今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ

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再びの王宮入り

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 そしてリエルが王宮へ行く数日前のことだ。
 リエルとともに王宮入りする侍女は父が決めた。
 しかしその侍女はリエルに嫌がらせばかりをしている者だった。

「まだまだ未熟なお前を躾けてもらうように命じた。心しておけ」

 父がリエルにそう言うと、そばにいた侍女はにんまり笑った。
 回帰前、この侍女は王宮の使用人や侍女長たちと結託して、リエルを虐めてばかりだった。
 だから、今回は数日前から対策を講じておいた。

「あ、あなた!」

 突如、継母が部屋へ飛び込んできて父に訴え出た。

「どうしたのだ?」
「わたくしの一番大切な宝石がございませんの。結婚するときにあなたにいただいた物よ」

 リエルはひそやかに笑みを浮かべる。
 そして、彼らに言い放つ。

「私はその者が高価な宝石を隠し持っているのを目撃しましたわ」
「なんですって!?」

 継母が驚愕の目をやると、侍女は狼狽えた。

「ち、違います。私はそのような……」
「すぐに調べろ」

 父の命令で侍女の部屋を捜索させると、使用人のひとりがベッドの下から宝石を見つけた。

「そんな……私ではありません!」
「ではなぜお前の部屋から私の妻の物が出てきたのだ?」
「ち、違います。旦那さま! 信じてくださいませ!」
「うるさい! お前は解雇だ!」
「そんな……!」

 リエルは彼らの様子を遠くで見つめながら笑みを浮かべた。

 その後、リエルはともに王宮入りする侍女としてエマを選んだ。
 エマが新人なので父は渋ったが、リエルはそれを押し通した。

 そして出発の日、たいした見送りもなくリエルはエマとともに王宮から迎えに来た馬車に乗った。
 道中、リエルは静かに窓の外の景色を眺めていたが、エマはガチガチに緊張していた。

「あのう……本当に私でよかったのでしょうか?」

 訊かれたリエルはエマに目を向けて、冷静に答えた。

「私があの家で唯一信用できるのはあなただけなのよ」
「そうなのですか?」
「ええ。だから、これから私のことを支えてくれる?」

 リエルはやんわりと穏やかな笑顔で訊ねた。
 エマはぱあっと明るい表情になり、嬉しそうに返事をした。

「もちろんです。全力でリエルさまのお世話をさせていただきます!」
「ありがとう。よろしくね」

 リエルはにっこり笑った。

 それ以外の者たちはあまりよい印象を抱いていない。
 それどころか、リエルを疎ましく思っている者たちばかりだった。
 エマは今までのリエルとあまり接点がないし、性格も素直で、何より父から監視の命令を受けていない。

 とりあえず、回帰前の侍女を排除できたことはよかった。


 そして、再び訪れた王宮。
 回帰前はきらびやかな宮殿を見ると気絶しそうなほど緊張した。何度か訪れたことはあったが、暮らすとなれば別物だ。
 必死に王宮のことを覚えたあの頃がなつかしい。

 けれども今は、死ぬ前の悲惨な思い出ばかりが強烈に残っている。

 王宮の家臣と使用人たちに案内されながら回廊を歩いていた。
 エマは初めてということもありそわそわしているが、リエルはいたって冷静だ。見慣れた宮殿内のどこに何があるのかほとんど記憶している。

 ふと、前方から衛兵たちに囲まれたアランが厳かな様子で歩いてきた。
 リエルはどきりとして身構える。
 アランはリエルの前で足を止め、話しかけた。

「君が俺の妻となるリエルか?」

 リエルは落ち着いた表情で挨拶カーテシーをおこなう。

「王太子殿下にご挨拶申し上げます。カーレン侯爵家のリエルでございます」

 ゆっくりと顔を上げるとそこには見慣れた夫の姿。
 穏やかで善人の顔をしている。

(その顔に騙されたわ)

 憤怒に満ちた表情で罵倒し、何度もリエルの腹を蹴りつけたアラン。
 最後にはリエルの胸を貫いて殺した。

 よく考えてみたらアランに大切にされたことなど一度もない。
 政略結婚だからそれが当たり前で、夫のご機嫌を取ることが妻の役割だと信じて疑わなかった。
 そのあげくがあの結末だ。

(二度と繰り返さないわ)

 アランはリエルの態度に問題ないと思ったのか、比較的穏やかに話す。

「俺は忙しい。婚約期間とはいえ、君には王太子妃としての仕事をしっかりしてもらいたい」

(そうでしょうね。愛人とのおたわむれでお忙しいですものね)

 アランは誰にでもいい顔をする。
 見た目だけはいいので女が寄ってくる。
 だが中身は自分の思いどおりにならなければ気に入らない自己中な面がある。
 その上執務をおろそかにし、侍従を困らせている。

 リエルは淑女を演じ、丁寧に返事をする。

「殿下の仰せのままに」

 アランは満足げに笑った。


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