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18、妹からの宣戦布告!?
しおりを挟む「お姉ちゃん、ちょっとふたりきりで話がしたいんだけど」
3日目の昼食を終えた頃のこと。
ミラベルがアリアを貴賓室に呼びつけたのである。
使用人も下がらせて、ふたりだけで大切な話をするというのだ。
嫌な予感がした。
そして、その予感は的中したのである。
「フィリクスさまって噂と違って、とてもしっかりしていらっしゃるのね」
アリアは冷静に「そうね」と返事をした。
すると、ミラベルはにっこりと満面の笑みを浮かべたあと、半眼でアリアを見据えて言った。
「そうそう。フィリクスさまには愛人がいて、お姉ちゃんはもうすぐ離婚するのよね?」
アリアはぴくっと眉をひそめる。
どこでその情報が漏れたのだろうか。
フィリクスに愛人がいるという噂があったのはわかるが、1年で妻と離縁することはふたりだけの話だったはず。
「旦那さまがあなたにそう言ったのかしら?」
「違うわ。使用人たちが話しているのを立ち聞きしただけよ。でも、フィリクスさまは愛人とは上手くいっていなくて、そのうち別れるっていう噂も聞いたの。でも、お姉ちゃんたちは離婚するんでしょ」
使用人に漏れていたのね、とアリアは嘆息した。
まあ、この屋敷で話していれば、誰かに聞かれることはあるかもしれない。
特に侍女のユリアはそういったことに敏感だから。
「だから何? あなたに関係あることかしら?」
否定しても無駄だと思い、簡潔に妹の真意を訊ねた。
予想はしているが、やはりミラベルはアリアの思ったとおりの発言をした。
「あたしがフィリクスさまをいただいてもいいでしょ。だって愛人に逃げられたあげく、妻にも逃げられるなんて、フィリクスさまがお可哀想だもの」
アリアはミラベルを真顔で見据える。
ここは感情的になっても意味がない。
堂々としていればいい。
妻なのだから。
「バカなことを言わないで。あなたには別の家門から求婚が来ているでしょう?」
「でも、私はフィリクスさまがいいの。今日初めてお会いしたけど、優しくて素敵なお方だわ」
「あなたの手におえる人じゃないわよ」
むしろ、妹と一緒になったらフィリクスは利用されてしまうかもしれない。
「いいのよ。愛の力さえあれば、どんな障壁も乗り越えられるもの」
アリアは口もとが歪んだ。
もやもやした感情が口から飛び出しそうになる。
「もうやめましょ。あなたと話す意味がないわ」
「お姉ちゃん、逃げるの?」
「え?」
不敵な笑みを浮かべながらこちらを見つめる妹の表情が、妙にイラついた。
「フィリクスさまから愛されていないことで自分に自信がないんでしょ」
「何言ってるの?」
「お姉ちゃんっていつもそうよね。両親があたしに構ってくれるからって、陰で嫉妬して、あたしにいい顔を見せてくれながら心では憎んでいる」
「バカなこと言わないで」
「図星でしょ」
何なのよ、この子。
喧嘩を売りに来たのかしら。
今までも妹に対して鬱憤が溜まっていたけれど、もう限界!
「まあ、お姉ちゃんがどう言おうとも、あたしはフィリクスさまに全力でアピールしていくつもりだから。彼と再婚するのはこのあたし」
「そんなこと絶対にさせないわ!」
つい感情が高ぶって大声で叫んでしまった。
すると、ミラベルは驚くでもなく、なぜか笑みを浮かべた。
「あら、どうして?」
ミラベルの問いに、アリアは思わず感情のままに答える。
「旦那さまは、私のものよ。今まではあなたに何でも譲ってきたけど、彼だけは絶対に譲れない」
アリアは自分の言葉にハッと我に返り、思わず口をつぐんだ。
そんなアリアを見たミラベルは、急にふふっと笑い出した。
「お姉ちゃん、フィリクスさまのことが好きなのね」
「え? ばっ……バカなこと」
アリアは混乱した。
すると、突如部屋の扉が開いて、フィリクスが現れた。
「今の話は本当か? アリア」
「旦那さま? え? どういうこと?」
「君の妹に呼び出されて、いいと言うまで部屋には入るなと言われたのだが、話を聞いてしまってつい……」
そこでアリアはハッとした。
ミラベルを見ると、彼女はクスクス笑っている。
「ミラベル、あなた……」
「あとは夫婦で話し合いでも何でもして。あたしは何だか体調が悪くなったからこれで失礼するわ。では、お騒がせしました。さようなら、侯爵さま」
そう言ってミラベルはさっさと出ていってしまった。
謀られた……!
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