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61、どうしよう、私すごく彼のことが好きだわ

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 それからはまた、多忙な日々の繰り返しだった。
 イレーナは正妃になったわけだが、ひとつ気がかりなことがあった。
 それは、お互いに愛情があるのかどうか。
 気持ちを確かめ合ったことが一度もないのである。

 身体の相性はもう、それこそ数えきれないほど確かめ合ったが、それは皇帝と妃との関係でこれまでずるずると続けてきたものである。
 というよりは、皇帝の欲求を晴らすためにイレーナが付き合っていただけだ。


(どうしよう、私すごく彼のことが好きだわ)


 いつの間にこれほど心が奪われてしまったのだろう。
 正妃とはいえ、形だけのものであると自分の立場をわきまえてはいるが、感情はそうもいかなかった。


(一度、彼の気持ちを聞いてみたい。でも、それで関係がこじれてしまったら……)


 イレーナは不安だった。
 なぜなら、皇帝は一度もイレーナをどう思っているのか直接口にしていないからだ。
 なんとなく、イレーナが勘違いしそうなセリフを彼は口にしているが、肝心な『愛の言葉』は一度もない。

 そんなときだった。


「ご懐妊です」

 イレーナは宮廷医師にそう告げられた。

「へっ?」
 とイレーナは呆気にとられたように固まった。


「まあっ! おめでとうございます!」

 リアが歓喜の声を上げた。
 使用人たちも口をそろえておめでとうの嵐である。

 最近ずっと微熱があり、連日の激務のせいか少し歩いただけで疲れて座っていたくらいだ。
 何か病にでもかかったのではないかと思い、今日は静養して主治医に診てもらった結果がこれだ。


「え、だってマタギ草が……」
「そういうこともあると思います」
「避妊していたのよ?」
「それを超えるほどの愛だったのですよ」

 リアは冗談で言っているのか本気なのか、イレーナには判断つかない。

 頭の中が混乱している。
 しかし思い起こしてみると、あのパーティの夜が原因かもしれない。
 久しぶりだからと浮かれていて、イレーナは毎朝飲んでいるマタギ草の薬のことを忘れてしまったのだ。


 いや、その機会を奪われたといっても過言ではない。
 だって、ヴァルクは翌日の昼間までイレーナを離さなかったのだから。


「早く陛下にお知らせしなければ」
「北部の視察からお帰りになるのは明後日くらいだから、そのときに」

 リアと使用人たちが盛り上がる中、イレーナは冷静に話した。


「私からお話するから、みんなは黙っていてくれるかしら?」

 イレーナは素直に喜んではいなかった。
 もちろん、子を授かったことは素晴らしいことで、当然産むことを選択するだろう。

 だが、ヴァルクはどう思うだろうか。




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