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47、私は勘違いしていたんだわ
しおりを挟むイレーナは混乱して頭が上手くまわらなくなっている。
ただわかるのは、この場を収めるために自分が口をつぐむことだけ。
イレーナが黙り込んでしまったので、アンジェはふっと笑みを浮かべた。
その目はまるで汚いものでも見ているかのように蔑んでいる。
「妃がふたりいる意味をご存じ?」
「はい。アンジェさまは陛下の一番の妃であり、陛下とともに政務や外交をおこなう立場のお方です。そして、私は跡継ぎのためだけの妃に過ぎません」
アンジェの求めている答えを言ったつもりだったが、彼女はさらに険しい表情になった。
「勘違いしないでちょうだい。あなたは子を産むだけよ。子が皇太子になったとしても、あなたはただの乳母に過ぎないわ。なぜなら、わたくしが母になるのですからね」
わかっている。
よその国では子を産んだ妃とその一族が権力を握ることになるので、血生臭い後継者争いが勃発する。
お互いにあらゆる汚い手を使って相手の子を暗殺するのだ。
この国では妃はおろか侍女が仮に皇帝の子を産んだとしても、その子どもは正妃の子となる。
アンジェは絶対的な皇帝の妻であり、その立場は決して揺るがないのである。
イレーナはいわば、アンジェが子を産めないときの身代わりに過ぎない。
側妃の立場はあまりにも低い。
(アンジェさまの言うとおり、私は少し勘違いしていたんだわ)
あまりにもヴァルクが優しく接してくれるから、彼と過ごす時間が楽しくて幸せだったから、イレーナはヴァルクと本物の夫婦だと心のどこかで期待してしまっていた。
すべては幻だ。
アンジェが目を覚まさせてくれた。
「今はわたくしとあなたで真逆の立場になっていることは理解できるわよね?」
「……わかります。ですから、今後は発言に気をつけたいと思います」
愚かなことを言ったとイレーナは反省した。
正妃のような発言は今後、決して口にしてはいけない。
(やだ……泣きそう)
イレーナは町で過ごしたヴァルクとの時間を思い出し、感情が敏感になっている。
しかし、ここで泣いてしまってはアンジェを悪者にしてしまう。
アンジェはこの国における正しい発言をしただけなのだから。
「ありがとうございます、アンジェさま。自惚れていた私に助言をしてくださって」
イレーナが笑顔で礼を言うと、アンジェは驚いた表情で固まった。
まさか礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
アンジェは怪訝な表情で訊ねる。
「あなた正気? わたくしはあなたのドレスを汚したのよ」
「戻ってすぐに洗濯しますから。私はシミの落とし方をよく知っているんです」
「シミの落とし方? あなた、何を言っているの?」
アンジェが呆気にとられているので、イレーナは少し心が軽くなった。
もう彼女は怒っていないようだ。
「アンジェさま、私は何も望みません。妃になったのも皇帝の命を受けたからです。それ以外に理由などありません。ですから、私はこの城で地位や権力を欲することは決してありません」
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