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52、大丈夫、生きています
しおりを挟むドレグラン帝国の町に突如現れたセシルア王国の軍勢はまるでパレードのように、華々しく都に行列を作った。
表向きは国賓を迎える体であり、民はみな同盟国の来訪を歓迎していた。
そんな町中の歓迎ムードとは裏腹に、城内は大騒ぎだった。
「どういうことだ? セシルア王国の来訪など予定にはなかったぞ」
何も知らされていない者たちは大混乱に陥っていた。
そして、クーデターの首謀者である侯爵は帰還した皇帝に追い詰められていた。
「へ、陛下……お早い、お帰りでございまして……」
焦る侯爵にヴァルクは半笑いで詰め寄る。
「なかなか粋な演出だな、侯爵。わざわざ傭兵を大量に雇って俺を出迎えてくれるとは」
「な、何のことだか……」
「だが、甘かった。お前は俺が【冷酷非道】と呼ばれる所以を知らない」
「へっ……?」
一瞬の動きも見えず、ヴァルクの剣が侯爵の耳をかすり、壁に突き刺さった。
「やり手の暗殺者。残虐な死刑囚。どれだけ強者を集めようが、俺の首を取ることはできない」
侯爵の耳たぶから血が滴り落ちる。
「さて、どうしてやろうか。反逆者に処刑では生ぬるい。まずは耳と鼻、そして腕、そのあと足を落としてからゆっくり考えてやろう。もちろん、生かしたままでな」
「ひいぃいいいっ……!」
侯爵は床に崩れ落ち、失禁した。
*
「……イレーナ、イレーナ」
何度か呼びかけられて、イレーナは意識を取り戻す。
重いまぶたをどうにか開けると、なつかしい顔がそこにあった。
ほんの数日のあいだ見なかっただけなのに、会えたことが嬉しくて胸が震える。
イレーナは精一杯の笑顔を作った。
「おかえり、なさいませ……」
「なんと酷い姿だ。お前をこんな目に遭わせた奴らを許せない」
「だ、大丈夫です……生きていますから。またあなたにお会いできて、よかった……」
ヴァルクの大きな手に抱きかかえられて、イレーナは幸せな気分に浸った。
だが、彼は怒りのあまり震えが止まらないようだ。
すぐに周囲の衛兵に命令した。
「イレーナ妃を拷問した奴らとその関係者を全員俺のところへ連れて来い。俺の手でひとり残らず殺してやる」
それを聞いたイレーナは痛みも疲れも忘れて、ぱっちり目を開けた。
「陛下、いけません。むやみに殺しては貴族派たちの怒りを買って内戦になってしまいます」
「かまわん! 戦を仕掛けてくるなら上等だ。迎え撃ってやる」
イレーナは抑えていた感情が爆発したように、両手でヴァルクの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけるように訴えた。
「だめです! 戦争なんてしないでください! また親のない子を増やすのですか!」
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