世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

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第4章 vs竜

宙魚

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 「飛び降りる!?ちょっとローラン君何言ってるの!?何mあるのよ!ここ!」

レナが目を丸くして掴みかかってきた。

「普通に飛び降りたらぐちゃっとなって終わりですが…?」
ペンタクールは首を傾げている様子だ。
ナタリアとアルバは驚いているようだが俺の次の言葉を待っているようだ。

「ははっ!飛び降りる。いいね、面白い。」
レイはケタケタと笑い俺の提案を受け入れている。

俺はレナ達の誤解を解くために言葉を紡ぐ。

「何も何の考えもなしに飛び降りるわけじゃない。俺が持ってきた魔法のカバンに皮で縫い合わせた落下傘がある。そいつを使って上手く風を制御して降りればいい。何しろ、ここは四層に直通している大穴だ。時間短縮の観点からこの方法が一番良い。」

それを聞いたレナは再度嫌そうな顔をしている。
「別に…ゆっくり行っても…」

「いや、迷宮が封鎖されてからしばらく時間が経っている。これ以上長引くと迷宮を財源にする冒険者から不満が漏れる。その案でいこう」
レイが俺の味方に立った。

「差し当たって一個問題があるのだが…」
「問題?」

アルバが俺に聞き返す。

「あぁ。落下傘は俺が普段使ってるやつと予備を合わせて2つしかない。本来はそれで4人支えられて問題なかったんだが…メンバーが二人増えたことで落下傘が足りない。俺が急ピッチで小型の奴を一個作ったが、それ一つで二人支えられるかは賭けになってしまう。」

その言葉を受けてナタリアがバツの悪そうな顔をする。

「一人なら小型のやつでも支えられるんですか?」

「あぁ。一人なら問題ない。」

レイが質問をしてきたので俺は答えた。

何か安全な方法は…

「あれ…って捕まえたりできないんですか?」
レイが穴の対岸を指差す。

そこには紫色のゆらゆらと揺れるオーラを身に纏った浮かぶ魚の群れが見えた。一匹一匹は風船のように膨らんでおりそれが何十匹も集まってゆらゆらと揺れている。

「…宙魚ホロネマか。確かにあの魔物は風船みたいに浮力で飛んでいるように見えるが実態は少し違う。あれは纏っている紫のオーラ…つまり闇の魔力を利用して無理矢理宙に浮いてると言った方が正しい表現だ。捕まえたからってその浮き具合をコントロールできるわけではない。」

奴らが風船のように身体を膨らませているのは、落下速度を緩めるためだ。おかげで身はスカスカで美味だが可食部が少ない。ある意味高級食材だ。

「へぇ…じゃあ魔力をコントロールできたら降りれます??」

「…そりゃあできないことはないが非常に高度な魔力操作が必要になるぞ。それに闇の魔術を扱う人間自体が少ないのにその扱いに長けた人なんて………」

そこまで言って俺は気づく。

「居るじゃないですか。ちょうどいい適任者が。」

レイの言葉に後押しされてみんなが一人を見つめる。

「えっ?私ッ!??…ちょっ…嫌だよ!なんでそんな危ないこと…私とナタリアちゃんなら小型の落下傘でも降りれるかもしれないからっ!そうしましょ?…ね??」

皆の注目を浴びたレナが抗議を始める。
すかさずレイが説得に試みる。

「レナ…やってみるだけやってみて欲しい。そっちの方が確実かもしれない。」

「いや…理論はわかるけど!やったことないし…そもそもどうやって…えーっと宙魚ホロネマ…?の群れをこっちに持ってくるのよ!!」

「それに関しては大丈夫だ。ほら。」

そう言って俺はカバンから液体の入った瓶を取り出し、アルバのリュックにしまってある鍋を準備しそこに入れ、火にかける。

「その液体…もしかして」

その様子を覗き込んでいたナタリアがハッとした表情で伝えてきた。

「あぁ。この前取った海霊馬ケルピーの生き血だな。再生リジェネの力を持っているこの血は多少光の魔力を持っている。この血を煮沸して出た魔力と匂いで簡単に宙魚ホロネマはおびき寄せれる。もっとも普通はおびき寄せるメリットなんてないが。」

ものすごく凄んだ顔のレナと目が合ったが気にしない。

煮込み始めてから5分ほど経つと明らかに宙魚ホロネマの群れがこっちに近づいて来るのが見えた。

「では、ここは私が。」
「おや、私も力を貸しますよ。」

ペンタクールとアルバがそれぞれ武器を構え宙魚ホロネマを迎え撃つ。

「十匹ほど昏倒させてあとは全部駆除してもらって構わない!」

俺は後ろから指示を出す。

ペンタクールは槍の先端に丸い木の玉をつけ的確に宙魚に打撃を加える。あっという間に地面に昏倒した宙魚が落ちた。アルバが斧を振り残りの宙魚を倒した頃にはレナももう諦めた表情になっていた。

「…それでどうやって」

ジト目のレナに質問をされる。
俺は組紐で宙魚をまとめて括り付け、風船のように宙に浮かべた。その組紐とワイヤーを使いレナの身体に宙魚を紐付けていく。

「……なんか浮遊感が」

「似合ってるよレナ。」

若干笑いを堪えながらレイが褒める。

「あんた後で覚えときなさいよ。」

「レナ、魔力を通してみて。闇の魔力でオーラを制御するんだ。」

レナはこくりと頷き杖を持って魔力を込める。背筋が凍るような…深い闇のような空気があたりを包む。宙魚が闇の魔力に当てられて目を覚ましたようだ。
宙魚は一瞬取り乱し、レナに襲い掛かろうとしたり壁へ激突しようとしたが、レナが魔力を注ぎ込むと意識を失ったかのように呆けている。

「上昇してみてくれ」

俺の問いかけにレナは頷き杖を上向きに向ける。すると宙魚の纏っていたオーラが大きくなりレナの足が地上から浮く。

「なにこれ面白い!!」

そう言って彼女は杖を操作してスイスイと宙を移動し始めた。

さすがは天才魔導士。
離れ業を一発でやってのけた。これでこの先も進めそうだ。

「うわっ!」

操作を誤ったのかレナがこっちに突っ込んでくる。

「ふぎゅ」

レナの小さな悲鳴と共に俺は彼女からライダーキックを喰らった。
ふぎゅって言いたいのは俺の方だ。

「ご、ごめん。でもローラン君も無茶振りしたからこれでおあいこね?」

レナは困ったように優しく笑いかけた。
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