人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ

文字の大きさ
上 下
60 / 66

60、正妃になって初めての夜です

しおりを挟む

 昔話を聞いたイレーナは仰天し、慌ててヴァルクに謝罪した。


「申しわけございません! 知らなかったとはいえ、ヴァルクさまに残飯を食べさせるなんて……しかも、そんなスープの分け方をして……」
「あのときはそれが最善の方法だったのだ。誰かのスープを与えたら、その誰かは食べられないだろう。幼子おさなごにしてはよく思いついた」


 ヴァルクはけろりとして言った。
 しかし、イレーナは恐縮している。


「ああ、私はとんでもないご無礼を……」
「お前は気にしすぎだ。だが、まあ無礼の償いをしてもらうのも悪くない」
「はい。何をすればよろしいでしょうか?」


 不安げな顔で見つめるイレーナを見て、ヴァルクはにやりと笑った。
 彼はイレーナを抱き寄せて、その顔を近くでじっと見つめた。


「ずいぶんと長くご無沙汰のようだ」
「えっ……あ、はい。怪我が治るまでは安静にとヴァルクさまが言ってくださったおかげで」
「だが俺はもう我慢できない」
「ええっ!?」


 ばたんっと勢いで押し倒されてしまった。
 こうなることはわかっていたが、それでもイレーナはドキドキしている。


(どうしよう。久しぶりだから緊張するわ)


 とはいえ、まだ行事は終わっていない。
 明日も早くから多くの人と会う予定になっている。


「あ、あの……いろいろ、今は(心の)準備が……」
「気にするな。明日の午前中の予定はすべてキャンセルだ」
「ええ? なぜそのような……」
「正式な妻となったお前との初夜を誰にも邪魔させるつもりはない!」

 声高に宣言するヴァルクに、イレーナは半分嬉しさ、半分複雑な気持ちだった。


(それはあまりに横暴な……テリーさんが可哀想だわ)


 そうは思うが、イレーナもゆっくり過ごしたい気持ちはある。

「とりあえず何か理由を作って私と一緒にいたいわけですね?」
「ああ、そうだ」


(そんなに欲求不満だったのね。仕方がないわ。もうひと月以上ご無沙汰だものね)


 イレーナはすんなり受け入れた。
 これは妻としての務めだから、拒否することなどできない。


(まあ、拒否なんて絶対しないけどね♡)


 久しぶりにぎゅっと抱き合ってキスをした。
 イレーナは上目遣いで甘えるように声を出す。


「久しぶりだから優しくしてくれます?」
「俺はいつでも優しいぞ」
「うそばっかり。寝かせてくれないくせに」
「当たり前だ。寝るなよ」
「きゃああっ(歓喜)」


 こうしてバカップル(皇帝と側妃)は正式な夫婦となった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...