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新しい出会い②
しおりを挟むリエルは立ち上がり、カウンターテーブルにある酒の入った自身のコップを手に持った。
そして転びそうになったふりをして、思いきり料理人に向かって酒をぶっかけた。
料理人は驚き、粉末の袋を床に落としてぶちまけてしまう。
リエルはわざとらしく声を上げて、店内の客たちに聞こえるように言った。
「まあっ、大変だわ! ごめんなさい。手が滑ってしまったの!」
リエルは慌てるふりをしながらカウンターテーブルの向こうへ駆けていく。
おろおろと狼狽えるエマの背後では、グレンが目を見開いて驚きの表情で絶句している。
隅のテーブルから様子を見ていた眼鏡の男が「ちっ」と舌打ちするのを、リエルは見た。
そして、わざとらしく声を上げる。
「あらまあ、綺麗な白粉だこと!」
すると眼鏡の男たちが一斉に立ち上がり、店から逃げようとした。
しかし、すぐにグレンの取り巻きがずらりと取り囲む。
「おい、懐にしまった袋を出せ」
「ちっ、くそっ……!」
眼鏡の男は殴りかかろうとしたが、グレンの仲間に返り討ちにされ、ぱたりと倒れた。その際、眼鏡は吹っ飛んだ。
「麻薬だ。治安隊に連絡するんだ」
袋を手にしたグレンの仲間が叫ぶと店内が大騒ぎになった。
逃げようとする客たちとそれを取り押さえようとするグレンの仲間たち。
そんな中、グレンはリエルに声をかけた。
「君、わざとやっただろ?」
リエルは真顔で彼を見つめていたが、やがてにっこりと微笑みに変わった。
「まあ、何のことかしら?」
とりあえず、すっとぼけてみたが、グレンには通用しないようだ。
彼は苦笑している。というかドン引きしているようだが、リエルはまったく気にしない。
「肝が据わっているどころじゃない。とんでもない女だ」
「あら、それは褒め言葉かしらね」
さらりと返すリエルに対し、表情が引きつるグレン。
リエルはにっこりと微笑んだまま、エマに声をかけた。
「帰るわよ」
「は、はい。お嬢さま」
エマはぺこりとグレンにお辞儀をして、リエルと一緒に店を出ていく。
グレンはしばらくリエルの背中を見つめていた。
グレンの仲間のひとりがこそっと耳打ちする。
「殿下、とんでもないものが見つかりました」
「何だ?」
「実は毒が……」
グレンはカウンターテーブルの向こうにぶちまけられた粉を指ですくって匂いを嗅いだ。そして、眉をひそめる。
「麻薬に似ていますが、これは遅効性の毒。これがスープに入れられていたら、ここにいた客はほとんど死亡していたかもしれません」
グレンは神妙な面持ちのあと、ふっと笑いを洩らした。
そして立ち上がり、店の入口を見て、もういないリエルの面影を浮かべる。
「本当に、面白い女だ」
グレンが被っていたフードを脱ぐと、しゃらんっと金の耳飾りが揺れた。
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