世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

文字の大きさ
上 下
9 / 26
第2章 迷宮の異変

聖光

しおりを挟む

組合ギルドを出た俺は家で着替えを調達して神殿へ向かっていた。

ドラゴン…ね。」

もしその話は本当なら…いや本当なのだろうが、大変なことになる。

まずこの国にとっての話。この国は王都が迷宮の目の前にある通り迷宮に人の流入を強く依存している。
それもそのはず、あの迷宮「ギルドクライン」は国では一番、さらに周辺国を含めても一位二位を争う広さなのである。故に冒険者、および人の流入が多い。

そんな場所で竜が出没したとなると迷宮へ入る人はまず減るだろう。迷宮産の資源の採取量も減るし、国からしたら大ダメージだ。

だから討伐隊が組まれることになるだろうとは予想しているが、それも準備で一月はかかるだろう。

次に俺の問題。

竜が出たとなると確実に、いやもう既に魔物の生息域がおかしくなっている。
つまり生態系がぐちゃぐちゃになるのだ。
これでは仮に今俺がこの迷宮についての本を出版したとしても、嘘出鱈目だらけの書物になってしまう。

過去に俺が調査した中で迷宮の生態系が変わったことは二度あった。その度に苦汁を舐めてきた。

一度目はどっかのバカが、鉱物資源採取用に集めていた爆薬に火を放り投げたらしい。
結果、二~四層まで繋がる馬鹿でかい吹き抜けができた。
で、あまり干渉することのなかった二層~四層の魔物は互いに出会い争いだし、新種が生まれるだの絶滅だのをした。
馬鹿馬鹿しい。

二度目は数年前、「氷の勇者」と呼ばれる国賓にもなるような力強い冒険者があの迷宮に潜った時だ。その勇者は腕っぷしは確かに強かったのだが、後先考えないところがあって常時高出力の氷魔法を展開していたらしい。

結果、変温動物でひしめく第一層、二層の魔物が大体絶滅した。

一層にレッサーバットとスライムぐらいしか目立った魔物がいないのはこのためである。
実に馬鹿馬鹿しい。

そして今度は伝説上の生き物が生態系を変えて荒らしまわっていると。

ツイてない。ってレベルじゃないなこれは。

まぁそんなことは今考えても仕方がないか。
そう思い足取りを早めた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うわぉ、これはまたセクシーな…」

着替えと少量の食料を持って神殿に戻ってきた俺は開口一番そんな言葉を出した。

俺の瞳には非常に際どい格好をしたナタリアが。盗賊シーフでもそんな軽装しないぞ。ってレベルの露出の多さだ。その上、ルナとナタリアでは体格差が少しあるのか、胸元に少しだけ隙間ができて色々なところが見えてしまいそうだ。

「じ、ジロジロ見ないでください!」

ナタリアが顔を赤らめて反抗を示す。

「あらあら、お似合いですよ??」

「…」

ルナがお褒めの言葉を出す。割と善意でやっているのだから一層タチが悪い。ナタリアも施しを受けている側なので何も言えないのだろう。

「そんなことだろうと思って、着替え持ってきたぞ」

俺はそう言い白いシャツを渡す。ズボンは多分俺のじゃブカブカすぎると思ったので持ってこなかった。

「あ、ありがとうございます!」

助かったという表情を浮かべたナタリアは早速腕を通す。

ナタリアは痴女から下さえ見なければ普通の可憐な女の子に進化した。

「それで、蘇生はいつ行うんだ?」

「今日の夜か明日の朝と言いましたが、この調子だと明日の朝になりそうですね。お二人は仮眠をとるなり休んでいただいて構いませんよ。」

そう言ってルナはどこかへ立ち去ろうとしていた。

「ルナも休まないのか?」

「私はこの後ペンタクールさんも含めて4人蘇生を担当しておりますので…ちょうど次の人の準備もできたようですし。」

4人。単純に見積もって蘇生には5~7時間ほどかかるだろう。ルナの目にはクマがある。てっきりペンタクールの時まで休憩を取るものだと思っていたが…

「…お前、最近いつ寝た?」

「…2日前に」

俺はため息をついた。
ルナはそう言うところがある。文字通り不眠不休で、体力回復はポーションに頼って働きづめる傾向だ。

本当はやめさせたいが、蘇生という仕事の都合上俺が好き勝手口出せるものじゃない。ならせめてと、昔栄養たっぷり、滋養効果のあるポーションのレシピを教えたことがあるのだが…それも裏目に出てしまっている。

「…そのうち死ぬぞ」

俺の言葉を聞いたルナは何も言わずただ微笑んで3階の祭壇へと消えてしまった。

俺とナタリアは顔を見合わせ、休息を取ることにした。


「ルナさん…寝てないんですね。」

ナタリアが乾パンを齧りながら話しかける。

「あいつはちょっとネジが外れてる。自己犠牲の塊なんだ。…そのおかげで助かっている人もいるし君も俺もそのうちの1人だ。だから止めろなんて言えない。」

俺が初めて死亡し、割としっかり腐りかけていた時に蘇生を担当してくれたのもルナだった。

「で、でも蘇生術を使えるのはルナさんだけではないんでしょう?勤務時間を徹底的に分ければ…」

「蘇生術を専門に扱える人物は珍しい。この神殿ではルナを含めて5人ほどいるそうだが、まぁルナのシフトが一番多いというだけでみんな多いそうだ。」


「人材不足は深刻だな」

俺はため息をもう一度吐いてその場で横になった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...