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9、侯爵さまは勘違いしています【メアリー視点】
しおりを挟む怪我をした男を助けたら、貴族の令息だった。
メアリーはただ、善意で行っただけだった。
しかし、その男はメアリーに愛の告白をしてきたのだった。
メアリーは病気の母と幼い弟と妹のために野菜売りをしながら暮らしていた。
非常に貧しく、食べ物にも困っているほどであり、到底母親の治療費を出すことはできなかった。
そんなときに出会った侯爵家のフィリクスに支援してもらい、母親は病院で治療を受けることができて、弟や妹は毎日食事をすることもできている。
ありがたいと思った。
フィリクスはいずれ結婚したいと言ってくれているが、メアリーは困惑している。
貴族の令息と平民の女とではあまりにも釣り合わないし、だいたいメアリーにはフィリクスに対して愛という気持ちはまったくない。
いろいろと生活の支援をしてくれるいい人という程度だ。
だから、交際の申し出はいつも断っていた。
「メアリー、お母さまの具合はどうだい? さあ、これは君へのプレゼントだ」
フィリクスは家に来るなり薔薇の花束を差し出した。
「あ、ありがとう。あなたのおかげでずいぶんよくなったわ。でも、毎回こんな花束をいただくのは申しわけないわ」
「いいんだ。僕の君への気持ちなんだから」
フィリクスが来るたびに弟や妹たちは大騒ぎだ。
何せ美味しいお菓子をたくさんくれるから。
弟たちの笑顔を見ると、メアリーは断ろうにも断れなかった。
だが、いつまでもこのような関係はよくない。
母親の病気はずいぶんよくなったので、メアリーはついにフィリクスに援助を断るという意思を伝えた。
「どうして? 僕にとって君は恋人も同然だ。君の家族は僕にとっても家族なんだよ」
困惑するフィリクスに、メアリーは冷静に話す。
「フィリクスさまと私では身分があまりにも違います。それに、あなたはご結婚が決まっているのでしょう?」
「ああ、そのことなら心配ないよ。一応、結婚はするけどそれは体裁を保つためであって、君との関係を終わらせるつもりはないんだ」
「あの、私たち付き合ってもないんですけど」
「これから正式に付き合うつもりでいるよ。僕は君のことを愛しているのだから」
メアリーはため息をついた。
「あの、本当にわかっていますか?」
「何をだい?」
「愛しているという意味ですよ。あなたは私が怪我の治療をしたことで、それを愛と勘違いなさっているのでは? 私はただ善意で行っただけです。あなたではない別の誰かが怪我をしていたら、もちろんその人のことも助けるつもりです」
「君は心優しいからそうするだろう。わかっているよ。君のそういうところも僕は好きなんだ」
「はあ、そうですか……」
何を言っても通じないなと思った。
実はメアリーは困ったことになっていた。
友人であるケリーが、町で噂を耳にしたらしい。
侯爵家のフィリクスが婚約者をないがしろにして平民の女にうつつを抜かしていると。
「それって私のことだよね?」
ケリーが家を訪れた日、メアリーが改めて確認をした。
ケリーは頷く。
「ああ、そうだ。お前があの貴族と恋人関係にあるという噂になっている。このままではお前の弟と妹にも影響が出てしまうぞ」
「どういうこと?」
「お前らに対する町の人の反応はさまざまだ。障害を乗り越えて結ばれる運命の恋人と言う者もいれば、金目当てで略奪しようとしていると言う者もいる」
「略奪ですって? そんな……酷いわ。そんなこと考えたこともないわよ」
「わかってるよ。でも、今の状態じゃ言いわけにもならないだろ」
「そうね。一体どうしたら……」
「一芝居打ってみたらどうだ?」
ケリーの提案に、メアリーは賭けに出ることにした。
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