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25話
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俺は舞阪先輩の原稿の校閲を、夜遅くまでしていたせいで発生した眠気を堪えながら学校へと向かう。
「まったく……面倒な事を押し付けて……」
といっても、俺の頬が少し緩んでいるのを自分でも感じていた。
舞阪先輩の小説はやはり面白く、読む手が止まらなかった。
先輩の小説は心に訴えかける何かがあるのだ。
その何かの正体は未だにわかっていないが、その何かを出すことができるのが特徴なんだろう。
『対話鏡の向こう側』というタイトルの小説で、二重人格である男子高校生が、その苦悩を抱えながらも友人と協力しながら生活していく、という物語だが、これだけなら設定としては普通だ。
先輩の凄い所はキャラの生かし方にある。
所謂モブが一人もいないのだ。
出てくる登場人物は全員何かの苦しみを抱え、一人一人が、人間として成長していくのだ。
そんな世界観に俺は心を揺さぶられた。
先輩の書く、心理描写はスルッと俺の心に深い共感と、言い表せない感情を残していく。
だから、俺は先輩のファンなのだ。
先輩の小説について思いを馳せながら歩く。
すると、ふいに後ろから躊躇いがちに声が掛けられた。
「あ、あの!」
俺は後ろを振り向く、いたのは驚くことに白海だった。
「え、白海? 家の方向こっちだったのか?」
まだ、学校までは距離がある。
なので、白海も家が近いのでは、と思ったのだが、
「違うわ。近くの駅から学校に行ってるのだけれど、ちょうどなぎく……狭山くんがいたから」
俺の隣を悠然と歩きながらそう言った。
ん? 今、何か言い掛けなかったか? 気のせいか? なぎく、ってなんだ?
……まあ、いいか。
白海の言う通り、近くに駅があることを思い出した。
恐らく、地下鉄に乗ってきたのだろう。
あ、だから白海はヤスたちに帰り道で襲われたのか。
襲ってはいないか。
白海があんな場所で恐喝されていた疑問が氷解した。
そういえばヤスたちといえば、
「あまり、思い出したくないだろうけど、白海に迫ってた黒服のやつらが謝罪してたぞ。伝えてくれだって」
伝言を頼まれていたのを思い出し、伝える。
正直怖い思いをしたのだし、思い出させたくないのだが、仕方ない。
「そう……これから先、関わらないなら問題はないわ。今回のことで義母さんにも迷惑をかけたしね」
俺はそれに、もちろん、と頷く。
あとで、ジジイ自ら説教をするらしいから、地獄を見ることになるだろう。
あいつらが悪いのだから当然だ。
そこで俺は白海の母さんという発言に疑問を浮かべる。
確か……白海の母親は海外逃亡したと聞いてたけど……。
もしや、帰ってきたのだろうか。
だが、今回というと、恐喝される前にもいたと証明してるものだ。
顎に手を付けて考える。
「どうしたの?」
考えている様子を不思議に思ったのか聞いてくる。
「いや、白海の──」
聞こうと思ったが、そこで踏みとどまる。
そこまで踏み込んでいいものなのか。
そもそも、俺と白海の関係とは何なんだろう。
過度に踏み込んでいい話題なのか。
そんな疑問が頭を駆け巡る。
秘密の共有という意味では同じなのだろうが、踏み込む限度がわからない。
何かを言い掛けた俺を、なんだ? という風に見る。
俺は知りたいという感情が確かに存在している。
だが、必要というわけではない。
悪く言えば、ただ俺の知的好奇心で聞いていいのだろうか。
考えすぎるのが玉に瑕だと、言われるが、その通りだ。
肝心な場面で即断即決ができない。
「いや、なんでも──」
「聞きたいことがあるなら聞いて? 私は気にしないから」
なんでもない、と言う前にそう言われてしまった。
一歩踏み込む勇気が無ければ、白海にそう言わせられる始末。
優柔不断な自分を、俺は恨んでしまう。
「その……お母さんは海外逃亡したと聞いてたけど」
結局、白海の好意に甘んじて聞くことした。
その問いに、あぁ、なんだそんなことか、と言わんばかりの表情を浮かべる白海。
そこまでデリケートな質問ではなかったのだろうか。
「私の今の母は義母よ。私を捨てた人をもう母さんとは呼びたくないの」
思った以上にその溝は深い。
白海が二番目に言った母さんという言葉には、確かな憎しみが籠っていた。
「まったく……面倒な事を押し付けて……」
といっても、俺の頬が少し緩んでいるのを自分でも感じていた。
舞阪先輩の小説はやはり面白く、読む手が止まらなかった。
先輩の小説は心に訴えかける何かがあるのだ。
その何かの正体は未だにわかっていないが、その何かを出すことができるのが特徴なんだろう。
『対話鏡の向こう側』というタイトルの小説で、二重人格である男子高校生が、その苦悩を抱えながらも友人と協力しながら生活していく、という物語だが、これだけなら設定としては普通だ。
先輩の凄い所はキャラの生かし方にある。
所謂モブが一人もいないのだ。
出てくる登場人物は全員何かの苦しみを抱え、一人一人が、人間として成長していくのだ。
そんな世界観に俺は心を揺さぶられた。
先輩の書く、心理描写はスルッと俺の心に深い共感と、言い表せない感情を残していく。
だから、俺は先輩のファンなのだ。
先輩の小説について思いを馳せながら歩く。
すると、ふいに後ろから躊躇いがちに声が掛けられた。
「あ、あの!」
俺は後ろを振り向く、いたのは驚くことに白海だった。
「え、白海? 家の方向こっちだったのか?」
まだ、学校までは距離がある。
なので、白海も家が近いのでは、と思ったのだが、
「違うわ。近くの駅から学校に行ってるのだけれど、ちょうどなぎく……狭山くんがいたから」
俺の隣を悠然と歩きながらそう言った。
ん? 今、何か言い掛けなかったか? 気のせいか? なぎく、ってなんだ?
……まあ、いいか。
白海の言う通り、近くに駅があることを思い出した。
恐らく、地下鉄に乗ってきたのだろう。
あ、だから白海はヤスたちに帰り道で襲われたのか。
襲ってはいないか。
白海があんな場所で恐喝されていた疑問が氷解した。
そういえばヤスたちといえば、
「あまり、思い出したくないだろうけど、白海に迫ってた黒服のやつらが謝罪してたぞ。伝えてくれだって」
伝言を頼まれていたのを思い出し、伝える。
正直怖い思いをしたのだし、思い出させたくないのだが、仕方ない。
「そう……これから先、関わらないなら問題はないわ。今回のことで義母さんにも迷惑をかけたしね」
俺はそれに、もちろん、と頷く。
あとで、ジジイ自ら説教をするらしいから、地獄を見ることになるだろう。
あいつらが悪いのだから当然だ。
そこで俺は白海の母さんという発言に疑問を浮かべる。
確か……白海の母親は海外逃亡したと聞いてたけど……。
もしや、帰ってきたのだろうか。
だが、今回というと、恐喝される前にもいたと証明してるものだ。
顎に手を付けて考える。
「どうしたの?」
考えている様子を不思議に思ったのか聞いてくる。
「いや、白海の──」
聞こうと思ったが、そこで踏みとどまる。
そこまで踏み込んでいいものなのか。
そもそも、俺と白海の関係とは何なんだろう。
過度に踏み込んでいい話題なのか。
そんな疑問が頭を駆け巡る。
秘密の共有という意味では同じなのだろうが、踏み込む限度がわからない。
何かを言い掛けた俺を、なんだ? という風に見る。
俺は知りたいという感情が確かに存在している。
だが、必要というわけではない。
悪く言えば、ただ俺の知的好奇心で聞いていいのだろうか。
考えすぎるのが玉に瑕だと、言われるが、その通りだ。
肝心な場面で即断即決ができない。
「いや、なんでも──」
「聞きたいことがあるなら聞いて? 私は気にしないから」
なんでもない、と言う前にそう言われてしまった。
一歩踏み込む勇気が無ければ、白海にそう言わせられる始末。
優柔不断な自分を、俺は恨んでしまう。
「その……お母さんは海外逃亡したと聞いてたけど」
結局、白海の好意に甘んじて聞くことした。
その問いに、あぁ、なんだそんなことか、と言わんばかりの表情を浮かべる白海。
そこまでデリケートな質問ではなかったのだろうか。
「私の今の母は義母よ。私を捨てた人をもう母さんとは呼びたくないの」
思った以上にその溝は深い。
白海が二番目に言った母さんという言葉には、確かな憎しみが籠っていた。
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