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38、いやだわ、やけにかっこよく見えてしまう

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「先生!」

 子どもたちは嬉しそうに声を上げながら司祭のまわりに集まった。
 彼らのこの笑顔を絶やすようなことは、誰も望んでいないはずだ。
 司祭の表情は初めて対面したときのように穏やかだった。


「そういえば先生、おばさんにお茶をかけたでしょ? ごめんなさいは?」

 突然子どものひとりが真面目な顔で彼に訊ねた。
 すると、もうひとりの子は腰に手を当てて責め立てる。


「先生がいつも言っているんだよ。悪いことをしたら謝らないとだめだって」

 子どもたちに詰め寄られて、司祭は悔しそうに歯噛みする。
 だが、子どもの手前、そうしないわけにはいかないだろう。
 彼はイレーナを半眼で見据え、抑揚のない声で言った。


「すまんかったな、おばさん」

 イレーナの顔面が硬直する。
 子どもたちのおばさん呼びを使ってわざわざ嫌味ったらしく言い放ったのだ。

 
(ほんっとに大人げない人!)


 この案件はイレーナが担当することになった。
 今後、帝国側との話し合いがおこなわれる際、イレーナが責任者として双方の意見を汲み取りながら進めていく。
 自分が皇帝との橋渡し役になると言った手前、断ることなどできない。


「お前ならできると思っている。だから俺は全面的にお前にまかせる」

 村から帰る道中、夕日に照らされたヴァルクの表情は黄金に輝いていた。
 そのようにイレーナには見えた。


(いやだわ。やけにかっこよく見えてしまう)


 褒め言葉と彼の笑顔と夕暮れ効果はイレーナの胸を簡単に熱く焦がした。
 それでも、少しばかり疑問を抱く。

「あの、ヴァルさまはどうして私のことをそれほど信用されているのですか?」
「お前のことをよく知っているからだ」

 その返答にイレーナは眉をひそめた。

 
「え? あのう、つかぬことをお聞きしますが、私たち以前にお会いしたことがありましたか?」

 単純な疑問だった。
 しかし、ヴァルクは急に驚いた表情でイレーナを凝視した。


「お前は! あれほどヒントを与えてやったのに気づいていないのか?」
「え? 何のお話でしょう?」
「賢い割に記憶力は乏しいのだな」
「どういうことですか?」


 ヴァルクがやけに感情的に声を荒らげるので、イレーナは狼狽えた。
 しかも、ついさっき褒めてくれたのに今は叱られている。
 混乱するイレーナを見て、ヴァルクは深いため息をついた。


「俺は、お前から具のないスープをもらって生き延びたんだよ」
「あ……あれ、私のことだったんですか?」
「どうして覚えてないんだよ!」


 イレーナは驚愕の表情で固まった。
 急いで記憶を辿ってみるものの、スープやパンを分け与えた人の数があまりに多くて顔を覚えていない。


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