1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

水川サキ

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12、これが真実の愛なのか?【フィリクス視点】

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 フィリクスにできることは、離縁するまでのあと1年、ひたすら妻のために尽くすことだった。
 彼女のためにいろんなことをしたかった。
 ほしいものや好きなものを何でも与えてあげたいと思った。

 これは罪滅ぼしなのか、それとも別の理由なのか。


 今夜は初めて夫婦で参加するパーティだ。
 アリアに似合いそうなドレスを自ら店に足を運んで選んだ。
 本当は一緒に行って彼女が試着する姿を見て購入したかったが、それを彼女は拒否するだろうと思った。


 アリアがパーティの身支度をしているあいだ、フィリクスはそわそわして落ち着かなかった。
 早く、妻のドレス姿が見たい。
 その欲求に耐えられず、つい部屋を訪れてしまった。


「アリア、部屋に入ってもいいかい?」

 アリアからは冷たい返答があった。


「パーティの時間までまだ少しありますでしょう? どうせ、あとで披露しますから、今でなくてもよろしいのではないかと」
「すぐに君の姿が見たいんだ」

 思わず思ったことをそのまま言ってしまった。
 当然、アリアからは困惑したような声が返ってきた。

 なんと愚かなことをしているのだろう。
 自分でも情けなくなる。

 諦めて自室へ戻ろうとしたところ、部屋の扉が開いた。
 そこにはドレス姿のアリアが立っていた。
 それを目にした瞬間、笑みがこぼれた。


「アリア、なんて綺麗だ。やはりそのドレスが君に似合うと思ったんだ」

 ああ、この胸の高鳴りは何だろうか。
 初めて感じる思いだ。


「今夜の君はさぞかし映えるだろうね」
「そうでしょうか。ありがとうございます」

 相変わらず冷たい返答だったが、フィリクスは嬉しかった。
 パーティが楽しみだと言うと、アリアは思いがけない反応をした。


「嬉しいですわ。旦那さま!」

 アリアの眩しい笑顔。
 これほどの笑顔を見たことがあるだろうか。
 喜びと同時に、深い後悔の念がわく。

 この笑顔を奪ったのは自分なのに。


 パーティ会場では、アリアは立派な妻を演じていた。
 フィリクスのとなりにいて、笑顔で挨拶をしてまわった。

 フィリクスにもこれが彼女の演技だとわかっている。
 わかってはいるが、フィリクスは嬉しかった。
 心の底から妻のことを自信を持って周囲に紹介した。

 できればこのままずっと、アリアとこうしていたいと思った。
 だが、1年という期限を決めたのは自分だ。
 責任を取らなければならない。


 勘違いとは言え、他の女に目を向けているあいだ、アリアはしっかり家のことや両親のことを気遣ってくれた。 
 今度は自分だ。
 たとえ今後、アリアが思いを寄せる男ができたとしても、快く許そうと思っていた。

 それなのに、気持ちと行動が真逆だった。


 ジタール卿とアリアが仲良く談笑している姿を目にして、胸の奥がもやもやした。
 落ち着け。ふたりは会話をしているだけだ。
 社交辞令に過ぎない。

 そう思っていたが、事態は急展開を見せた。
 ジタール卿がアリアの手の甲にキスをしたのだ。


「あいつ……!」

 思わず頭に血がのぼり、彼らに近づいていった。
 ジタール卿はアリアの手を握り、彼女に顔を近づけている。
 徐々に小走りになり、急いでアリアに手を伸ばした。
 そして、彼女の肩をつかんで抱き寄せた。


「アリア」

 フィリクスはアリアの肩を抱いて、ジタール卿を睨み据える。

「ジタール卿、彼女は僕の妻です。あまり馴れ馴れしくされると困るのですが」

 自分でも驚くほど低い声で、相手を威嚇するように言い放った。


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