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逆行後①
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カーレン侯爵家の応接室で、バシンッと派手な音が響いた。
父がリエルの頬をぶったのだ。
使用人たちはその光景を眺めて複雑な表情で黙っている。
父は激怒した様子でリエルに怒鳴りつけた。
「アラン王太子殿下の縁談を断るだと? そんなわがままは許さん!」
リエルは父から目をそらし、頬に手を添えてじっとしている。
予想通りだったのでたいして驚いてはいない。
「お前の縁談に侯爵家の命運がかかっているんだ。王太子妃になるための教育まで受けさせたのに、今さら呆けたことを言うんじゃない!」
父があまりに声を荒らげるので、継母が横から口を挟んだ。
「まあ、あなた。落ち着いてくださいませ。少し臆病になっているだけですわ。嫁入り前の娘にはよくあることですもの」
継母がリエルの顔を覗き込む。
そして彼女は不気味な笑みを浮かべた。
「ねえ、リエル。この家はあたくしの息子、あなたの弟が継ぐの。あなたは王宮へ嫁いでこの家と王宮との橋渡し役をすると決まっているでしょう?」
リエルが継母を睨みつけると、彼女は苛立った様子で手を振り上げた。
リエルはとっさに継母の手を掴んで止めた。
そして、継母を見据えて冷静に話す。
「これ以上顔に傷をつけられると、お嫁に行けなくなります」
すると、穏やかだった継母が激変。
怒りの形相でリエルを罵った。
「ちっ、生意気な娘! お前の母親にそっくりだわ。病弱で役に立たない虫けら以下のゴミが」
母親を悪く言われてとっさに反論しようとしたが、寸でのところで耐えた。
今の自分はあまりにも立場が弱く、この状況を打破する力がない。
(ここで逆らうのは得策ではないわ)
リエルは諦めて、しおらしい顔でふたりに深く頭を下げた。
「わかりました。予定通り王宮へ参ります」
父と継母は一瞬驚いたが、それでも父はリエルを睨んで言い放つ。
「当たり前だ。お前に選択肢などない!」
その後、父にぐちぐちと生意気だなんだと散々言われたが、リエルは黙ってやり過ごした。
頭の中では別のことを考えている。
これから、自分の身を守る術を考えなければならない。
侯爵家はざわついていた。
なぜなら今まで父の命令に従っていたリエルが突如反抗的な態度を見せたからだ。
使用人たちはリエルの噂をしてまわった。
「お嬢さまが縁談を断ったんですって?」
「結局嫁いでしまわれるらしいけど」
「でも変なのよ。お嬢さまがまるで別人のようなの」
ひそひそ話していた使用人たちの横を、リエルは黙って通り過ぎる。
使用人たちは慌ててリエルから顔を背けて、廊下の掃除を再開した。
リエルは使用人たちを横目で見つめながら胸中でぼそりと呟く。
(そう見えるでしょうね。だって、私は昨日までの私じゃないもの)
廊下の窓から外に目をやると晴れやかな空が広がっている。
リエルはふと、殺された瞬間に夢に出てきた母のことを思い出した。
(なぜかはわからないけれど、私は1年前に戻ったみたいだわ)
雲一つない空に白い鳥たちがすうーっと舞い上がった。
父がリエルの頬をぶったのだ。
使用人たちはその光景を眺めて複雑な表情で黙っている。
父は激怒した様子でリエルに怒鳴りつけた。
「アラン王太子殿下の縁談を断るだと? そんなわがままは許さん!」
リエルは父から目をそらし、頬に手を添えてじっとしている。
予想通りだったのでたいして驚いてはいない。
「お前の縁談に侯爵家の命運がかかっているんだ。王太子妃になるための教育まで受けさせたのに、今さら呆けたことを言うんじゃない!」
父があまりに声を荒らげるので、継母が横から口を挟んだ。
「まあ、あなた。落ち着いてくださいませ。少し臆病になっているだけですわ。嫁入り前の娘にはよくあることですもの」
継母がリエルの顔を覗き込む。
そして彼女は不気味な笑みを浮かべた。
「ねえ、リエル。この家はあたくしの息子、あなたの弟が継ぐの。あなたは王宮へ嫁いでこの家と王宮との橋渡し役をすると決まっているでしょう?」
リエルが継母を睨みつけると、彼女は苛立った様子で手を振り上げた。
リエルはとっさに継母の手を掴んで止めた。
そして、継母を見据えて冷静に話す。
「これ以上顔に傷をつけられると、お嫁に行けなくなります」
すると、穏やかだった継母が激変。
怒りの形相でリエルを罵った。
「ちっ、生意気な娘! お前の母親にそっくりだわ。病弱で役に立たない虫けら以下のゴミが」
母親を悪く言われてとっさに反論しようとしたが、寸でのところで耐えた。
今の自分はあまりにも立場が弱く、この状況を打破する力がない。
(ここで逆らうのは得策ではないわ)
リエルは諦めて、しおらしい顔でふたりに深く頭を下げた。
「わかりました。予定通り王宮へ参ります」
父と継母は一瞬驚いたが、それでも父はリエルを睨んで言い放つ。
「当たり前だ。お前に選択肢などない!」
その後、父にぐちぐちと生意気だなんだと散々言われたが、リエルは黙ってやり過ごした。
頭の中では別のことを考えている。
これから、自分の身を守る術を考えなければならない。
侯爵家はざわついていた。
なぜなら今まで父の命令に従っていたリエルが突如反抗的な態度を見せたからだ。
使用人たちはリエルの噂をしてまわった。
「お嬢さまが縁談を断ったんですって?」
「結局嫁いでしまわれるらしいけど」
「でも変なのよ。お嬢さまがまるで別人のようなの」
ひそひそ話していた使用人たちの横を、リエルは黙って通り過ぎる。
使用人たちは慌ててリエルから顔を背けて、廊下の掃除を再開した。
リエルは使用人たちを横目で見つめながら胸中でぼそりと呟く。
(そう見えるでしょうね。だって、私は昨日までの私じゃないもの)
廊下の窓から外に目をやると晴れやかな空が広がっている。
リエルはふと、殺された瞬間に夢に出てきた母のことを思い出した。
(なぜかはわからないけれど、私は1年前に戻ったみたいだわ)
雲一つない空に白い鳥たちがすうーっと舞い上がった。
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