恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸

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70話

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「ゴホンッ」

 前当主のわざとらしい咳払いに俺たちはハッと正気に戻る。前当主は不機嫌そうだし、ルームミラー越しに見えるヤスとヒデは何故かジト目で俺を見てる。

 え? 俺が悪いの?

「え、えっと、その……お祖父様……」

 そして、正気になった瞳さんは赤裸々にアピールしたことに顔を赤くしながら、不機嫌気な前当主にどう話しかければ良いかおろおろしている。

 とりあえず、何を言われるか予想はついてるが、聞くために俺も前当主へと向く。

「むっ」

 全員が注目したことに眉を上げながら少し考え込む。
 いや、どうせ許さんとかピーーしてやる!  とかでしょ。
 だが、全員にとって予想外のことを口にした。

「……一先ずは認めてやってもいい」

「お祖父様!」

 そうポツリと呟き、瞳さんは喜色を滲ませる。
 あの強情な前当主がねぇ……。
 
「だが、勘違いするなよ? 一先ずだからな!? 貴様が何か不適応行動をした場合、組織をもって粛清することを覚えておけ!」

 いや、怖ぇーよ。
 たかが俺に組織全体使うなよ。

 てか、認められるって俺にとって不都合なんじゃ……いや、考えまい。
 なんか堂々巡りになる気がする。


    
☆☆☆


 それから『六道』の本拠地へと戻った前当主はあったことを話すと、すぐに『若草組』をとり潰すらしい。

 俺と瞳さんはその前当主の手腕によってお役御免となったので、二人で話ながら歩いて帰ることにした。

 お互い疲れてることもあって、会話は少ない。
 だが何故か瞳さんは、たまに顔を赤くしてチラチラこっちを見る。なんか言いたいことでもあるんかな。
 はっ! それか疲れによる熱!?

「瞳さん、体調大丈夫ですか!?」

 急に大声を出した俺にビクッと驚きつつ、言われた内容にきょとんとする。

 え、違うの?

「え、えぇ、大丈夫よ。なんで?」

「いや、なんか顔が赤いので……」

 指摘すると、さらにぼふんっと顔を赤く染める。
 どうやったらそんなに顔色を変えれるんだ……? なんかしたっけ。

「き、き、気のせいよ! 朝陽よ!」

「雲かかってますけど……?」

 移動や、作戦でだいぶ時間を消費し、現在時刻は朝の5時。
 本当ならまだ眠っている時間だけど、何故か目はギンギラギンだ。

「え、ええと……しつこいわ!」

「え、ええ!? す、すみません」

 反射的に何故か謝ってしまった。まあ、気にしたら負けだということなんだろう。知らんけど。
 そのままさらに気まずくなってしまい無言の時間が流れる。別に無理に話さなくても良いと思うしな。
 でも、相変わらずチラッと俺を見る瞳さん。
 なんの意図か知らないけど、やっぱり気にしたらいけないんだろう。むっ、理不尽なり。
 
 最初の目的地は瞳さんの家だが、本拠地からわりと近いのでもうすぐ着く。

「あれよ」

 家が建ち並ぶ住宅街で、他の家より一回りでかい赤い屋根を指差した。
 サイズがでかいことを抜かしたら普通の家だ。
 いや、サイズでかいから普通じゃないのか?
 そして、やっぱり比較的俺の近所だった。

 家の前で俺たちは立ち止まる。瞳さんはすぐに家に入るかに思えたが、振り向いて俺に向かって腰を折り曲げた。

「本当にありがとう。そして、巻き込んでごめんなさい。あなたがいなかったら何も変わらなかったと思うわ。過去も……今も」

「頭を上げてください。俺は瞳さんを尊敬してるから手伝ったんですよ。実行に移したのは瞳さんですし、これから先輩としても関わるでしょうし、借りを作っとくのもいいかもしれませんね」
 
 あはは、と笑いながら俺はそう言う。
 今回の件で何か気にやむ必要なんてない。俺は瞳さんを助けたかった。瞳さんは俺に助けてほしかった。
 それだけで充分な話だ。それに、気丈な瞳さんに涙を流させた『若草組』が個人的に腹立った。

 ……あれ? 俺も泣かせてね?
 い、いや、気のせいだ、うん。気のせい。

 ともかく、その理由だけで充分なんだ。

 すると、フッと笑うと、何かを小声で呟いて、ジッと俺を見た。

「これは……お礼よ」

「え、何がっと、おっ!?」

 タタッと勢いづいて瞳さんは俺を────抱き締めた。
 伝わる暖かさと感じる柔らかさに言葉を失いながらも、体を震わせている瞳さんが泣いていることに気がつき離すことができなくなってしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

「これは嬉し泣きよ」

 泣いていることがバレたのが恥ずかしかったのか、俺の肩に顔を埋めグリグリと動かす。
 ちょっと痛い。

 抱き締めてわかったことだけど、こんなに大人っぽくて、しっかりしていても、『女性』なのは変わらない。
 その華奢な体は、ふとした拍子に折れてしまいそうで、その心も……同じだ。

 今まで頑張ってきたんだ……一人で。

「お疲れ様でした……」

 その意を込めて、優しいトーンを意識して話す。
 すると、心なしか俺を抱く強さが上がって、一言呟いた。

「……うん」

 今だけは、今だけはこう優しく抱き締めるのも仕方ない。

 そう、どこかで言い訳をしつつ、時間が過ぎていった。


☆☆☆

「チッ。何失敗してんだよ」

 薄暗闇の中、一人の大男が、どこかの部屋で煙草を吸いながら舌打ちをしていた。
 手に持つタブレットからは部下の報告書。

 『六道』を乗っとる作戦が失敗したと記載されている。操り人形と化していた『若草組』は崩壊。
 で操る男の存在がバレることはなかったが、それでもイラついていた。
 その原因の一端が、

「『天笠』の野郎め……。何協力してんだよ……!」

 すでに侵入者の素性はバレていた。
 男はタブレットの画面をスライドさせ、映し出された顔──狭山渚を見て苦々しく顔を歪めた。

「絶対に許さん……」

 そう、復讐を誓って、何者かが動き出した。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

三章終了。
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そして、ファンタジー大賞向けに、異世界ファンタジーを書いてみたので、そちらもよろしければ読んでいただけると嬉しいです。
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