52 / 66
52、大丈夫、生きています
しおりを挟むドレグラン帝国の町に突如現れたセシルア王国の軍勢はまるでパレードのように、華々しく都に行列を作った。
表向きは国賓を迎える体であり、民はみな同盟国の来訪を歓迎していた。
そんな町中の歓迎ムードとは裏腹に、城内は大騒ぎだった。
「どういうことだ? セシルア王国の来訪など予定にはなかったぞ」
何も知らされていない者たちは大混乱に陥っていた。
そして、クーデターの首謀者である侯爵は帰還した皇帝に追い詰められていた。
「へ、陛下……お早い、お帰りでございまして……」
焦る侯爵にヴァルクは半笑いで詰め寄る。
「なかなか粋な演出だな、侯爵。わざわざ傭兵を大量に雇って俺を出迎えてくれるとは」
「な、何のことだか……」
「だが、甘かった。お前は俺が【冷酷非道】と呼ばれる所以を知らない」
「へっ……?」
一瞬の動きも見えず、ヴァルクの剣が侯爵の耳をかすり、壁に突き刺さった。
「やり手の暗殺者。残虐な死刑囚。どれだけ強者を集めようが、俺の首を取ることはできない」
侯爵の耳たぶから血が滴り落ちる。
「さて、どうしてやろうか。反逆者に処刑では生ぬるい。まずは耳と鼻、そして腕、そのあと足を落としてからゆっくり考えてやろう。もちろん、生かしたままでな」
「ひいぃいいいっ……!」
侯爵は床に崩れ落ち、失禁した。
*
「……イレーナ、イレーナ」
何度か呼びかけられて、イレーナは意識を取り戻す。
重いまぶたをどうにか開けると、なつかしい顔がそこにあった。
ほんの数日のあいだ見なかっただけなのに、会えたことが嬉しくて胸が震える。
イレーナは精一杯の笑顔を作った。
「おかえり、なさいませ……」
「なんと酷い姿だ。お前をこんな目に遭わせた奴らを許せない」
「だ、大丈夫です……生きていますから。またあなたにお会いできて、よかった……」
ヴァルクの大きな手に抱きかかえられて、イレーナは幸せな気分に浸った。
だが、彼は怒りのあまり震えが止まらないようだ。
すぐに周囲の衛兵に命令した。
「イレーナ妃を拷問した奴らとその関係者を全員俺のところへ連れて来い。俺の手でひとり残らず殺してやる」
それを聞いたイレーナは痛みも疲れも忘れて、ぱっちり目を開けた。
「陛下、いけません。むやみに殺しては貴族派たちの怒りを買って内戦になってしまいます」
「かまわん! 戦を仕掛けてくるなら上等だ。迎え撃ってやる」
イレーナは抑えていた感情が爆発したように、両手でヴァルクの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけるように訴えた。
「だめです! 戦争なんてしないでください! また親のない子を増やすのですか!」
112
お気に入りに追加
1,862
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。
おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子
設定ゆるゆるのラブコメディです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる