恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸

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21話

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 ケイヤとの会話を終えたあとは、休み時間にケイヤや、たまに宵闇と喋りながらあっというまに今日の授業を終える。

 「じゃあねー」

 「ん」

 素早く身支度を整え、教室を出ようとしている宵闇。
 俺が挨拶をすると、そんな返事が返ってくる。
 相変わらず淡白だな……返事してくれるだけありがたいが。
 しかし、いっつも無口で、喋るのは俺とケイヤくらいだな。
 まあ、ここの三人が喋るようになったきっかけも話せば長いし、特殊だけど。

 俺も荷物を持って教室を出る。
 春風に今日は部活がある、とラインをし、階段を一階分降りて二階の廊下を歩く。

 文芸部の部室は二階の端にあるため、少し歩かなくてはならない。
 急いでいるときはこの時間が億劫だったりする。

 部室に辿り着いた俺はガラガラと横開きのドアを開ける。

 「狭山! よく来た!」

 「いや、先輩服着て」

 部室にはパンツ一丁の姿で筋トレをしている、巨漢の男がいた。
 この先輩の名前は武田《たけだ》 吉彦《よしひこ》。
 筋トレと読書が趣味といういかにもアンバランスな趣味を掛け持っている。
 部活が始まる定刻4時より、早く部室に来て、パンイチで筋トレをするへんた……先輩だ。

 なんでも時間がもったいないだとか。

 ……いや、パンイチはやめようぜ。

 俺が指摘すると、豪快にガハハと笑う。
 決して頷きはしない。
 このパンイチと筋トレに関しては入部1ヶ月で諦めた。

 あ、もうこの人に何言っても無駄だな……と。

 部室を見渡し、あと三人の部員がいないことがわかる。

 「他の人たちは来ますかね?」

 幽霊部員はお断りなこの部活だが、サボる人は結構いる。
 かくいう俺もたまにサボる。
 というか、みんなサボる。

 三回連続までのサボりは許すというのが、この部活の暗黙の了解だ。

 「伊縫《いぬい》と森は来るけど、舞阪《まいさか》は知らん。てか来ないと思うぞ」

 「まあ……ですよね」
 
 伊縫と森、というのは武田先輩と同じ二年の女子の先輩で、舞阪先輩も二年の女子生徒だが、彼女は部活にはほとんど参加しない。

 それにはもちろん理由がある。
 彼女は現役小説家なのだ。
 それも売れっ子の。

 彼女の新人賞受賞作『キミの思い出はキミ一人のものじゃない』はミリオンセラーのヒットを巻き起こし、映画化もされた。
 よって忙しすぎて、部活はおろか、学校にも出席日数ギリギリでしか来ないのだ。

 普通は学校側が来るように促すが、事情も事情なため黙認されている。
 自分の学校に売れっ子作家がいれば、それはもう黙認するだろう。

 ……大人って怖い。

 「しかし舞阪も──」

 「やっほー! 二人とも!」

 「……やっほー」

 武田先輩が何かを話そうとした時、ドアが開き、伊縫先輩と森先輩が入ってきた。

 伊縫先輩は元気溢れる、ザ・イマドキの女子高生! みたいな感じだ。なぜ文芸部に入った。

 それに対して森先輩は、いつもけだるげで、ボーっとしている。
 きちんと身だしなみを整えればかわいい部類に入るのだが、面倒くさくてしていないらしい。

 「こんにちはー」

 「伊縫! 森! ヤッホー!」

 俺は普通に挨拶を、武田先輩は二人の真似をして、挨拶をする。
 武田先輩がやっほー、と言うとビジュアルのせいかゴリラの声にしか聞こえない。

 「武田っちうるさい。服着て」

 「武田うるさい。服着ろ」

 伊縫先輩と森先輩は大声に耳を抑えて冷たく抗議する。
 意に返さず、武田先輩は笑っていた。

 ……メンタル強すぎかよ。
 正直見習いたいけど、行動を真似したら何かを失いそうな気がするからやめとく。

 いうも騒がしい武田先輩だが、部活が始まると何も言わなくなる。


 ……まあ、そりゃそうだ。
 ずっと本読んでるし。

 4時になればお互い好きなことをする。
 といっても、本を読んだり書いたり、感想を言い合うだけだ。
 そんな和やかな部活の雰囲気を俺は気に入っていた。

 「あ、伊縫先輩。主人公の──」

 緩やかに時間が過ぎていく。

 チクタクと部室の時計が響く。
 ちらりと見た時計はちょっきり5時半を指していた。

 俺は時計を一瞥すると、読んでた本に視線を戻した。

 その時、ガラッと勢いよく部室の扉が開いた。

 「ま、間に合った……」

 肩で息をしながら現れたのは、一人の女子生徒。

 「舞っちじゃん。珍しいね」

 伊縫先輩がその女子生徒……舞阪先輩に話しかける。

 舞阪先輩は部活に来れないが、来たくないわけではない。
 時間を見つけては部活に参加してくれるし、部員との関係も良好だ。
 きっと今日も時間を見つけてきてくれたんだろう。

 ……と思ったのだが。

 「ふえええん! 渚ぁ! 助けてぇ!」
 
 と、泣きながら俺の腕にしがみついてきた。
 俺はそれを見て、またか……と嘆息した。

 舞阪先輩の性格を一言で表すと、ポンコツ完璧主義者だ。
 もっと簡単に言えば、馬鹿、そして見栄っ張りだ。
 つまり、完璧を求める。
 故に……簡単に言うならば誤字脱字を嫌う。

 だが、文章を考えたり構成する能力をあるものの、校閲する力が全く無い。

 なので、締め切り直前に、校閲というか誤字脱字を見抜ける俺に泣きついてくるのだ。

 今は9月の中旬だが、4月に入学して部活に入ってからというものの、ほぼ毎月泣きついてきているのだ。

 3ヶ月前に俺が、すぐ人に頼らない! と叱ったことで、約二ヶ月間機会がなかったが、ついに……性懲りもなく頼ってきたのだ……

 「先輩……前に言いましたよね?」

 俺は少しキツイ口調になるのを自覚しつつ、先輩のために、諭す。

 ……先輩が卒業したらどうするというのだ。

 「いいじゃん! ケチ! こんな美人な先輩に構ってもらえるんだからいいでしょ!」

 確かに先輩は美人だ。
 それもかなりの。

 「それ、自分で言ったら駄目でしょ……しかも先輩は美人は美人でも残念美人ですよ」

 どっちかというと、ケイヤと同じ部類。
 いや、春風に毒されているだけのケイヤの方がまだましかもしれない。

 「なッッ!? ひどい! 残念とはなんだ残念とは!」

 「他の先輩方~」

 俺が呼び掛けると、全員が応えてくれた。

 「うむ。舞阪は残念だな。だって筋トレの価値がわからないのだから」

 と、武田先輩。

 「いつもアイス奢ってくれないから残念」

 と、伊縫先輩。

 「……残念」

 と、森先輩。

 俺はニッコリする。

 「いやいやいや! 理由になってないでしょ! 綾瀬ちゃんに関しては残念オンリーじゃん!」

 いやいやと手を振って勢いよく、反論する舞阪先輩。
 綾瀬、といのは森先輩の名前だ。
 俺はそれを聞いて笑みを深くする。

 「先輩……理由がなんであろうと、証人は三人います。はい、ギルティー」

 「「「いえーい」」」

 他三人もノリよく同調してくれる。

 舞阪先輩の泣きつきの苦労は先輩方が一番よくわかっている。

 ……つまり! この場に正義はない! いや、どゆこと。

 「なんでそこだけ結託するねん! ちょっと待って! 今回だけ! 今回だけだから!」

 今回だけ、ねぇ……?

 「俺が何回その言葉に騙されたと思ってるんですか。言葉変えてますけど同じですからね?」

 俺は舞阪先輩の反応を見ながら続ける。

 「一回目は、一回だけお願い。二回目は、一生のお願い。三回目は、最後だから。四回目は、私を助けると思って一回。そして今」

 俺が過去のことを言う度に、ピクッと反応をしている。何これ面白い。

 舞阪先輩は負けじと反論する。

 「そ、そんなこと言ったっけな~? 第一! もし私がそれを言ってたとしても、全部憶えてるのはキモい!」

 ハハッ何を言ってるんだ。

 「これを言うためだけに憶えてたに決まってるじゃないですか」

 「性格悪っ! ……わかったよ。友達に頼む」

 いや、自分でするって選択肢はないんかい。
 少し拗ねた様子で、頬を膨らませる先輩。

 …………あぁ、もう!

 「わかりました! 今回だけですよ?」

 「やったぜ! さすが後輩!」

 笑顔で言う先輩。
 調子のいい先輩だ……

 そして、先輩は俺に原稿のデータを渡して帰っていった。

 ……まったく、嵐のような先輩だな。
 俺はなにも同情心で請け負ってるわけではない。

 小説を書く難しさはもちろん知っている。
 書いても売れる保証などはない。

 そんなシビアな場所で、第一線で活躍してる先輩を尊敬してる、というのもある。

 だが、一番なのは、俺が先輩の小説のファンってのが大きい。

 これから出すわけなのだから、読者として見るのは俺が一番最初だろう。

 それが少し嬉しいのだ。
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