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仇敵との再会

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 翌日、リエルは自室で新聞記事をチェックしていた。
 そこには昨日の事件のことが書かれている。
 回帰前と違うのは死者がひとりも出ていないということだ。

 リエルはソファにもたれてふっとため息を洩らす。

(これで未来を変えられることがわかったわ。今後も少しずつ変えていかなきゃね)

 そして、なぜかグレンのことを思い出し、複雑な表情になった。

(それにしてもあの男、一体何者だったのかしら?)

 彼のおかげで助かったのはもちろんだが、仲間たちに指示して犯人たちを取り押さえていたところを見るに、事前に察知してあの店に待機していたのだろう。

(王宮騎士の家門かしら?)

 回帰前、リエルは王太子妃だったときに貴族の家門の名はほとんど暗記した。しかし、その中にグレンという名はなかった。

(もしかして、外国の人……?)

 そんな考えを思いめぐらせていたら、エマがリエルを呼びに部屋を訪れた。

「お客さまがいらしています」
「どなた?」
「メイゼル伯爵令嬢です」

 リエルはどきりとして一瞬身震いがした。

(来たわね、ノエラ。あなたが今日ここへ来ることはわかっていたわ)

 リエルは冷静に返事をする。

「すぐに行くわ」

 そう言ったものの、わずかに手が震えてしまう。
 リエルは深呼吸をして自分を落ち着かせると、表情を引き締めた。

(もう二度と騙されないわよ)

 リエルが応接ルームを現れると、そこにいたノエラは飛び上がって喜び、弾けんばかりの笑顔で駆け寄った。

「リエル、話は聞いたわ。あなた、王宮へ嫁ぐんですってね」

 リエルは目を輝かせて笑顔を向けるノエラをじっくりと見つめる。
 ゆるふわウェーブの金髪に、紫の瞳。大きな花柄模様のついたピンクのドレス。
 地味なドレスばかり親に着せられていたリエルとは大違いだ。

「一度は縁談を断ろうとしたのでしょ? わかるわ。あなたって学院時代から消極的な性格だったものね。いくら妃教育をしても、自信なんてないわよね」

 知ったような口を利く。
 リエルはただ真顔でノエラを見つめている。

「大丈夫よ。お父さまがよく王宮へ行かれるの。あたしも頻繁に顔を出すわ。不安だと思うけど、あたしがいるから大丈夫よ」

 リエルはうっかり笑いそうになるのを堪えた。

(よくもそんなことが言えるものね。王太子妃の座を狙っているくせに)

 リエルは笑顔でノエラの手を取り、明るく答える。

「まあ、ノエラ。嬉しいわ。あなたがいてくれたら私は心強いもの」
「そうでしょう? まかせて。親友のあたしがあなたをしっかりサポートするわ」
「ありがとう。やっぱりあなたは唯一無二の親友だわ」

 お互いに笑顔で手を取り合うふたり。
 だが、リエルの心は真逆だった。
 気分が悪くなるのを抑え、必死に笑顔を取り繕う。

(自分で演じておきながら寒気がするほどの茶番だわ)

「さあ、お茶でも飲みましょう。あなたの好きなケーキもあるわよ」

 リエルは笑顔のままノエラをお茶の用意されたテーブルへ促す。
 そこにはスコーンやケーキ、マカロンにクッキー、プディングなどさまざまなお菓子が並んでいる。

「あたしのために用意してくれたの? さすがリエル。あたしのことがよくわかっているのね」

 リエルは微笑みを崩さないまま、ノエラと対面してテーブルに着く。

(ええ、ノエラ。私はあなたの本性がよくわかっているの)

 お互いに向かい合って、にこやかに昔話を語りながら紅茶を飲む。
 ノエラはまったく疑う様子もなく、大好きなマカロンをかじっている。

 リエルは静かに紅茶を飲みながら、ふっと笑みをらした。

(そうね。まずはお望み通り、あなたに王太子妃の座を譲ってあげる)


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