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20、嫌いだけど大好きな姉【ミラベル視点】
しおりを挟むミラベルにとって姉のアリアは好きでもあって嫌いでもある。
病気がちで外出もままならないミラベルに、アリアはいつも優しく接してくれた。
アリアは町へ行って見てきたことをミラベルに話して聞かせた。
ミラベルは姉がうらやましかった。
姉のように健康体なら、一緒に買い物に行ったり観劇を見たりできたのに。
どうして自分だけ病気なのだろう。
家から一歩も出られないのがもどかしい。
美人で健康で自由で、どこへでも行ける姉に、ミラベルは嫉妬した。
幼少期からずっと家でじっとしているミラベルは、鬱憤が溜まって家族に八つ当たりするようになった。
両親はミラベルを気の毒に思い、何でも彼女に買い与えた。
ミラベルは両親に対して多くのわがままを言った。
そして、両親は何でも言うことを聞いてくれた。
しかし、姉のアリアだけは違った。
普段は優しかったが、ミラベルがわがままを言ったり両親を困らせたりすると、アリアは叱ったりした。
「お姉ちゃんにはあたしの苦しみなんてわからないわよ!」
そう言って姉を拒絶したこともある。
しかし、だからと言って姉が離れていくことはなく。
どれほどミラベルが暴言を吐いても、姉はそばにいてくれたのである。
「お姉ちゃん、外に出てみたい。いろんなものをこの目で見てみたい」
ある日、ミラベルは姉にぼそりとそんな思いを打ち明けた。
しかし、姉も両親と同様、無理だと言うだろう。
そう諦めていたのに、彼女は意外な返答をした。
「いいわよ。少し出かけてみましょう」
「うそ! いいの?」
「少しだけ、家の近所を散歩して帰るだけよ。実はね、本で読んだの。太陽の光を浴びたほうが元気になるんだって」
「わあっ、嬉しい!」
姉のアリアも笑顔だった。
両親はとても神経質で、ミラベルを決して外には出さないようにしていた。
主治医も両親の顔色を伺い、なるべく彼らの言うとおりに診断した。
アリアが毎日外出をするのは、王都で有名な医師のところに通っていたのだとか。
その医師はアリアに医学書を読ませてくれたり、病についての説明をしてくれた。
アリアは両親に、この医師に診察してもらえばミラベルの病気がよくなると進言した。
しかし、両親は子供の言うことに聞き耳を持たなかった。
というよりは、一部上級貴族との利権がらみで別の医師に変えることを両親が渋った。
「お姉ちゃん、緑がとっても綺麗。空はこんなに青いのね」
自然に触れたミラベルは見たこともないほど明るくなった。
今まで青白かった顔色は、頬が赤く染まって健康的な色になり、何より笑顔があふれた。
「あっ、お花が咲いてるわ。可愛い」
ミラベルが走っていくと、背後からアリアが叫んだ。
「ミラベル、そっちは危ないわ」
「えっ……?」
ミラベルは足を滑らせて水路に落下してしまった。
アリアによって何とか引き上げられたが、ミラベルは痛みのあまり大泣きした。
ミラベルは足を骨折していた。
これが、姉との一番幸福な思い出であり、姉との関係が絶たれてしまう出来事だった。
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