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5、義両親が嫁に甘すぎる
しおりを挟む「アリアさん、あなたのための書庫を用意したわ」
とある日、義母が案内してくれた。
書庫を使いたいと言ってから2週間ほどが過ぎていた。
もう忘れられていると思ったが、これほど時間がかかったのには別の理由があった。
「さあ、アリアさん。君のために書庫を改造したんだ」
「蔵書も増やしたのよ。お好きな本があればいいのだけれど」
アリアは書庫に入った途端「わあっ」と声を上げた。
綺麗に清掃された書庫には壁際にびっしりと本が並び、カフェテラスが併設してある。
晴れた日にはテラスで紅茶を飲みながら庭で本を読めるということだ。
「君のためのプライベート空間だ」
と義父が言った。
「え……うそ」
とアリアは驚きの声を上げる。
「君の庭園はこの書庫のとなりに造ったんだ。こうすれば自由に書庫と庭を行き来できるだろう」
と義父が言った。
「私たちは使わないから、自由にしてもらって構わないわよ」
と義母が言った。
「あ、ありがとう、ございます」
まさか、何でもしてくれるとは言っていたが、ここまでしてくれるとは。
しかも心配していたふたりの過干渉だが、思っていたより酷くなく、比較的アリアに自由を与えてくれた。
アリアは困った。
これでは、離婚しづらいではないか。
いやむしろ、ずっとここにいたいと思う。
今まで実の両親に放置されていたアリアには、このふたりの好意が熱すぎる。
胸を打たれる。
感動してしまう。
離婚できなくなってしまう!!
「なぜ、そこまで?」
と問いかけてみる。
フィリクスの行動に対する罪滅ぼしというなら、あまりにもやり過ぎだ。
嫁のために部屋を改造して庭まで造ってくれるとは!
「前にも言ったけど、私たちはあなたのことを本当の娘のように思っているの」
「そうだよ。まあ、こんな性格のせいで息子を甘やかしすぎてしまったから、これからは厳しく接しようと思う」
「アリアさん、末永く息子のことをよろしくね。どうか、見捨てないでやってね」
「君に苦労はさせないよ。私たちがいるあいだは、息子に厳しく言って聞かせるから」
義両親の言葉にアリアは戸惑う。
「あ、えっと……」
お気になさらないでください。私もこの結婚を利用して自由の身になるつもりなんですから。
息子さんには後々、平民の彼女と再婚していただいて。
などと考えてふと思う。
ふたりはきっと、息子がもし伯爵家のアリアと離婚して平民の女と再婚したらということを心配しているのだろう。
しかし、ここまでしてもらったのに「お構いなく、どうせ離婚しますので」とは言えないし、絶対言わない。
だが、これからもこんな調子では、アリアは心置きなくすっきり離婚ができなくなってしまう。
もっと、罵倒して虐げて、意地悪なことをしてくれてもいいのに。
「アリアさん、冬は冷えるから今度毛皮を買いに行きましょう。いいお店を知っているの」
「近くに美味しいレストランがあるんだ。そのときにぜひ行こう」
アリアは微笑みながら「はい」と返事をした。
そして、胸中で静かに思うのだ。
これ以上優しくされても、ごめんなさい!
わたし、夫と離婚します!
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