人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

水川サキ

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17、何言ってんの? この人

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 正妃アンジェの部屋は広々としている。
 赤に金の刺繍が入った質のよい絨毯が敷かれ、豪華なシャンデリアと高級家具が揃い、テーブルには生花が飾られ、たくさんのお菓子が並んでいた。
 装飾品を身につけ、シルクのドレスを着たアンジェは、書庫で見かけたよりもずっと美しく着飾っている。
 本来の姿であるアンジェの気品はまぶしすぎて目が眩むほどだ。


「はじめまして、でいいのかしらね?」

 アンジェの言葉にイレーナはどきりとした。


(ああ、これ気づいてるわ。絶対そうだわ)


 イレーナはせめて命だけは助けてもらえるよう何とか交渉しようと思った。

「はじめまして。イレーナと申します」

 イレーナは丁寧に挨拶カーテシーをおこなう。
 すると、アンジェも自己紹介をした。


「アンジェと気軽に呼んでくださってかまわないわ。ああ、そうそう。人がいるのがあまり好きではないの。だから侍女もひとりしか付けないのよ。あなたの侍女も出ていってくれるかしら?」

 この部屋の前には護衛騎士がふたりいる。
 部屋には侍女がひとり控えていたが、そそくさと出ていった。


「わかりました。リア、部屋に戻っていいわ」
「しかし……」
「大丈夫よ。私もアンジェさまとふたりきりでお話がしたいと思っていたの」

 不安げな表情のリアに向かってイレーナはにっこり微笑む。
 リアは渋々部屋を退室した。


 この部屋には正妃と側妃のふたりきり。
 イレーナはいろんな意味で複雑な気持ちになる。

「お座りになって。紅茶を飲みましょう」
「はい、では失礼します」

 イレーナはアンジェと向かい合って座った。


 目の前にはサンドウィッチやスコーン、苺のケーキやクッキー、マカロンにチョコレートと食べきれないほどのお菓子が並ぶ。
 紅茶もいい色をして、ふわっと湯気が立つ。
 しかし、イレーナは躊躇してしまった。
 額に冷や汗をかく。
 すると、アンジェが紅茶をひと口飲んで笑った。


「毒なんて入っていないわよ。どうぞ」

 万が一にも毒殺されるのではないかと考えていたイレーナの心情を見事に読みとられた。


(まあ、ここで死んだら真っ先にアンジェさまが犯人扱いされるものね)


 イレーナはひそかに深呼吸する。

「いただきます」

 紅茶をひと口飲むと、香りがよく、とても美味だった。


(どうやら考えすぎだったようね)


 イレーナはほっと安堵したところへ、アンジェが話を切り出した。

「あなたはわたくしと騎士団長の関係を知ってしまったわね」

 その言葉にイレーナは動揺し、お茶を吹きそうになった。
 慌てて答える。


「誰にも言うつもりはありません。陛下にも絶対に言いません」
「そう。いい子ね」
 
 アンジェはにっこりと笑った。

「でも、あの……どうして?」


 イレーナはずっと考えていたが、不思議でならないのである。
 あの超絶元気な皇帝陛下のことを考えたら、わざわざ不倫をする必要などあるだろうか。
 アンジェは平然と答える。


「わたくし、陛下と相性が悪いの」

 イレーナは再度お茶を吹きそうになった。


(何言ってんの? この人)


 イレーナは羞恥のあまりアンジェから目をそらす。
 するとアンジェはにこにこしながら、ふふっと笑った。

「あら、可愛らしいわね。顔を真っ赤にしちゃって」



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