おそらく腐っている。
リエルはそれを一瞥し、使用人に目を向ける。
愛想もなく人形のような顔つきで立っている。
単純な嫌がらせ。
前回も同じことがあったのでたいして驚くことはないが、どうしても気になることがある。
「エマはどこ?」
「はい?」
リエルの質問に使用人のひとりが眉をひそめた。
「私の連れてきた侍女はどこかと訊いているの」
少し強い口調で再度訊ねると、使用人は渋々答えた。
「あの者は王宮のことを何も知らないので下働きをさせております」
「私はそんな命令をしていないはずだけど?」
「それは、侍女長のご命令でございます」
リエルはため息をつく。
侍女長には回帰前に散々嫌がらせをされてきた。
今回はエマを連れてきたことがさっそく彼女の嫌がらせ対象となったらしい。
「では侍女長をここに呼んでちょうだい」
今回は弱い姿勢を一切見せない。
最初から侍女長と戦うつもりだった。
使用人のひとりが侍女長を呼びに行っているあいだ、他の者たちがひそひそと話した。
「やっぱりメイゼル令嬢とは大違いだわ」
「本当に品がないわ。侯爵家の私生児なんでしょ?」
私生児という言葉に眉をひそめるリエル。
それはまったくのデマだが、どうやらこの王宮ではそういう話が出回っているようだ。
(なるほど。私がここへ来る前にノエラが先に私に関する根も葉もない噂を流していたのね)
アランに殺された日に言われたことを思い出す。
彼はリエルが使用人たちを冷遇していると思い込んでいた。あれもノエラが吹き込んだのだろう。
実際にはリエルは彼女たちの嫌がらせにも黙って耐えていたのだが、何も言わないリエルを見て彼女たちは調子に乗り、嫌がらせに拍車がかかった。
(それならお望み通り、悪女を演じてやりましょうか)
やがて、険しい顔つきをした侍女長が現れた。
前回はどうすれば侍女長に気に入ってもらえるか、そればかり考えて彼女の顔色をうかがっていた。
しかし、どんなに努力をしても気に入られることはなかった。
下手に出るとますます侍女長は見下すだろう。
リエルはしっかり彼女を見据え、堂々とした姿勢で出迎える。
「何かご用でしょうか?」
「私の侍女を返してちょうだい。身のまわりの世話はあの子にしてもらうの」
「お言葉ですが、あの者はまったく使えません。使用人以下です。あのような者が次期王太子妃さまの侍女などふさわしくありません」
さも当然のことのように言い放つ侍女長に、リエルは鋭い視線を投げつける。
リエルは侍女長へ詰め寄った。
「エマは私の侍女なの。あの子を戻しなさい。これは次期王太子妃である私の命令よ」
まさか反論されるとは思わなかったのだろう。
侍女長の表情が引きつった。
その背後で使用人たちもざわついている。
「あと、これは何かしら?」
リエルがテーブルの料理を指さすと、侍女長は表情を硬くした。
「次期王太子妃にこのようなものしか出せないほど、この国の財政はひっ迫しているのかしら?」
侍女長はリエルを睨みつけながら唇を噛む。
「だとすれば大変な事態だわ。すぐにアラン殿下にご報告しなければならないわね」
侍女長はリエルが黙って食事をするとでも思ったのだろう。実際、回帰前のリエルはひたすら嫌がらせに耐えていたのだから。
しかし、我慢したところでいいことなどひとつもない。
しばらく睨み合っていたが、やがて分が悪いと思ったのか侍女長が折れた。
「……使用人が、間違えたようでございます。すぐに、作り直させます」
侍女長が悔しそうに拳を握りしめるのを、リエルはチラ見した。
使用人たちがリエルの部屋を訪れた。
「リエルさま、朝食をお持ちいたしました」
テーブルに並んだのは見るからに硬そうなパンと具のないスープ、それに熟しすぎて異様な匂いを放つ果物だ。おそらく腐っている。
リエルはそれを一瞥し、使用人に目を向ける。
愛想もなく人形のような顔つきで立っている。
単純な嫌がらせ。
前回も同じことがあったのでたいして驚くことはないが、どうしても気になることがある。
「エマはどこ?」
「はい?」
リエルの質問に使用人のひとりが眉をひそめた。
「私の連れてきた侍女はどこかと訊いているの」
少し強い口調で再度訊ねると、使用人は渋々答えた。
「あの者は王宮のことを何も知らないので下働きをさせております」
「私はそんな命令をしていないはずだけど?」
「それは、侍女長のご命令でございます」
リエルはため息をつく。
侍女長には回帰前に散々嫌がらせをされてきた。
今回はエマを連れてきたことがさっそく彼女の嫌がらせ対象となったらしい。
「では侍女長をここに呼んでちょうだい」
今回は弱い姿勢を一切見せない。
最初から侍女長と戦うつもりだった。
使用人のひとりが侍女長を呼びに行っているあいだ、他の者たちがひそひそと話した。
「やっぱりメイゼル令嬢とは大違いだわ」
「本当に品がないわ。侯爵家の私生児なんでしょ?」
私生児という言葉に眉をひそめるリエル。
それはまったくのデマだが、どうやらこの王宮ではそういう話が出回っているようだ。
(なるほど。私がここへ来る前にノエラが先に私に関する根も葉もない噂を流していたのね)
アランに殺された日に言われたことを思い出す。
彼はリエルが使用人たちを冷遇していると思い込んでいた。あれもノエラが吹き込んだのだろう。
実際にはリエルは彼女たちの嫌がらせにも黙って耐えていたのだが、何も言わないリエルを見て彼女たちは調子に乗り、嫌がらせに拍車がかかった。
(それならお望み通り、悪女を演じてやりましょうか)
やがて、険しい顔つきをした侍女長が現れた。
前回はどうすれば侍女長に気に入ってもらえるか、そればかり考えて彼女の顔色をうかがっていた。
しかし、どんなに努力をしても気に入られることはなかった。
下手に出るとますます侍女長は見下すだろう。
リエルはしっかり彼女を見据え、堂々とした姿勢で出迎える。
「何かご用でしょうか?」
「私の侍女を返してちょうだい。身のまわりの世話はあの子にしてもらうの」
「お言葉ですが、あの者はまったく使えません。使用人以下です。あのような者が次期王太子妃さまの侍女などふさわしくありません」
さも当然のことのように言い放つ侍女長に、リエルは鋭い視線を投げつける。
リエルは侍女長へ詰め寄った。
「エマは私の侍女なの。あの子を戻しなさい。これは次期王太子妃である私の命令よ」
まさか反論されるとは思わなかったのだろう。
侍女長の表情が引きつった。
その背後で使用人たちもざわついている。
「あと、これは何かしら?」
リエルがテーブルの料理を指さすと、侍女長は表情を硬くした。
「次期王太子妃にこのようなものしか出せないほど、この国の財政はひっ迫しているのかしら?」
侍女長はリエルを睨みつけながら唇を噛む。
「だとすれば大変な事態だわ。すぐにアラン殿下にご報告しなければならないわね」
侍女長はリエルが黙って食事をするとでも思ったのだろう。実際、回帰前のリエルはひたすら嫌がらせに耐えていたのだから。
しかし、我慢したところでいいことなどひとつもない。
しばらく睨み合っていたが、やがて分が悪いと思ったのか侍女長が折れた。
「……使用人が、間違えたようでございます。すぐに、作り直させます」
侍女長が悔しそうに拳を握りしめるのを、リエルはチラ見した。
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