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49、悲惨なお茶会になりました
しおりを挟むリアが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれるものの、イレーナは気が動転している。
それほど経たないうちに、背後から男の声がした。
「アンジェさま」
駆けつけたのは騎士団長だった。
彼は侍女たちに「退け」と命令し、アンジェを抱きかかえる。
そして、彼は険しい顔つきで言った。
「毒だ」
騎士団長の言葉に周囲は驚愕し、悲鳴じみた声が上がった。
イレーナは混乱し、手が震えている。
(嘘でしょう? このお茶の中に毒が混ざっていたの?)
最初からお茶に毒が混入されていたのだろうか。
しかし、イレーナに症状はない。
「アンジェさま、アンジェさまあっ!」
泣き叫ぶ侍女と狼狽える使用人たち。
そして、騎士団長は必死の形相でアンジェに声をかける。
「吐き出してください。アンジェさま」
とは言ってもアンジェはすでに意識が混濁している。
それに、いつ毒を飲んだのか不明なのだ。
イレーナが見ていた限りでは、アンジェは最初にひと口、そして、イレーナと話しているときにひと口お茶を飲んでいた。
いや、しかしこれが遅効性の毒であれば、イレーナとの茶会の前にすでに毒を飲んでいた可能性もある。
(一体、誰がアンジェさまに毒を?)
イレーナは混乱する思考をなんとか落ち着かせようと呼吸を整える。
騎士団長は苦肉の策で、アンジェに口づけた。
吸い上げて毒を吐き出させようとしているようだ。
何度か彼が吸っていると、アンジェは突如むせ返し、鮮血を吐いた。
「きゃあああああっ!!!!!」
侍女たちが悲鳴を上げた。
*
「アンジェが毒を飲んだだと!?」
侯爵のもとに侍従が報告に訪れた。
「はい。イレーナ妃との茶会で、アンジェさまが倒れられ、吐血されました。今は意識不明の状態でお命にかかわるようでございます」
「くそっ! なぜアンジェが飲むのだ? 計画は失敗か!」
「はっ……そのようで」
ふたりのやりとりを聞いていた黒ローブの男が、にやりと笑みを浮かべながら侯爵に話しかけた。
「そうでもありませんよ。やり方は違いますが、これでイレーナ妃を犯人に仕立て上げ、投獄することができます」
「あの妃がやったという証拠はどうする?」
侯爵の問いに侍従が渋々返答する。
「実は、茶会の場には妃さまたちおふたりだけで、他の者は一切その場にいなかったようなのです」
「ほう、なるほど。アンジェ、よくやった。自身を犠牲にして相手に重罪を負わせるとはな」
王族を、しかも皇帝の正妃を毒殺しようとした罪は、この国では死刑に値する。
このままイレーナを犯人にすれば、確実に処罰が下されるだろう。
「さすが、わしの娘だ」
侯爵はにやりと笑った。
「イレーナ妃を投獄し、拷問しましょう。そして、皇帝の悪行を吐かせるのです」
黒ローブの男はまるで感極まるように目を輝かせながら語る。
「皇帝はあの妃に惚れ込んでいる。それは周知の事実。であれば、罪人である妃に肩入れした皇帝は帝国議会で裁かれることとなるでしょう」
なるほど、と侯爵は頷きながら答える。
「皇帝の権力が弱まった頃合いに、わしの率いる傭兵団がこの城を襲うのだな」
侯爵を筆頭にする貴族派たちが結束し、まず議会で皇帝を詰問し、味方を失ったところに、今まで地道に集めて強大な兵力となった傭兵団を使って反旗をひるがえす。
つまりクーデターである。
「そして、新たな皇帝となるのはあなたさまです」
「わしが皇帝だと? このわしが? ついに?」
侯爵はにやけながら歓喜のあまり震えている。
だが、黒ローブの男はその様子を見て、ひそかに胸中で呟いた。
(愚かな男だ。皇帝になるのはお前じゃない、この私だ)
クーデターが成功したら、男は侯爵を殺すつもりだった。
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