人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ

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41、お久しぶりの陛下です

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「失礼ですよね? あの人、イレーナさまに挨拶もしないで」

 リアが不服そうに愚痴をこぼす。
 けれど、イレーナにはそのことを責め立てる勇気はない。


「いいのよ。普段そんなに接することもないしね」
「でも、イレーナさまは妃なのです。陛下の妻ですよ? 陛下に忠誠を誓う者の態度とは思えませんよ」
「きっと事情があるのよ」

 イレーナはアンジェのことを思い浮かべながら複雑な表情でそう言った。
 しかし、リアは納得しない。


「どんな事情であれ、立場的にあり得ない態度です。陛下に知られたらきっと罰を与えられるでしょうね」
「大丈夫よ。私は関わらないし、平気よ」
「イレーナさまは優しすぎます。妃としてもっと偉そうにしてもいいんですよ」
「……そうね。心得ておくわ」

 リアの言い分はごもっともなのだが、イレーナはとにかく騎士団長とは関わりたくなかった。


(あの現場を見なければ、もっと気持ちも楽だったでしょうけれど)


 墓場まで持っていく秘密だ。
 しかし、ひとりで抱えるには結構なストレスである。


(とはいえ、絶対に言えないわ)


 不貞腐れる表情のリアに、イレーナはただ苦笑することしかできなかった。
 そして、その日の夜もいつもと変わらず就寝する予定だったのだが、突然の知らせが入ってきた。


「イレーナさま! 陛下がいらっしゃるそうです!」
「えっ……?」
「しかも、すでにこちらへ向かっています」
「嘘でしょ。だって……」

 何の予告もなかったのだ。
 しばらく会っていないので油断していた。
 今夜もきっと会えないだろうと思っていたので、イレーナはまったく準備をしていない。


「急いでお着替えとメイクを……」
「間に合わないわ」
「でも……」

 慌てるリアに向かってイレーナは諦めたように笑った。


「だって、もういらしているもの」

 部屋の扉が開いて、侍従と護衛を引きつれたヴァルクがすでに現れていた。
 久しぶりに見た彼は変わらず元気そうだ。


「息災だな」
「陛下もお元気そうで何よりです」
「ナグス王国でこのような菓子が流行っているようだ。町で商人が売っているのを手に入れたぞ」

 侍従のテリーが持っていた箱を開けると、そこには金の飴細工で作られた花飾りがあった。


「綺麗ですね。飴細工と言っても結構な値段がするでしょう?」
「ああ、そうだ。だから、我が国でも菓子職人に作らせてみてはどうかと思った。ただ、まったく同じものでは真似しただけになってしまう。我が国特有の個性がほしいところなのだが……」

 イレーナは少し考えて、思いついたことを提案する。


「でしたら、チョコレートではいかがでしょう? 飴細工もよろしいですが、すでにナグス王国で流行っているのでしたら、こちらでは少し趣向を変えてみるのです」
「なるほど。応用するのだな。では、飴細工とともにチョコレートでも挑戦させてみよう。さっそく菓子職人ギルドに提案せよ」


 ヴァルクに言われてテリーは「かしこまりました」と返事をしてそのまま退室した。
 リアたちもにこにこしながら「私たちも失礼いたします」と言って出ていってしまった。


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