人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ

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20、女に体重の話は失礼ですわ!

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「少し重くなったな。食事の量を増やして正解だった」
「し、失礼ですわ! 女に太ったなんて言わないでいただきたいです」
「このほうが触り心地がいい」
「ひゃあっ!」

 腰を触られて驚いたイレーナがヴァルクに抱きついたので、クマはぺしゃっと潰れた。


 慌てて離れると、クマはふたたびふわりと元の形に戻った。
 イレーナは驚いて首を傾げていると、ヴァルクがにやりと笑って言った。


「それは商人ギルドに提案して作らせた試作品だが、発案者としてどう思う?」
「え? え……このクマちゃんのことですか? まさか羽毛でございますか?」
「そのとおりだ。お前の言ったアヒルで作らせたぞ」 

 
 イレーナはぽかんと口を開けて絶句した。
 たまたま公国にいた頃に、商売人からもらった本に書かれていたことなのだ。
 なんとなくそうなんだと頭の片隅に入れておいた知識を役立ててくれるとは驚きだ。


「調査してみたら、セシルア王国はまだアヒルを使ったことがないようだ。かの国ではアヒルは食用だからな」
「そうでございますか。では、今後は安価で大量生産できれば民たちも今よりふかふかのお布団で眠れますね」
「そうだ。ところで触り心地はどうだ?」
「たしかにマザーグースよりは劣りますが、それでも硬いお布団よりずっとふわふわで気持ちいいです」
「よし、わかった。さっそく生産会議をおこなわせるが、お前も参加するか?」
「ええっ? それは……」

 イレーナの胸中は歓喜にわいた。


 昔は公国で民にまぎれて商売人のところでいろいろ手伝ったりしたものだ。
 自分の考案したものを作って売ることの楽しさをすでに知っている。
 公女でなければ商売人になりたかったくらいだから。

 そうだ。落ち着かなければならない。
 妃が商売に手を出すなど、他の貴族たちからどう思われるか。
 この国は公国と違って権力争いの巣窟だ。
 いくら皇帝がよしとしても、ここはおとなしくしておくべきだろう。


「私は思いついたことを言っただけです。あとは商人の方々にお任せいたしますわ」
「そうか。それなら他にも何か思いついたことはないか? お前の意見を聞いてやろう。何でもいいぞ」
「え……?」


 まさかそんなことを言われるとは予想もせず、イレーナは驚いた。
 しかし、ヴァルクが冗談を言っているようには思えない。
 ただの人質でお飾りの妻なのに、彼は大切なことに関してイレーナに意見を求める。
 意外すぎて思いつかないので、イレーナはとりあえず言いたいことを口にした。


「あの、そろそろ降ろしていただけないでしょうか?」

 ヴァルクはぬいぐるみを抱っこしたイレーナを抱っこしたまま突っ立っているのだ。

 一瞬彼の表情が固まったので、イレーナは怒らせたかと危惧したが、そうではなかった。
 彼はにやにやしながらイレーナをベッドに降ろし、自身はとなりに座る。


「軽すぎて気づかなかった」
「先ほどは重いって……」
「気にするな。女は冗談が通じなくて困る」
「体重は一番気になるところなんです!」



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