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64、私の他に側妃を迎えられますか?
しおりを挟むイレーナは急に恥ずかしくなり、頬を赤らめながら上目遣いでヴァルクを見つめた。
ヴァルクは驚いた表情でイレーナに問いかける。
「この施設で赤子が生まれたわけではないのか?」
「……はい、そうです」
「では、赤子の話は……お前のことか?」
「そのとおりです。ヴァルクさま、私はあなたの子を授かったのです」
ヴァルクはさらに驚いた顔をして目を見開き、しばし固まった。
イレーナは不安のあまりドキドキした。
ヴァルクが無言なので、イレーナは慌てて頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「申しわけございません。私はあなたに命じられた薬を飲み忘れてしまったのです。わざとではありません。お許しください。本当に、うっかりしていました。けれど、私はこの子を絶対に諦めたくな……」
「イレーナ!!!」
ヴァルクは必死に頭を下げるイレーナを抱き寄せた。
それから深く包み込んで、イレーナの髪をそっと撫でる。
「謝るな。めでたいことだろう」
「ヴァルクさま……?」
「そろそろ、話そうと思っていたんだ」
「……何を、でしょうか?」
ヴァルクは一度離れ、イレーナに笑みを向けた。
「俺の子を産んでほしいと」
今度はイレーナが驚き、絶句した。
目を見開いてじっと見つめるイレーナの顔をヴァルクが撫でる。
「お前も正妃になったことだ。本気で考えねばならないと思うようになった。だが、お前の身体は回復したばかりでそのような負担を強いるのは時期尚早ではないかと思ってまだ話さなかった」
ヴァルクはゆっくりと視線を下に向けて、ぼそりと言った。
「そうか。俺の子がいるのか。それは、すごいことだ」
「はい、そうです。すごいことですよ。皇子か皇女がいるのです」
ヴァルクはふたたびイレーナを抱きしめて、優しく呟く。
「皇女がよいな。お前に似て可愛らしく美しいのだろう。思いっきり甘やかしてやるぞ」
「もう。ヴァルクさま、気が早いですわ」
「皇子なら忙しくなるぞ。俺は教えるべきことが多くあるからな」
「そうですね。でも、私はどちらでもいいと思っています。無事に生まれてきてくれれば十分ですわ」
イレーナはそう言ったあと、少し戸惑ってしまった。
一般的な平民であればそれはそうだが、皇帝の子だ。
そういうわけにもいかない。
「申しわけございません。妃の立場として無責任なことを申しました」
「いいや。そのとおりだ。まだ見ぬ子のことなど神にしかわからない。無事に生まれてくれればよい」
イレーナはほろりと涙をこぼし、ヴァルクの胸にぎゅっと抱きついた。
「ところで、あの……」
「どうした? まだ何か訊きたいことがあるのか?」
「ええっと……今後のことなのですが」
「何だ? 遠慮なく申せ。お前は俺の妻だぞ」
イレーナは覚悟を持って気持ちを伝えてみることにした。
「では申し上げます。私があなたのお相手ができないときは、側妃を迎えられますか?」
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