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5、こんな拷問、耐えられません!

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 さーっと青ざめて、反省するもすでに遅い。
 だが、唯一救いなのはヴァルクが笑っていることだろう。
 イレーナはぎこちない笑顔を向ける。

 ヴァルクはベッドに手をついてイレーナに顔を近づける。
 ベッドがギシッと音を立てた。
 イレーナはどきりとして硬直し、胸中で何度も繰り返す。


(騒がず、狼狽えず、されるがままに)


 しかしヴァルクは手を出してくることはなく、先ほどの話の続きをした。


「この布団は羽毛と言っても最高級だぞ」
「羽毛にランクがあるのですか?」
「そうだ。これはマザーグースというガチョウが使われている。その中でももっとも高いランクの羽毛だ。保温、保湿、触り心地すべてが最高級品だ」
「そうなんですか。そんな素晴らしいものを取り寄せるなんて、お目利きがよいのですね」

 感動するイレーナを見て、ヴァルクは肩をすくめる。


「侍従のテリーが言っていたことだ。俺はよく知らん」
「え……?」
「俺は計算能力も鑑定スキルもない。いくさで生きてきた男だからな」

 イレーナの表情が引きつる。


(ちょっと待って。この国大丈夫!?)


 ヴァルクはじっとイレーナの様子をうかがう。
 まさか心を読まれたのだろうかと不安になるが、彼は別のことに興味を向けたようだ。
 いきなりイレーナの腕を掴んだ。

「えっ……あ、あの」
「痩せすぎだな。お前の国は食糧が不足しているのか?」
「そんなことはございません。きちんと食事はしておりました」
「それなら、今後お前の食事をもっと増やすことにしよう。この肉付きでは触り心地が悪い」


 ヴァルクはいきなりイレーナの腰に腕をまわして抱き寄せた。

「きゃあっ……」

 イレーナは悲鳴を上げてすぐさま口をつぐむ。


(さ、騒がず……されるがまま……)


 ヴァルクはイレーナの腰を撫でたりお腹を撫でたりする。
 イレーナはドキドキしながら岩のように固まった。

「やはり硬いな。もっと肉を食わせないとな」


 イレーナはいつもの数倍ガチガチに固まっている。
 そして、そのままヴァルクに後ろ抱きバックハグをされた。

「ひゃっ……」

 悲鳴を上げそうになり、黙る。
 生まれてこのかた父親以外の男に抱きしめられたことがない。


「さて。お前に訊きたいことがある。俺の質問に答えるんだ」
「ひっ……」

 ヴァルクの吐息が耳に当たってイレーナはびくっと震えた。
 しかし、何があっても悲鳴を上げてはならない。
 もはや拷問である。


「あ、あの……この格好でお話するのですか?」

 恐る恐る訊ねると、ヴァルクはなぜかイレーナの顔を撫でた。

「ひあっ!?」

 イレーナの脳内は大パニックを起こしている。


「可愛いやつだな。まるで猫のようだ」
「は? 猫でございますか?」
「ああ、俺は猫が好きだ」
「わ、私も大好きですわ」
「なんだ気が合うな」
「そうでございますね!」
「こうするとよく鳴いていたな」

 ヴァルクはイレーナの耳から首筋まで指先ですうーっと撫でる。

「ひゃあぁ……!」


 イレーナは覚悟した。
 嫁いでわずか1日しか経っていないのに殺されるかもしれないと。

 それでも、騒がずにはいられないのだ。
 狼狽えずにはいられないのだ。


(ああ、お母さま。約束を破ってごめんなさい。こんな拷問、耐えられません!)



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