49 / 66
49、悲惨なお茶会になりました
しおりを挟むリアが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれるものの、イレーナは気が動転している。
それほど経たないうちに、背後から男の声がした。
「アンジェさま」
駆けつけたのは騎士団長だった。
彼は侍女たちに「退け」と命令し、アンジェを抱きかかえる。
そして、彼は険しい顔つきで言った。
「毒だ」
騎士団長の言葉に周囲は驚愕し、悲鳴じみた声が上がった。
イレーナは混乱し、手が震えている。
(嘘でしょう? このお茶の中に毒が混ざっていたの?)
最初からお茶に毒が混入されていたのだろうか。
しかし、イレーナに症状はない。
「アンジェさま、アンジェさまあっ!」
泣き叫ぶ侍女と狼狽える使用人たち。
そして、騎士団長は必死の形相でアンジェに声をかける。
「吐き出してください。アンジェさま」
とは言ってもアンジェはすでに意識が混濁している。
それに、いつ毒を飲んだのか不明なのだ。
イレーナが見ていた限りでは、アンジェは最初にひと口、そして、イレーナと話しているときにひと口お茶を飲んでいた。
いや、しかしこれが遅効性の毒であれば、イレーナとの茶会の前にすでに毒を飲んでいた可能性もある。
(一体、誰がアンジェさまに毒を?)
イレーナは混乱する思考をなんとか落ち着かせようと呼吸を整える。
騎士団長は苦肉の策で、アンジェに口づけた。
吸い上げて毒を吐き出させようとしているようだ。
何度か彼が吸っていると、アンジェは突如むせ返し、鮮血を吐いた。
「きゃあああああっ!!!!!」
侍女たちが悲鳴を上げた。
*
「アンジェが毒を飲んだだと!?」
侯爵のもとに侍従が報告に訪れた。
「はい。イレーナ妃との茶会で、アンジェさまが倒れられ、吐血されました。今は意識不明の状態でお命にかかわるようでございます」
「くそっ! なぜアンジェが飲むのだ? 計画は失敗か!」
「はっ……そのようで」
ふたりのやりとりを聞いていた黒ローブの男が、にやりと笑みを浮かべながら侯爵に話しかけた。
「そうでもありませんよ。やり方は違いますが、これでイレーナ妃を犯人に仕立て上げ、投獄することができます」
「あの妃がやったという証拠はどうする?」
侯爵の問いに侍従が渋々返答する。
「実は、茶会の場には妃さまたちおふたりだけで、他の者は一切その場にいなかったようなのです」
「ほう、なるほど。アンジェ、よくやった。自身を犠牲にして相手に重罪を負わせるとはな」
王族を、しかも皇帝の正妃を毒殺しようとした罪は、この国では死刑に値する。
このままイレーナを犯人にすれば、確実に処罰が下されるだろう。
「さすが、わしの娘だ」
侯爵はにやりと笑った。
「イレーナ妃を投獄し、拷問しましょう。そして、皇帝の悪行を吐かせるのです」
黒ローブの男はまるで感極まるように目を輝かせながら語る。
「皇帝はあの妃に惚れ込んでいる。それは周知の事実。であれば、罪人である妃に肩入れした皇帝は帝国議会で裁かれることとなるでしょう」
なるほど、と侯爵は頷きながら答える。
「皇帝の権力が弱まった頃合いに、わしの率いる傭兵団がこの城を襲うのだな」
侯爵を筆頭にする貴族派たちが結束し、まず議会で皇帝を詰問し、味方を失ったところに、今まで地道に集めて強大な兵力となった傭兵団を使って反旗をひるがえす。
つまりクーデターである。
「そして、新たな皇帝となるのはあなたさまです」
「わしが皇帝だと? このわしが? ついに?」
侯爵はにやけながら歓喜のあまり震えている。
だが、黒ローブの男はその様子を見て、ひそかに胸中で呟いた。
(愚かな男だ。皇帝になるのはお前じゃない、この私だ)
クーデターが成功したら、男は侯爵を殺すつもりだった。
101
お気に入りに追加
1,859
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる