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23、どうしよう……好き、かも?
しおりを挟むただ、これはチャンスかもしれない。
以前、この国について怪訝に思っていたことが脳裏をよぎる。
今なら聞き入れてもらえるかもしれないのだ。
同時に、侍従のテリーの言葉を思い出す。
――陛下はご自身のやり方に口出しをする者をもっとも嫌います――
今の彼ならイレーナに聞く耳を持つのではないか。
「あのう、私の宮殿を建てていただくよりも、その財源をもっと別のところにお使いいただきたいのですが」
ヴァルクはイレーナの髪を撫でたまま手を止める。
「別のところとは?」
「えっと……学校とか、いかがでしょう?」
予想外の答えだったのか、ヴァルクは目を丸くした。
「学校ならあるぞ。もっと増やせと?」
「それは貴族の学校でございましょう? 私が言っているのは平民のための学校です」
「平民が学校へ行くのか?」
意外だとでも言うように、ヴァルクは訊ねた。
するとイレーナは身体を起こし、真剣な表情で話した。
「はい。平民でも学のある子どもがいるのです。しかし平民ゆえに学校へ通うことができず、その才能を開花させることができません。もしかしたらその平民は将来、国を救う人間になるかもしれないのにです。もったいないことだと思いませんか?」
イレーナはつい熱弁してしまい、ハッと我に返って深く頭を下げた。
「申し訳ございません。少々出しゃばりました。お忘れくださいませ」
側妃の分際で皇帝に向かって意見を述べるなどあってはならない。
頭を下げたまま震えるイレーナの手を、ヴァルクは寝転んだまま握りしめる。
「あ、あの……」
「学校か。なるほど。考えてみよう」
「え? 本当でございますか?」
イレーナは驚愕し、思わずヴァルクの手を両手でぎゅっと握り返した。
「確かに国のためになる人間が増えるのは悪くない。だが、それには時間がかかるな。民の中でも王政に不満を持つ者がいるだろう。そのような者が学を持つと反逆を企てかねない。このことは時間をかけて話し合う必要がある」
「も、もちろんですわ!」
まさか自分の意見を受け入れてくれるとは思わず、イレーナは笑顔で明るく答えた。
それを見たヴァルクは満面の笑みを浮かべた。
その表情に、イレーナは胸が焦げつくほど熱くなった。
(やだ、どうしよう……好き、かも……)
そう思って、何とか思考を振り切る。
好きになってはいけない。
彼にとってあくまでイレーナは遊び相手であり、今だって羽毛のことも学校のことも有益だと判断して聞き入れてくれたにすぎない。
そこに、特別な感情はないはずだ。
「来い。寝るぞ」
「きゃっ……」
イレーナは手を引っ張られ、ふたたびヴァルクの胸にぴったりとくっついた。
そして、先ほどよりも密着したままぎゅっと抱きしめられる。
何もしていないのに鼓動が高鳴って、身体が熱を帯びて、このままでも溶けてしまいそうだ。
ドキドキしながら固まるイレーナに、ヴァルクがそっと話しかける。
「お前の国の平民は学校へ通っているのか?」
「はい。父上がそうしたのでございます」
イレーナは何とか落ち着いて返答した。
すると、彼は意外なことを口にした。
「そうか、ではお前の父を見習おう」
まさか、自国を褒めてもらえるとは思わなかった。
(どうしよう。本当に嬉しいわ)
イレーナはこの上なく幸せに包まれた。
けれど、あまりにドキドキしすぎて眠れなかった。
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