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15、見てはいけないものを見てしまった
しおりを挟む歴史書の棚で賢者のように冷静でいたら、奥の部屋から艶のある声が聞こえてきて、一気に皇帝との夜を思い出して赤面するイレーナ妃。
(違う違う違う! 私ったらなんてことを!)
ここは図書館だ。
城内のあらゆる人間が利用する人目につきやすい場所である。
そんなところで一体誰がこのような破廉恥な行為に及ぶのか。
(まったく理解できないわ!)
そんなことを思いつつも扉にこっそり耳をすませてしまう好奇心はぬぐえない。
イレーナが気になることはただひとつ。
一体、誰と誰がおこなっているのかということだ。
(侍女と騎士とかありそうだわ。もしくは侍女と庭師という渋い関係も。もしかして、侍女と陛下の重臣だったりして)
そんな考えをめぐらせていたところ、突如静かになった。
イレーナはこそっと近くの本棚の後ろへ隠れる。
しばらくすると扉が開いて、男が出てきた。
褐色の肌をした体格のいい男で、腰には剣を携えている。
(まさか、本当に騎士だったなんて。こんなまっ昼間からいいのかしら? 仕事は?)
次にフードを目深にかぶった女性が出てきた。
ふわっと美しい金髪がフードからはみ出している。
すると、騎士らしき男が女の髪をすべてフードの中にしまい込んだ。
「ありがとう」
「いいえ。少し無理をしましたな。お身体は平気ですか? アンジェさま」
イレーナは思わず声を上げそうになり、とっさに自分の口を手でふさいだ。
「名を呼ばないで。誰が聞いているかわからないわ」
「ご心配なさらず。もし見られたら、私がその者を抹殺して口封じをします」
イレーナは驚愕の表情でぐっと息を呑む。
「もう、あなたのそういうところ、陛下にそっくりだわ」
イレーナは額から冷や汗が滲み出る。
「何をおっしゃる? 残虐非道なあのお方に比べたら私など可愛いものではないですか」
イレーナは硬直したまま動けなかった。
ふたりはやがて何事もなかったかのように立ち去っていく。
そして、図書館を出る際にイレーナの護衛騎士たちと会ったようで、彼らの威勢のいい声が聞こえてきた。
「団長、お疲れさまです!」
(団長!?)
イレーナは驚愕した。
「占い師さまもご一緒だったのですね?」
(占い師!?)
もう、どこから突っ込んでいいのかわからなかった。
皇帝の第一妻である正妃アンジェ。
そして不貞行為の相手はこの国の騎士団のトップに君臨する、いわば皇帝の右腕のような男。
さすがに正妃に手を出してはまずいのではないだろうか。
このことを皇帝は知っているのだろうか。
いや、知っていたらあの騎士団長は殺されているだろう。
だから、あの男は「もし誰かに見られたら抹殺する」と言っていたのだ。
(だったらこんなとこでやめてよ!)
などというイレーナの悲痛な叫びは誰にも聞かれてはならない。
見なかったことにしよう。
そう、自分は今この書庫でただ本を読んでいただけだ。
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