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第2章 迷宮の異変
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図書室の中は、涼しくそれでいてどこか物悲しい雰囲気があった。本が無数に置いてある。図書館なので当たり前と言えば当たり前なのだが本は貴重なものなのだ。
まず通常の本でも値段が鎧や剣ぐらいの値段がする。その上、魔術書や儀式の書物となると…文字通り本で家が買える…なんてことにもなるらしい。
俺もいつか本を出したいな。迷宮の魔物の生態についての…
魔物についての本はあるにはあるが、余り詳しく生態が載っていない。そういう意味でも俺は本を書いて、知識を後世に広めたいのだ。
寄り道はここまでにして俺は2階へ行く。2階には研究報告書などがまとめられた本がある。そこで龍の情報を探すのだ。
本棚から本を取り出し、パラパラとめくって気になる研究がないか探す。
小一時間経って本棚の一段の研究報告書を見通し終わった。 気になる研究もあったが竜についての情報はなかった。
こればっかりは地道にやらねば。
それから2時間ほど経ったところ、下位竜種について研究された報告書を見つけた。 日付は…10年前か…だいぶ古いな。その本は下位竜種の分類について大雑把に分けられること、その未分け方の方法などが書いてあった。
俺の知っている知識もあれば知らない知識もある。
その本によると亜竜種と呼ばれる。伝承にでてくる竜に似た生物が居るようだ。大きく分けて三種類。
まずは迷宮にも存在する火を吐く巨大なトカゲ、小竜類だ。俺も馴染みのある彼らは、トカゲにしては大きく、伝承上の竜にしては小さい個体が多い。主な見分けかたは火を吐くことと、二足歩行を行うため、骨盤の形状が特殊であることだそうだ。
10年前の情報とだけあって些か、分類が大雑把だが仕方ない。背骨の竜骨が何本あるかとか小竜類で足の骨の数が共通しているとかあるだろうに。
2種目は荒れる海に生息する巨大な蛇のような生き物。海竜類だ。
これも竜骨があってヒレがあるなどすごく雑な分け方をされている。
3種目は飛竜類だ。これなんか酷くて翼の生えた爬虫類。としか書かれていない。
これまでの情報で迷宮に出没した竜の特徴を予測してみる。
まず地下や迷宮に生息している生き物だ。天井のある場所で馬鹿でかい図体の竜が羽を持つ必要はないだろう。
飛竜のような見た目はしてないのでは?
次に海竜、地下深くになるほど地熱で気温は上がる。
ましてや深層となると水より溶岩の方が多くなる。
溶岩を泳げるようなやつじゃない限りは海竜の見た目は取らないだろう。
やっぱり、迷宮に出没した竜なんだから迷宮にいる亜竜種である小竜に似ているのでは?
アストラ曰く、そいつは火も吐くそうだ。
小竜に似ているとなると、小竜の弱点は使えるのだろうか? 彼らは二足歩行をするために足がどっしりしていて小回りが効きづらい。その上頭が重く背骨が前側に湾曲しているため、上や後ろからの攻撃に弱い。
その特徴を持っているなら竜も後ろから…
っていやいや、なんで俺が竜を倒そうとしているんだ。そういうのはもっと強い奴に任せればいい。
はぁ、ちょっと疲れた。少し休憩したら今度は伝承の方でも当たってみるか…
俺は本を閉じ、腰掛けにもたれ目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<一方その頃>
「…ん、ここはどこ?」
ぼやけた視界に白い天井がうつる。…神殿?じゃないな天井が近すぎる。
目をしょぼしょぼさせているとぼんやりとした世界が晴れてきた。
やがてルナは自分がどこかの部屋のベットに寝かされていることに気づく。
「うーん、わからないわね。」
ルナはなんとなく…本当になんとなく枕の匂いを嗅ぐ。
なんか、嗅いだことある…安心する匂い…
えーっと確か、ナタリアさん達の蘇生をしてそれから…
「ッ!?」
え、え、だとするとここローランの部屋!?え、私ローランの枕の匂い嗅いで…
う、嘘、恥ずかしっ!
幸いローランがこの場にいなくて助かった。というかどこに行ったんだあいつは。
よっこいしょと布団から上体を起こす。
「えーっと、一応何もされてないよね?私。」
しばらく体をまさぐった結果、多分何もされてないとの結論に達した。
別にローランの事を疑っているわけでも、嫌な訳でもない。ただ、聖職者…とりわけ蘇生術者は純潔である必要がある。
祈祷術というものは単純な魔力で事象を起こす魔術と違い、神からの力を借りて取り扱うものである。そしてその身が純潔であること、優しい心持ちであればあるほど借りれる力は大きくなる。
俗に言うえっちをしても、祈祷術自体は使えるがその効果は弱まる。ましてや蘇生術なんて使えなくなってしまう。
もちろんローランはそれを知っているので私には手を出すことはないだろう。
「はぁ…」
小さなため息が出てしまった。
私も今年で26歳。周りの友達はほとんど結婚してしまっているし少し寂しい。この国の女の婚期は短い。
多分もう私に春は来ないな。
もちろん、私は蘇生術ができなくなるなら結婚などしないが。
…手を出されてしまったら仕方ないと思ってるけれど。
「シスターの口調が崩れちゃってる。…まぁいいか誰もいないし。」
私はおもむろに立ち上がり部屋を見渡す。
人生初の男の部屋。ちょっと興味があるのだ。
「無骨な部屋ねぇ~」
飾り気のない、それでいて全体的に暗い部屋をトボトボ歩く。
ふと机に一枚の小さい羊皮紙と、分厚い大きめの羊皮紙の束を見つけた。
書き置き…内容は?
「王立図書館へ行ってくる。ルナ、お前はもっと休め」
読み上げているうちに私はふふっと笑みがこぼれる。
相変わらずシンプルだ。ローランに要約の問題を解かせたら面白そうだな。
…もっと休めか~。 人員増強は教会本部にずっと要請している。しかし、蘇生術が使える聖職者が足りてない等の理由で断られ続けている。
それもそのはず、教皇が大の女好きで本部で2~30人の聖職者を侍らせていると聞く。当然その中には蘇生術が使えるものもいた訳で…
いやこれ以上はよそう。品がない。
まぁ本部から人が来ない限りは今の生活をするしかないだろう。
こっちの紙束は?一際目立つ、丁寧にリングでまとめてある羊皮紙の紙束を手に取る。
そこには数多くの魔物イラスト、生息地、習性、その上解剖図まで載っている。
「すごい…」
一目でわかる。これがローランの知識の結晶なのだと。
勝手に見るのは不躾だと思い私は紙束を置いて部屋を出た。どうやらここは2階のようだ。
ローランが趣味にしてはやたら魔物に詳しいなと思っていたがここまでとは。
私は手すりを持って木造階段を降りる。
「きゃっ!!」
私は階段下で全体的に青白い、冷ややかな目を持つ馬と目が合った。
よく目を凝らすと後ろ足がなく大きなヒレがついている。
「海馬…いや違う、海霊馬!?…の剥製?」
海霊馬の海のように深い瞳を見ながらその剥製に触れてみる。
当たり前だが皮膚は硬く冷たかった。タテガミを撫でてみると、水を触っているのかと思うほど柔らかかった。
「こんなに質のいい剥製作れるんだ…」
ローランの違った一面を見たルナであった。
まず通常の本でも値段が鎧や剣ぐらいの値段がする。その上、魔術書や儀式の書物となると…文字通り本で家が買える…なんてことにもなるらしい。
俺もいつか本を出したいな。迷宮の魔物の生態についての…
魔物についての本はあるにはあるが、余り詳しく生態が載っていない。そういう意味でも俺は本を書いて、知識を後世に広めたいのだ。
寄り道はここまでにして俺は2階へ行く。2階には研究報告書などがまとめられた本がある。そこで龍の情報を探すのだ。
本棚から本を取り出し、パラパラとめくって気になる研究がないか探す。
小一時間経って本棚の一段の研究報告書を見通し終わった。 気になる研究もあったが竜についての情報はなかった。
こればっかりは地道にやらねば。
それから2時間ほど経ったところ、下位竜種について研究された報告書を見つけた。 日付は…10年前か…だいぶ古いな。その本は下位竜種の分類について大雑把に分けられること、その未分け方の方法などが書いてあった。
俺の知っている知識もあれば知らない知識もある。
その本によると亜竜種と呼ばれる。伝承にでてくる竜に似た生物が居るようだ。大きく分けて三種類。
まずは迷宮にも存在する火を吐く巨大なトカゲ、小竜類だ。俺も馴染みのある彼らは、トカゲにしては大きく、伝承上の竜にしては小さい個体が多い。主な見分けかたは火を吐くことと、二足歩行を行うため、骨盤の形状が特殊であることだそうだ。
10年前の情報とだけあって些か、分類が大雑把だが仕方ない。背骨の竜骨が何本あるかとか小竜類で足の骨の数が共通しているとかあるだろうに。
2種目は荒れる海に生息する巨大な蛇のような生き物。海竜類だ。
これも竜骨があってヒレがあるなどすごく雑な分け方をされている。
3種目は飛竜類だ。これなんか酷くて翼の生えた爬虫類。としか書かれていない。
これまでの情報で迷宮に出没した竜の特徴を予測してみる。
まず地下や迷宮に生息している生き物だ。天井のある場所で馬鹿でかい図体の竜が羽を持つ必要はないだろう。
飛竜のような見た目はしてないのでは?
次に海竜、地下深くになるほど地熱で気温は上がる。
ましてや深層となると水より溶岩の方が多くなる。
溶岩を泳げるようなやつじゃない限りは海竜の見た目は取らないだろう。
やっぱり、迷宮に出没した竜なんだから迷宮にいる亜竜種である小竜に似ているのでは?
アストラ曰く、そいつは火も吐くそうだ。
小竜に似ているとなると、小竜の弱点は使えるのだろうか? 彼らは二足歩行をするために足がどっしりしていて小回りが効きづらい。その上頭が重く背骨が前側に湾曲しているため、上や後ろからの攻撃に弱い。
その特徴を持っているなら竜も後ろから…
っていやいや、なんで俺が竜を倒そうとしているんだ。そういうのはもっと強い奴に任せればいい。
はぁ、ちょっと疲れた。少し休憩したら今度は伝承の方でも当たってみるか…
俺は本を閉じ、腰掛けにもたれ目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<一方その頃>
「…ん、ここはどこ?」
ぼやけた視界に白い天井がうつる。…神殿?じゃないな天井が近すぎる。
目をしょぼしょぼさせているとぼんやりとした世界が晴れてきた。
やがてルナは自分がどこかの部屋のベットに寝かされていることに気づく。
「うーん、わからないわね。」
ルナはなんとなく…本当になんとなく枕の匂いを嗅ぐ。
なんか、嗅いだことある…安心する匂い…
えーっと確か、ナタリアさん達の蘇生をしてそれから…
「ッ!?」
え、え、だとするとここローランの部屋!?え、私ローランの枕の匂い嗅いで…
う、嘘、恥ずかしっ!
幸いローランがこの場にいなくて助かった。というかどこに行ったんだあいつは。
よっこいしょと布団から上体を起こす。
「えーっと、一応何もされてないよね?私。」
しばらく体をまさぐった結果、多分何もされてないとの結論に達した。
別にローランの事を疑っているわけでも、嫌な訳でもない。ただ、聖職者…とりわけ蘇生術者は純潔である必要がある。
祈祷術というものは単純な魔力で事象を起こす魔術と違い、神からの力を借りて取り扱うものである。そしてその身が純潔であること、優しい心持ちであればあるほど借りれる力は大きくなる。
俗に言うえっちをしても、祈祷術自体は使えるがその効果は弱まる。ましてや蘇生術なんて使えなくなってしまう。
もちろんローランはそれを知っているので私には手を出すことはないだろう。
「はぁ…」
小さなため息が出てしまった。
私も今年で26歳。周りの友達はほとんど結婚してしまっているし少し寂しい。この国の女の婚期は短い。
多分もう私に春は来ないな。
もちろん、私は蘇生術ができなくなるなら結婚などしないが。
…手を出されてしまったら仕方ないと思ってるけれど。
「シスターの口調が崩れちゃってる。…まぁいいか誰もいないし。」
私はおもむろに立ち上がり部屋を見渡す。
人生初の男の部屋。ちょっと興味があるのだ。
「無骨な部屋ねぇ~」
飾り気のない、それでいて全体的に暗い部屋をトボトボ歩く。
ふと机に一枚の小さい羊皮紙と、分厚い大きめの羊皮紙の束を見つけた。
書き置き…内容は?
「王立図書館へ行ってくる。ルナ、お前はもっと休め」
読み上げているうちに私はふふっと笑みがこぼれる。
相変わらずシンプルだ。ローランに要約の問題を解かせたら面白そうだな。
…もっと休めか~。 人員増強は教会本部にずっと要請している。しかし、蘇生術が使える聖職者が足りてない等の理由で断られ続けている。
それもそのはず、教皇が大の女好きで本部で2~30人の聖職者を侍らせていると聞く。当然その中には蘇生術が使えるものもいた訳で…
いやこれ以上はよそう。品がない。
まぁ本部から人が来ない限りは今の生活をするしかないだろう。
こっちの紙束は?一際目立つ、丁寧にリングでまとめてある羊皮紙の紙束を手に取る。
そこには数多くの魔物イラスト、生息地、習性、その上解剖図まで載っている。
「すごい…」
一目でわかる。これがローランの知識の結晶なのだと。
勝手に見るのは不躾だと思い私は紙束を置いて部屋を出た。どうやらここは2階のようだ。
ローランが趣味にしてはやたら魔物に詳しいなと思っていたがここまでとは。
私は手すりを持って木造階段を降りる。
「きゃっ!!」
私は階段下で全体的に青白い、冷ややかな目を持つ馬と目が合った。
よく目を凝らすと後ろ足がなく大きなヒレがついている。
「海馬…いや違う、海霊馬!?…の剥製?」
海霊馬の海のように深い瞳を見ながらその剥製に触れてみる。
当たり前だが皮膚は硬く冷たかった。タテガミを撫でてみると、水を触っているのかと思うほど柔らかかった。
「こんなに質のいい剥製作れるんだ…」
ローランの違った一面を見たルナであった。
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