上 下
38 / 73

38話

しおりを挟む
 お父さんと聞いてあたふたしてる俺を日夏が宥める。

 「だ、大丈夫だよ。私たちただ勉強してるだけだし」

 いやいや、シチュエーションがアウトじゃないか?
 
 「ほら、一人暮らしの娘の家に男いたらやばくない!?」

 「大丈夫だって、私が説明するから」

 まあまあ、と俺を嗜める。
 すると、ガチャっと音が鳴り、リビングへ通じる最後の砦が開かれた。
 現れたのは細身の男で、顔にはシワがあり、髪は白髪が所々にある。

 「……誰だ」

 扉を開けて俺を見ると、険しい顔で眉を潜めた。
 そして、日夏の方を向き、聞く。

 「えっとね。この人は狭山渚くんで、私に勉強を教えてくれてるの」

 立ち上がった日夏がざっくりと、要点を絞って説明してくれる。
 すると、途端に俺を向き、訝しげな視線を向ける。

 「逆じゃないのか……?」

 俺が日夏に教わっているという意味だろうか。
 気持ちはわかるが、普通に酷い。

 まあ、前髪を隠した不審な男が、自分の娘に勉強を教えてるとは思わないよな。

 「初めまして。狭山渚です。わけあって娘さんに勉強を教えています」

 とりあえず、挨拶をしないと失礼にあたると思った俺は自己紹介をする。
 だが、その険しい顔は消えない。

 「君に勉強を教えるだけの成績はあるのかね?」

 おう……直線的に聞いてくるな、この人。
 まあ、これも気持ちはわかる。

 「一応、ある、と思っています」

 「そうか、模試の成績は?」

 淡々と無表情に問いかけてくる。

 「満点です」

 「まっ、満点……!?」

 俺がありのまま告げると、さすがの日夏父も表情を変える。
 
 「証拠はあるのか?」

 失礼だな。めっちゃ疑ってやがる。
 
 「もういいでしょ、お父さん!」

 そこで、質問責めにあっていた俺に助け船を送る。

 すると、日夏の方に体を向け、今度は日夏に問う。

 「では、お前はこいつの成績を

 「いや……それは」

 確かに言っただけで、見せてなかったな。
 今度持ってくるか、と思った瞬間、日夏父が俺にとって、あり得ないことを口にした。

 「じゃあ、日夏。お前は騙されたってことだ。大方嘘付いて、お前に近付きたかったのが目的だろう」

 「お父さん!? なんてこと言うの!?」

 はぁ!? なんでそうなる。
 そんなことするやつなんて……いや、人気考えるとあるかもしれないな。
 これは……ちゃんと証拠として見せなかったのが問題だな……。
 俺の落ち度だろう。
 だが、日夏は父に憤慨している様子だ。

 「どうだ? 図星だろ?」

 勝ち誇った笑みで俺を見てくる。
 そんな日夏父に俺はスマホを突き付ける。

 「模試の公式ホームページのランキングです。同率一位覧に載ってます」

 全国範囲のテストだと、こういう証明法ができるのだ。
 さしもの日夏父も押し黙る。
 しかし、認めようとは決してしない。

 「公式というのも嘘かもしれないだろう。それに同性同名という可能性もある」

 どうやったらこんな精巧な偽サイト作れるんだよ……。
 しかも、学校名、載ってるんだが……。

 俺がそう言おうとすると、日夏父はふいにある提案をしてきた。

 「まあ、お前がたとえ一位だったとして、だ。なら、私に証明してみろ。お前が日夏に教えられる資格があるか」

 まあ、悪い提案でもないな。
 これに合格すれば、晴れて堂々と、親公認で教えることができるからだ。
 
 「いいですよ。次の模試で俺がまた満点を取ればいいんですか?」

 俺の学力を疑っているのなら、そうすべきだ。
 と、思ったのだが……

 「点を取るのはお前じゃない。日夏だ。この際お前はの学力はひとまずいい。お前の教えが効果的なのか、それだけだ」

 「ちょっと! 何勝手に」

 「日夏、お前は黙っていろ。これはお前の為でもあるんだから」

 どんどん、事が進んでいく様子に、戸惑った日夏が父を宥めようとするが、一蹴される。

 そして、俺は正論に黙る。
 じゃあ俺の学力に散々噛みついてきたのはなんだよ! とは言わない。

 「わかりました。具体的な点数はなんでしょう」

 俺はその提案を受ける。
 
 「次の模試で290点以上を取らせろ。そうすれば私は何も言わない」

 「上等です。その代わり、もし取ったら日夏の努力を認めてください。俺の力だけではないのですから。それに俺のことを名前で呼んでください」

 お前扱いは少し腹立つ。
 それに、勝手に話しを進めていたが、日夏は精一杯成績を上げようと、必死に努力していたからだ。
 結果290点を取っても、指導の成果だ、とでも言われたらさすがの俺も、激怒するだうから。

 「渚くん……」

 啖呵を切った俺を見つめる、日夏。

 「日夏……だと? それに渚くん……?」

 日夏父は、俺の言葉に、益々顔を険しくさせ、ぶつぶつ呟く。
 こめかみはピクピク動いている。

 何か気の触れるこもでも言っただろうか。
 顔が険しいこと以外は無表情で、感情が読めない。

 「ふん、取ってから言え」

 結局、日夏父はそんなことを言うと、家を出ていった。

 「ふぅ……」

 俺はそれを黙って見送り、姿が消えると安堵のため息を吐く。

 「ごめんね。私のお父さんのせいで……」

 俺は申し訳なさそうにしている日夏をフォローする。
 
 「いや、大丈夫だよ。それに丁度いい。親公認のチャンスを逃してたまるか! やるぞ日夏!」

 拳を突き上げテンションを上げた俺に、少し呆けたあと、ふふっ、と笑い覚悟を決める日夏。

 「うん! 私頑張るね!」

 日夏が、自信を無くすことが一番心配だったが、その心配は杞憂に終わったようだ。
 やる気に満ちている日夏の眼は、まるで燃えているようだ。

 「模試は二週間後! 絶対に290点以上取るぞ! おー!」

 「おー!」

 二人揃って拳を掲げる。

 そうして、二週間後の模試に向けて、厳しい勉強会を開始した。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お気に入り登録よろしくお願いします。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:117,760pt お気に入り:4,112

一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,280pt お気に入り:1,708

夫は親友を選びました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,162pt お気に入り:1,406

【完結】愛は今日も愛のために

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,150pt お気に入り:17

処理中です...