世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

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第4章 vs竜

会合

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「初めまして。僕の名前はレイ・アーツ。君が今回案内を務めてくれるローランさんだね?」

雪のように真っ白な髪をした青年が俺に話しかけてくる。顔は優しいが目が氷のように冷たい。そんな印象を俺は抱いた。
 俺が魔物肉をおろしに行くいきつけの店、夜々亭ナルコティアにて、ナタリア達との待ち合わせに向かった俺は1人の男に話しかけられる。

その男は最強の氷魔導士、現勇者の称号を欲しいままにする氷の王だ。

なんでコイツがここに…
俺はだいぶ戸惑いながら返事をする。

「ローランだ。今回は迷宮の案内を任させてもらった。敬称はいらない。…俺は付け方も知らんしな。」

レイが手を差し出し握手を求める。
俺はその手を握る。
その時、急激に背筋に寒気を感じ俺はレイを睨んだ。

コイツ、俺に無理やり自分の魔力流し込んできやがった!! レイの冷たい魔力のおかげで俺の体温は1℃は下がった気がする。

魔力というのはそれぞれ使い手という決まった器を持っている。
人に魔力を流すと、器とは違う魔力により拒否反応を示すことが多い。…そもそも魔力を人に押し付けること自体高度な技だが。

幸い、俺は魔力が少ない代わりにコントロールに長けていたため、全ての魔力穴を俺の魔力で塞ぎ流入を防ぐ。

それを感じたのかレイは笑いかけ、

「では、ローランさん。よろしく頼みます。」

と言い手を離した。

コイツ俺を試しやがったな。食えない奴め。
そして俺はナタリアとペンタクールの方を見る。

「2人とも待たせてしまったな。すまない。
注文は…もう済ませたか?」

俺はレイとナタリアの間の席に座る。

「ああ、ローラン殿、済まないが先に注文している。ナタリアは海霊馬ケルピーの馬刺しの盛り合わせを、私は迷宮フルーツソテーを頼んだ。…本当に良いのか?君にお金を払ってもらって。それなりの値段はするぞ?」

「…ここは俺が素材をよく卸していてな、店長とは顔馴染みなんだ。多少融通がきく…はず。」

「それにしても魔物料理店なんて変わった店初めてきましたよ。」

ナタリアが興味津々で店内を見渡している。年相応のはしゃぎ具合というのだろうか。

「レイは何を頼んだんだ?」

俺は左を向き、1人でメニューを見て考えて混んでいた勇者に話を振った。

彼は数秒、メニューを見続け

「どれも食べたことなくて面白いですね。ローランさんのおすすめあります?」

先程の仕返しのために、店で一番不味いものでも出してやろうかと思ったが、店の心象が悪くなるのでやめておく。

海霊馬ケルピーの肉はクジラ肉っぽくて美味い。唐揚げがおすすめだ。」

じゃあそれで、とレイは言った。

俺はあまりお腹が空いていなかったのでフルーツスライムカクテルを頼んだ。スライムは食性によって属性、及び味が変わる。
フルーツばかりを与えられたスライムは質の良い甘い粘液が取れる。

「へぇ、それ美味しそうですね。」

赤色に輝くグラスの中の液体を見ながらナタリアは言う。

「未成年はダメだぞ。」

俺の言葉に眉をひそめたナタリアは抗議する。

「一滴だけ、一滴だけでいいから!」

「ダメです。」

今度はペンタクールに釘を刺されるナタリア。それを聞いた彼女は、不満そうに顔をしかめ、海霊馬ケルピーの肉を頬張った。

「ふむ、美味しい。」

不満げにナタリアは一言唱え咀嚼をする。

この際なので俺はレイと竜討伐の打ち合わせをすることにした。

「ここで軽く予定を立てたい。レイ、勇者パーティーの内訳とその能力を教えてくれ。」

レイは少し考え込んだ表情をし、口を開いた。

「あんまり手の内を明かしたくはないのですが…。そうだなぁ。僕は属性を氷のみに絞り、魔術と剣を行使して闘います。いわゆる魔法剣士ですね。水魔法も使えるには使えるのですが、属性を交わらせたくないので封印してます。威力は…まぁ僕のは威力というよりも範囲に特化してますね。射程は今だとこの街全土くらいです。」

化け物かよ。

レイはさらに言葉を紡ぐ。

「僕のパーティーは僕以外にも珍しい闇の魔術を扱う魔導士レナと、アルバという角のある魔族がいます。アルバは魔族としてのフィジカルを活かした心強い壁役です。」

さすがというかなんというか、竜退治にくるメンツとしては非常に頼もしいものが揃った。

「あぁ。教えてくれてありがとう。流石、獣重鬼ベヒーモスを倒しただけの面子だ。心強い。」

「それで、迷宮の案内をしてくれるとのことで?」

レイが顔を傾け指を組み問いかける。

「あぁ。最短ルートで四層まで降りて、そこから竜の痕跡を調べつつ深層へ向かう。組合ギルドからの情報によれば四層までで竜がいたとされる異変が見つかっている。」

「異変?」

今度は右隣のナタリアが聞いてくる。

「焼死した海霊馬ケルピーだ。従来の四層は小さな水脈はあれど海霊馬ケルピーが生きられるだけの水は無い。そこにアイツが居るだけでもおかしいのに…
まぁそれはあまり関係ないな。」

そして俺は再びレイを見ながら話を進める。

「四層は地中深く、熱気がすごい。深層になると対策が必要になるぐらい熱くなる。対策装備を持って行っても良いが、荷物が嵩張るのでレイには常時魔力を解放してもらって気温を下げてほしい。頼めるか?」

レイは造作もないと言った表情で頷いた。

「竜対策は…いやそれは本隊と会ってからにしよう。二度手間だ。」

そう言い俺はカクテルをあおった。


俺たちはしばらく料理を楽しむ時間となった。

レイは海霊馬ケルピーの唐揚げの、クジラ肉のようなその独特な硬さに苦戦していた。

「ナタリアさんはよくこの硬いの噛みきれますね?」

「私のは馬刺しだったから。それ一口頂いても?」

「どうぞ。」

俺を挟んで海霊馬ケルピーのお肉交換会が行われる。それ自体は構わないが、俺の頭上でやらないでくれ。

「私ももらって良いですか?」

とさらにペンタクールがレイから唐揚げを受け取る。

「なるほど…これは噛みごたえがあってジューシーで美味しい…」

ペンタクールが染み入るように唐揚げを味わっていた。

やがて各々、腹を膨らませ休憩をしているころにナタリアが口を開いた。

「ねぇ…ローランさん、そのドラゴン討伐って私のついて行っちゃダメですか?」

予想外の問いに俺は数秒固まり言葉をつなげる。

「ダメだ。危険すぎる。ナタリア、君は確かに初めて会った頃よりは強く逞しくなっているが、それでも深層は早すぎる。深層は当たれば死ぬような攻撃がバンバン飛んでくるディストピアだ。あんまりにひどいと蘇生もまかり通らん。」

ナタリアを褒めつつ、断りを入れる。ペンタクールやナタリアには、会うたびに迷宮についての知識を教えておいた。元々地力があったのだ。今では三層ぐらいまでは2人で対処可能だろう。でも深層へ行けると思っているには良くない兆候だな。

「自分が力不足なのは知っています!でも、氷の勇者殿の魔法を近くで見れる良い機会なんです!先程会ってわかりましたが彼の魔力はもの凄く多いです。彼の全力の魔法を間近で見れれば、今滞ってる古代魔術の詠唱もうまくいくかもしれません!」

熱弁してくるナタリア。

困ったな。どう説得しようか悩んでいるとレイが口を挟んだ。

「良いじゃないですか。ローランさん。嬢の我儘を聞くのも大人の役割だ。」

さらに身振り手振りを付け加えて彼は言う。

「自慢じゃないですが、僕と僕の仲間たちはこの国では最強クラスですよ。大丈夫、彼女は僕が守ります。」

てっきり助け舟を出してくれると思ったがその逆、多数決では負けてしまう。俺は助けを見るようにペンタクールを見る。彼女は最近観察してわかったがナタリア第一主義者なので、俺の意見の方を汲んでくれるはずだ。

「私もついて行って良いですか?ナタリア様を守る役目が私にはあるので。」

様って言っちゃったよこの人、身分隠す気もないらしい。

…ナタリア第一主義者なんだからナタリアの意見を優先するのは当たり前か。

「…しかし、本当に危ないんだぞ…まだ生態も実態も能力もわからない。唯一わかるのは火を扱うことととんでもなく強いってことだけ。ここから先は自己責任だからな?」

俺はもう説得を諦めてナタリアの同行を認めることにした。

と、言うかなんでレイはナタリアの同行を認めるんだ。
いつから彼女のシンパになったんだ。

「はぁ…」

安堵と歓喜の表情を浮かべるナタリアと裏腹に、大きなため息をつく俺であった。

結果的に、この決断が非常に大きな一手になることを俺はまだ知る由もなかった。


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