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11、まさか、毒じゃないでしょうね?
しおりを挟む何度か深呼吸をすると収まった。
イレーナはふうっとため息をつく。
だが、鼓動はまだ収まらない。
「ところで、イレーナさま。先ほどのお薬なのですが、スープにしてお持ちいたしました」
「あら、そうなの……って、何これ?」
ピカピカに磨かれた艶やかなスープ皿に、青紫のどろどろした液体が入っていた。
しかも、強烈な異臭を放っているのだ。
(まさか、毒じゃないでしょうね?)
「これはマタギ草の薬でございます」
「マタギ草? 虫刺されに効くの?」
「違います。これは避妊薬です」
胸を張って堂々と言い放つリアを見て、イレーナは呆気にとられ、ぽかんと口を開けたまま固まった。
(え、待って……昨夜子作りをしたわよね? どうして避妊するの? 意味なくない?)
理解不能という表情のイレーナに、リアが満面の笑みで付け加える。
「陛下がイレーナさまを大変気に入られたようで、長く楽しみたいということでございます」
リアの背後で使用人たちが「きゃあっ」となぜか歓喜の声を上げた。
イレーナは表情を引きつらせながら辿々しく話す。
「えーっと……それは、つまり」
すぐに妊娠すると楽しめないからしばらく避妊しろということなのだろう。
つまるところ、イレーナは皇帝の子を産むための妃ではなく、皇帝の欲求を晴らすための妃となったわけだ。
昨夜のような行為をこれからもずっと続けていかなければならないのか。
イレーナは眩暈がした。
しかし同時に喜びの感情がわいてきたことも否めない。
(だって、結構、よかったんだもん♡)
皇帝が避妊しろと言うのだから逆らうわけにはいかない。
イレーナは強烈な異臭を放つ青紫の液体を息を止めてぐいっと飲んだ。
「うっ……ごほっ……まっず」
ものすごく不味かった。
吐き出しそうになり、とっさに口を押さえるも、リアは助けてくれるどころか真剣な表情で声を荒らげる。
「頑張ってください、イレーナさま! これも陛下との夜のお楽しみのためでございます」
「ちょっ……それ本気で言ってる?」
跡継ぎをもうけなければならないのに避妊する皇帝。
普通に考えたら変な話だ。
「最初のうちは副作用で吐き気を催すこともあるでしょうが、そのうち慣れますので耐えてくださいませ」
「耐え……いや、これ無理じゃない? 本当に慣れるの?」
「はい!」
なんとか飲み干したイレーナはすぐにパンをかじった。
口の中が泥臭さと香ばしいパンの味で微妙な気分になるが、仕方ない。
(ていうか、どうして私が飲まなきゃいけないのかしら? あちら側が飲む薬はないのかしら?)
あちらの都合なのだから、すべてあちらが背負うべきことなのに。
とは思うが、こういうことは女性側がどうにかするしかないのだろう。
(子を授かるのも産むのも育てるのも女だしね)
浅はかな知識を絞り出しながらイレーナは唸る。
この薬を毎日服用しなければならないとは、一体何の拷問か。
(はぁ……夫婦生活、前途多難!)
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