24 / 66
24、どうして私こんなところにいるんだろう?
しおりを挟むこの日、イレーナは朝早くから起きて入念に身支度を整えた。
ドレスは濃いブルーで淡い白と青の薔薇が散りばめられている。
髪型は緩く巻いてドレスの装飾と同じ色の薔薇で飾られている。
正妃が赤のドレスを好むから、イレーナはこのような形となった。
本日はパーティではなく、皇帝と帝国議会の者たちに加えて貴族たちが集まる会議である。
国の今後について話し合う場にイレーナの出席を皇帝が決めたのである。
当然イレーナは怯えた。まさかそんな事態になるとは思いもしなかったから。
「アンジェさまに負けないくらいお美しいですよ」
リアは早朝から気合いを入れてイレーナを着飾った。
「反感を買わないかしら?」
「堂々としていればよいのです。イレーナさまは陛下の妃さまなのですから」
「座っていればいいのよね?」
「そうでございます。凛とした姿勢で黙って連中を視線で刺しておけばよいのです」
「連中ってあなた……面白いわ」
「ありがとうございます!」
イレーナが敗戦国の同盟国の公女で人質として嫁いだことを見下している連中は結構いるらしい。
だから、皇帝はその場でイレーナが高貴な身分であることを強く印象づけたいのだろう。
「やってやるわ」
イレーナは拳をぐっと握りしめた。
大会議室には長テーブルがあり、中央に皇帝が鎮座し、周囲にずらりとお役人が並ぶ。
皇帝のすぐ横が正妃アンジェの席で、イレーナは反対側。
アンジェと向かい合う形で座る。
アンジェと目が合ったイレーナは緊張のあまり手が震えた。
(どうして私こんなところにいるんだろう?)
先ほどの威勢が吹き飛んでしまうほど心臓がバクバクしている。
しかし、なんとか顔には出さないようにぐっと唇を引き結ぶ。
きっと表情がガチガチになっているだろう。
対するアンジェはさすが堂々たる姿。ゆったりと落ち着いていて微笑みを絶やさない。
(ああ、やっぱり正妃に敵うわけがないわ。オーラがまぶしすぎるもの)
アンジェから放たれる気品は素朴なイレーナには強烈すぎた。
しかし、イレーナはふと前日にヴァルクから言われたことを思い出す。
緊張のあまり口数が少なかったイレーナに彼はこう言ってくれたのだ。
『お前は一国の姫として育った。だが、アンジェは令嬢にすぎない。王女と令嬢では立場が格段に違う。受けてきた教育もそうだ。お前は恐れず皆の前で堂々と王女の威厳を見せつけてやればいいのだ』
イレーナを励ますために言ってくれたのだろう。
だが、貧乏小国の姫と巨大な帝国の令嬢では、比較にならないではないか。
そもそも比較するものではない。
(アンジェさまは食堂でバイトなんかしたことないわ。絶対ないわ)
まずは帝国議会の者たちがそれぞれ国の治安や財政、他国勢力についての報告をして、話し合いがおこなわれた。
当然のことながらイレーナはただ黙って耳を傾けるばかり。
しかし、アンジェは時折、意見を述べた。
外戚であるスベイリー家の一族が出席しているのもあるが、そこはやはり彼女自身の立場も影響しているだろう。
対するイレーナには味方がひとりもいない。
異国の地にひとりで嫁がされた姫の立場はこれほどに肩身の狭いものなのか。
明るくはきはきしたアンジェと対照的に、イレーナは鬱々とした気分だった。
会議が終盤に差しかかる頃、ヴァルクが突如その話題を口にした。
「最後に民のための学校の建設について議論したい」
イレーナはどきりとしてヴァルクを見つめた。
すると彼は余裕のある笑みをイレーナに返す。
「この提案はここにいるイレーナ妃によるものだ。私はこの件について皆と議論を交わしたい」
皇帝陛下の言葉に周囲がざわついた。
イレーナは感激のあまり震える。
(まさか、覚えてくださっていたなんて)
116
お気に入りに追加
1,862
あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

継母と元婚約者が共謀して伯爵家を乗っ取ろうとしたようですが、正式に爵位を継げるのは私だけですよ?
田太 優
恋愛
父を亡くし、継母に虐げられ、婚約者からも捨てられた。
そんな私の唯一の希望は爵位を継げる年齢になること。
爵位を継いだら正当な権利として適切に対処する。
その結果がどういうものであれ、してきたことの責任を取らせなくてはならない。
ところが、事態は予想以上に大きな問題へと発展してしまう。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる