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42、陛下がちょっと変ですね
しおりを挟む久しぶりのふたりきりに、イレーナは妙に緊張した。
ヴァルクはソファに腰を下ろし、となりに座るようイレーナを促す。
イレーナがとなりへちょこんと座ると、彼は先ほどの話の続きを始めた。
「なぜチョコレートを思いついた?」
「以前、私の国で菓子職人がチョコレートを溶かして薔薇の花の形を作ったことがあるのです。それを応用すれば他のものもできるのではないかと」
「なるほど」
「あとは、ナグス王国との差別化も図れます。ナグス王国は年中通して暑い季節が多いので、チョコレート菓子はあまり好まれません。すぐに溶けてしまうので商売にならないのです。ですが、我が国の気候はやや温暖でどちらかといえば寒い時期が多いです。ですから……」
「わかった。十分だ」
ヴァルクは満足げに笑い、イレーナを抱き寄せる。
ごつごつした大きな手が肩を抱く感覚はまるですっぽりと包み込まれているようだ。
(ひ、久しぶりすぎてドキドキするわ!)
イレーナは硬直したまま黙り込む。
そのまま抱きしめられてキスでもされるのかと思いきや、ヴァルクはイレーナの肩を抱いたまま冷静に話を続けた。
「ひとりで出かけてもつまらないな。何を見ても、何か足りない気がしてならない」
「それは、どういうことでしょうか? 護衛の方々がたくさんいらっしゃるのでは?」
「そういうことじゃないんだよ」
ヴァルクは眉根を寄せてイレーナを見下ろす。
イレーナが緊張ぎみに視線を合わせると、彼は静かに語った。
「お前がいなければ何を見てもつまらない」
イレーナは一瞬、思考が固まった。
ヴァルクがそれ以上言わないので、困惑しながらその意味を考えてみる。
そして思いついた。
(なるほど。陛下の言葉足らずを補ってくれる誰かが必要なのね!)
イレーナは笑顔で答える。
「わかりました。次に視察があるときは同行させてください。お役に立てるよう努めます」
ヴァルクはものすごく不機嫌な顔をした。
(え、えっ……なぜ? そういうことじゃないの?)
戸惑うイレーナをじっと見つめるヴァルクの表情は少々イラついている。
その気配を察したイレーナは笑顔のまま固まる。
ヴァルクはため息をついて少し遠くへ目線をやる。
「町で美味そうなものを見つけて食っても、たいして美味く感じられない」
「は? はぁ……それは残念でございましたね」
ヴァルクは目を閉じてさらに険しい顔つきになった。
イレーナは理由がわからず混乱する。
(今日はご機嫌が悪いのかしら? きっとお疲れなのね。早めに休んでいただきましょう)
イレーナは満面の笑みを向けてヴァルクに声をかける。
「ご多忙でさぞやお疲れのことでしょう。今夜はゆっくりお休みくださいませ」
すると、ヴァルクは不機嫌な表情になり、ついにイレーナを睨みつけた。
(ええーっ!? どうすればいいのよ!!)
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