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63、バレたら社交界で大騒ぎだわ

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 子どもたちが「赤ちゃん、赤ちゃん」と騒ぐので、リアが慌てて止めようとした。
 外部に洩れでもしたら大変なことになる。

 すると、ひとりのシスターが十字架を握って祈るように子どもたちに言った。


「神のご加護を受けるときは静粛であるべきです。せっかくの授かりものですよ。みなさんで静かにお祝いして差し上げましょうね」

 子どもたちは一瞬目を丸くしたが、やがて「はあい」と返事をした。


「私たち静かにします」
「決して外で騒ぎません」
「赤ちゃんのためにお祈りします」

 子どもたちが驚くほど素直に応じたので、イレーナは驚き、そして安堵した。
 シスターはにっこりと微笑んだ。


(ここが貴族のサロンだったら明日には社交界で大騒ぎだったわね)


 貴族に限らず大人たちはすぐに噂を広めてしまう。たとえそれが駄目だとわかっていても。
 目の前の子どもたちを見ていて、彼らがこれから学校へ行き、立派に育っていくのだと思うとイレーナの心は喜びに満ちた。


「ほう、この施設に赤子が生まれたのか? どこにいる? 祝福をやろう」

 ヴァルクの声がして、全員一斉に固まった。

 ヴァルクは正装ではなく、平民のようなラフな格好だった。
 しんと静まり返る中、ひとりの子どもがてくてく歩いてヴァルクに近づいて言った。


「皇帝陛下、このたびはおめでとうございます」

 事情を知っているリアたち関係者は『ぎゃあああっ』と声にならない悲鳴を上げた。
 ヴァルクは一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに子どもの頭を撫でた。


(もう隠せないわ。すぐにでも報告しなければ)


 心の準備はしておいたが、皇城に帰って報告するつもりだったので、イレーナはヴァルクにこっそり声をかけて別室へと向かった。
 そこで神妙な面持ちのイレーナに、ヴァルクは怪訝な表情をした。


「どうした? やはり具合が悪いのか?」
「それは……ええ、そうなのですが」
「無理をせず休養を取ればよかったのだ。連日の疲れが出ているのだろう? 医師から聞いたぞ」
「はい、あのう……そのことですが」

 イレーナの様子を見たヴァルクは何かを感じ取ったようだった。
 しかしヴァルクは予想外のことを口にした。


「もしや医師の誤診か? あいつ、何を聞いても歯切れの悪い回答をするのだ。能力がないならすぐにでも首に……」
「私のせいなのです。医師に黙っていてほしいと伝えました。実は私、病気でも体調不良でもないのです!」


 勢いで言い放ったイレーナに対し、ヴァルクは呆気にとられている。
 だが、イレーナがお腹の前で手を組んでもじもじしている様子を見て、ヴァルクは察した。


「お前、もしかして……」




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