人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ

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24、どうして私こんなところにいるんだろう?

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 この日、イレーナは朝早くから起きて入念に身支度を整えた。
 ドレスは濃いブルーで淡い白と青の薔薇が散りばめられている。
 髪型は緩く巻いてドレスの装飾と同じ色の薔薇で飾られている。

 正妃が赤のドレスを好むから、イレーナはこのような形となった。


 本日はパーティではなく、皇帝と帝国議会の者たちに加えて貴族たちが集まる会議である。
 国の今後について話し合う場にイレーナの出席を皇帝が決めたのである。
 当然イレーナは怯えた。まさかそんな事態になるとは思いもしなかったから。


「アンジェさまに負けないくらいお美しいですよ」

 リアは早朝から気合いを入れてイレーナを着飾った。


「反感を買わないかしら?」
「堂々としていればよいのです。イレーナさまは陛下の妃さまなのですから」
「座っていればいいのよね?」
「そうでございます。凛とした姿勢で黙って連中を視線で刺しておけばよいのです」
「連中ってあなた……面白いわ」
「ありがとうございます!」


 イレーナが敗戦国の同盟国の公女で人質として嫁いだことを見下している連中は結構いるらしい。
 だから、皇帝はその場でイレーナが高貴な身分であることを強く印象づけたいのだろう。

「やってやるわ」

 イレーナは拳をぐっと握りしめた。


 大会議室には長テーブルがあり、中央に皇帝が鎮座し、周囲にずらりとお役人が並ぶ。
 皇帝のすぐ横が正妃アンジェの席で、イレーナは反対側。
 アンジェと向かい合う形で座る。
 アンジェと目が合ったイレーナは緊張のあまり手が震えた。


(どうして私こんなところにいるんだろう?)


 先ほどの威勢が吹き飛んでしまうほど心臓がバクバクしている。 
 しかし、なんとか顔には出さないようにぐっと唇を引き結ぶ。
 きっと表情がガチガチになっているだろう。 

 対するアンジェはさすが堂々たる姿。ゆったりと落ち着いていて微笑みを絶やさない。


(ああ、やっぱり正妃に敵うわけがないわ。オーラがまぶしすぎるもの)


 アンジェから放たれる気品は素朴なイレーナには強烈すぎた。
 しかし、イレーナはふと前日にヴァルクから言われたことを思い出す。
 緊張のあまり口数が少なかったイレーナに彼はこう言ってくれたのだ。


『お前は一国の姫として育った。だが、アンジェは令嬢にすぎない。王女と令嬢では立場が格段に違う。受けてきた教育もそうだ。お前は恐れず皆の前で堂々と王女の威厳を見せつけてやればいいのだ』


 イレーナを励ますために言ってくれたのだろう。
 だが、貧乏小国の姫と巨大な帝国の令嬢では、比較にならないではないか。
 そもそも比較するものではない。


(アンジェさまは食堂でバイトなんかしたことないわ。絶対ないわ)


 まずは帝国議会の者たちがそれぞれ国の治安や財政、他国勢力についての報告をして、話し合いがおこなわれた。
 当然のことながらイレーナはただ黙って耳を傾けるばかり。
 しかし、アンジェは時折、意見を述べた。
 外戚であるスベイリー家の一族が出席しているのもあるが、そこはやはり彼女自身の立場も影響しているだろう。

 対するイレーナには味方がひとりもいない。
 異国の地にひとりで嫁がされた姫の立場はこれほどに肩身の狭いものなのか。
 明るくはきはきしたアンジェと対照的に、イレーナは鬱々とした気分だった。

 会議が終盤に差しかかる頃、ヴァルクが突如その話題を口にした。


「最後に民のための学校の建設について議論したい」

 イレーナはどきりとしてヴァルクを見つめた。
 すると彼は余裕のある笑みをイレーナに返す。


「この提案はここにいるイレーナ妃によるものだ。私はこの件について皆と議論を交わしたい」

 皇帝陛下の言葉に周囲がざわついた。
 イレーナは感激のあまり震える。


(まさか、覚えてくださっていたなんて)



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