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21、お姉ちゃん、幸せになって【ミラベル視点】

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「この疫病神! あなたのせいでミラベルが怪我をしてしまったわ。妹に何か怨みでもあるの!?」
「まったくだ。病気の妹を連れ出すなんて、お前はどうしてそんなに非道な人間になったんだ。育て方を間違えてしまったな」

 両親は激怒して、アリアを別邸に追いやり、ふたりを会わせないようにした。
 ミラベルはアリアの無実を訴えたが、両親はまったく聞く耳を持たなかった。


「お前はなんて優しい子なんだ」
「そうね。あんな酷い姉なんて忘れてもいいのよ。もう姉だなんて思わなくていいわ」

 違うと何度訴えても、両親はにこにこ笑うだけだった。

 ミラベルは決意する。
 絶対にこの家を出てやると。


 ミラベルは自分で本を読み、たくさん勉強した。
 医学が学びたいと両親に話し、家庭教師をつけてもらった。
 両親はミラベルに激甘なので、何でも彼女の言うことを聞いてあげた。

 ミラベルの病気が落ち着いてきて、主治医は焦った。
 このままでは伯爵家での仕事を失ってしまうと。
 どうにかして病状を悪化させたい主治医の思惑をミラベルは見抜き、家庭教師を通じて別の医師を呼び寄せ、病気の治療をしてもらった。
 伯爵家の主治医は医療ミスというよりは、故意によるものだったので、医師免許を剥奪された。


 ミラベルは家を出る準備を整えて、嫁いでしまったアリアに会いにアトラーシュ侯爵家を訪れた。
 フィリクスは少し頼りない感じがしたが、素直で優しく、姉を大切にしていることが話していてわかった。

 だが、姉のアリアは自分の本心を隠していた。
 姉の姿を見たミラベルは一芝居打つ。


「旦那さまは、私のものよ。今まではあなたに何でも譲ってきたけど、彼だけは絶対に譲れない」

 姉が初めて見せる本音だった。
 ミラベルはとても嬉しかったし、それにやはり、姉に対してうらやましくもあった。

  

 数日後、再びミラベルは侯爵家を訪れる。
 話し合いをしたフィリクスとアリアは、並んで立っていても心の距離が近づいたのがわかるほど、ふたりは穏やかで微笑ましかった。


「医学の先生の家に居候して学ぶことになったの。将来はアカデミーに行って、いつか立派な医師になるわ」

 ミラベルが今後のことを報告すると、アリアはとても喜んだ。


「あなたの輝かしい未来を応援しているわよ」
 とアリアが言った。

「ありがとう。私も、お姉ちゃんの未来が幸福であふれていることを祈ってる」
 とミラベルは言った。


 ねえ、お姉ちゃん。
 もし、あたしが病気じゃなかったら。
 あたしたち、本当はすごく仲良しの姉妹でいられたのかな。

 ほんのひとときだったけど、あのときお姉ちゃんがあたしを連れ出してくれた日のこと。
 自然が美しくて、風が気持ちよくて、あれほど生きててよかったと思えたことはなかったの。

 楽しくて、幸せで、嬉しかった。
 一生、忘れない思い出よ。


 お姉ちゃん、どうか幸せになって。


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