20 / 22
20、嫌いだけど大好きな姉【ミラベル視点】
しおりを挟むミラベルにとって姉のアリアは好きでもあって嫌いでもある。
病気がちで外出もままならないミラベルに、アリアはいつも優しく接してくれた。
アリアは町へ行って見てきたことをミラベルに話して聞かせた。
ミラベルは姉がうらやましかった。
姉のように健康体なら、一緒に買い物に行ったり観劇を見たりできたのに。
どうして自分だけ病気なのだろう。
家から一歩も出られないのがもどかしい。
美人で健康で自由で、どこへでも行ける姉に、ミラベルは嫉妬した。
幼少期からずっと家でじっとしているミラベルは、鬱憤が溜まって家族に八つ当たりするようになった。
両親はミラベルを気の毒に思い、何でも彼女に買い与えた。
ミラベルは両親に対して多くのわがままを言った。
そして、両親は何でも言うことを聞いてくれた。
しかし、姉のアリアだけは違った。
普段は優しかったが、ミラベルがわがままを言ったり両親を困らせたりすると、アリアは叱ったりした。
「お姉ちゃんにはあたしの苦しみなんてわからないわよ!」
そう言って姉を拒絶したこともある。
しかし、だからと言って姉が離れていくことはなく。
どれほどミラベルが暴言を吐いても、姉はそばにいてくれたのである。
「お姉ちゃん、外に出てみたい。いろんなものをこの目で見てみたい」
ある日、ミラベルは姉にぼそりとそんな思いを打ち明けた。
しかし、姉も両親と同様、無理だと言うだろう。
そう諦めていたのに、彼女は意外な返答をした。
「いいわよ。少し出かけてみましょう」
「うそ! いいの?」
「少しだけ、家の近所を散歩して帰るだけよ。実はね、本で読んだの。太陽の光を浴びたほうが元気になるんだって」
「わあっ、嬉しい!」
姉のアリアも笑顔だった。
両親はとても神経質で、ミラベルを決して外には出さないようにしていた。
主治医も両親の顔色を伺い、なるべく彼らの言うとおりに診断した。
アリアが毎日外出をするのは、王都で有名な医師のところに通っていたのだとか。
その医師はアリアに医学書を読ませてくれたり、病についての説明をしてくれた。
アリアは両親に、この医師に診察してもらえばミラベルの病気がよくなると進言した。
しかし、両親は子供の言うことに聞き耳を持たなかった。
というよりは、一部上級貴族との利権がらみで別の医師に変えることを両親が渋った。
「お姉ちゃん、緑がとっても綺麗。空はこんなに青いのね」
自然に触れたミラベルは見たこともないほど明るくなった。
今まで青白かった顔色は、頬が赤く染まって健康的な色になり、何より笑顔があふれた。
「あっ、お花が咲いてるわ。可愛い」
ミラベルが走っていくと、背後からアリアが叫んだ。
「ミラベル、そっちは危ないわ」
「えっ……?」
ミラベルは足を滑らせて水路に落下してしまった。
アリアによって何とか引き上げられたが、ミラベルは痛みのあまり大泣きした。
ミラベルは足を骨折していた。
これが、姉との一番幸福な思い出であり、姉との関係が絶たれてしまう出来事だった。
168
お気に入りに追加
3,951
あなたにおすすめの小説

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。


成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。
婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている
黎
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
あなはにす
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる