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4、放っといてください
しおりを挟む義両親との朝食会は庭のテラスで行われた。
真っ白のテーブルにパンとスコーン、サンドイッチ、サラダ、ステーキ、スープに紅茶、そしてデザートのケーキとフルーツ。
丁寧に手入れのされた庭園はたくさんの種類の花が咲いていて、より朝食の風景を鮮やかに彩っている。
「まあ、素敵」
と声を上げてから、ハッとする。
もしかしたら、義両親の意地悪でアリアの分の皿やカップは用意されていないとか。
そもそも、椅子がないとか。お前は嫁だから立っていろとか。
呼び出しておきながら嫁の食事は用意しないという、そんなありふれた嫌がらせをされるのだろうか。
「さあ、アリアさん。たくさん召し上がってね」
「そうだ。遠慮してくていいぞ。君はもう私たちの家族なのだからね」
なんと義両親が優しかった。
「ありがとうございます。いただきます」
アリアは義両親との朝食会を楽しんだ。
想像とまったく違った。
義両親はアリアにどんどん料理を進めてくるし、ふたりとも笑顔でアリアの話を聞いてくれるし、何より驚いたのは息子への愚痴だ。
「ごめんなさいね、アリアさん。フィリクスの噂のせいで嫌な思いをされているでしょう?」
義母の言葉に、アリアは紅茶を飲む手を止めた。
「噂、ですか?」
と控えめに訊ねる。
すると、義父がため息まじりに答えた。
「フィリクスには他に好いている女がいるという噂だよ。本当に申しわけない」
「いいえ、それは私も存じておりますので、気にしていませんわ」
「え? 気にしてない……」
「あ、そうではなくて。上級貴族には愛人のひとりやふたり、いても不思議ではないですからね」
新婚なのに旦那に他の女の噂があることをまったく気にしない嫁だなんて思われたら変だ。
と思って当たり障りのないことを言ったのに、義両親は感激の表情をした。
「アリアさんはなんて心が広いのでしょう! うちの愚息が本当にごめんなさい!」
「えっ……」
義母が涙ながらに話す。
「私たちはなかなか子に恵まれず、フィリクスは結婚10年目にやっと授かった子なの。だから、私たちはあまりにも甘やかしてしまってこんなことに……」
「本当は純粋で真面目な子なんだ。今はよその女性に目が行っているが、ほんの勘違いだと思うから、どうか見限らないでほしい。息子は必ずあなたのところへ戻ってくるはずだから」
義両親は必死に訴える。
「だ、大丈夫です」
だって1年後に離婚しますから。
なんて言えない。
「ああ、そうだ。アリアさん、何かほしいものはないかい? 何でも買ってあげよう」
「そうね。やりたいことがあるなら応援するし、何でも言ってね」
義両親の言葉にアリアは困惑の表情で頷く。
だが、ふたりはどんどん会話を進めていく。
「そうだ。君のための部屋をもっと豪華にしようか。君だけの庭園も作ったりして」
「そうだわ。明日は町一番の衣装屋のマダムを呼びましょう。あなたにぴったりのパーティドレスを新調しなくちゃ」
義両親がわくわくした表情で話を進める。
「あ、あの……うちに支援をしてくださっているだけで十分ですので」
と控えめに言うと、ふたりは真剣な表情で「だめよ!」と言う。
「あなたに迷惑をかけているんだもの。出来ることはすべてしてあげたいの」
「そうだ。遠慮しなくていい。私たちは本当の娘だと思って何でもしてあげたいのだ」
ふたりはにこにこしながら言った。
アリアは戸惑いながらも承知する。
「そうですね。私は読書が好きなので、書庫を自由に使わせていただけると嬉しいです」
そう言うと、ふたりはもちろんだと了承した。
朝食会は意外にも楽しかった。
その翌日からパーティのドレス選び、その次は宝石や部屋のカーテンの模様、そしてアリアだけの庭園を造り、そこで行うお茶会のためのパティシエも決めるらしい。
義両親は思ったほど悪い人ではなかったが、正直これほど干渉されるのはどうだろうか。
放っといてほしいのに!!
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