7 / 26
第1章 迷宮案内人ローラン
ルナと蘇生講座
しおりを挟む「蘇生が可能」この言葉を聞いたローランさんは「一度組合へ行ってくる。」と言い残し去っていた。
残されたのは私、ナタリアと聖職者のルナさん。そして私の友人の亡骸だ。
何を言えばいいのか何をしたらいいのか分からずもたもたしていると見かねたルナさんが話しかけてきた。
「その様子ですと蘇生に立ち会うのは初めてですか?」
「はい。蘇生自体は本や授業で習いましたけど…現場に居合わせるのは初めてで…」
そうですか。とルナさんは微笑み言葉を続ける。
「あ、そう言えば自己紹介をしていなかったですね。
私はルナ、ルナ・ミスト。ここ聖メヴィア神殿迷宮支部で聖職者を務めさせて頂いております。」
ルナさんは紺色の修道服のシワを広げ頭を軽く下げた。
「わ、私は訳あって先日冒険者になったナタリアと言います。よろしくお願いします」
私もルナさんに応えるように自己紹介をする。家で習った礼儀の正しい挨拶をしようとドレスのスソを掴んで一礼しようとする。が、今は冒険者の服なので私の手は空を切った。
ちょっと恥ずかしい。
「ナタリアさんは魔術師ですか?そちらの杖、魔力の通ったいい杖ですね。」
「はっ、はい。でも迷宮に潜るのは初めてで…今日もローランさんに出会わなかったら多分私達全滅していました。」
「まぁそれは…でも仕方ないですよ。あの迷宮は特に難易度が高いですから。一層のスライムですら対処を間違えると命を落とします。」
ルナさんは私の頭を撫で、慰めるように言った。
「ペンタクールさんでしたっけ?彼女の蘇生は早くて今日の夜、遅くて明日の朝ぐらいには執り行えると思います。いつもなら即蘇生できるのですが…最近冒険者さんの亡骸が多くて…悲しいことに繁忙しております。」
ルナさんは悲しそうな顔をする。慈しみの表情を表す彼女の顔は文字通り聖女のようだった。
「何しろ蘇生は準備することが多いですから…」
「準備?」
「蘇生術は特別な儀式が必要なことは知っていますか?」
「えーっと…」
私は少し思案する。昔家の者に教えてもらっていたことを思い出す。
「確か、蘇生術は神殿のような聖なる場所で、魔力と捧げ物を用いて肉体に魂を呼び戻す…でしたよね。」
「はい。大体あってますよ。少し付け加えるとすれば使用するのは術者の魔力と生命力です。ですので同じ術師が1日に何回も蘇生術を行うことはできません。また捧げ物は死者に縁の深いものを使うとより魂を呼び寄せやすくなります。この神殿は蘇生の儀式用に作られた祭壇が3つあるので比較的蘇生の回転率は良い神殿なのですが…それでも1人の復活に1~2時間ほどかかるので…申し訳ないですが皆さんにはお待ちいただいているのです。」
ルナさんは深く頭を下げて「どうかご理解を」と言った。
「とんでもないですよ。私からしたら蘇生してくれるだけで嬉しいです。」
友人とまた会える。それだけで私はとても嬉しいのだ。
「ところで…ナタリアさん。どうしてそんなに汚れて…」
ルナさんは少し引き攣った顔で聞いてくる。そのまま顔を私に近づけて…
「ちょっと失礼します。」
匂いを嗅ぎ出した。
「えっえっえ」
私は急に匂いを嗅がれて顔が赤くなる。そんなにスーハーしなくても良いじゃ無いか。
「あー…この匂いは…レッサーバットの…」
ルナさんは顔を離し困ったような表情を浮かべる。
「全くローランったらこんないたいけな娘に何てことを…ちょっとは怒って良いんですよ!」
「有無を言わさず塗りたくられたというか…
まぁローランさんには助けてもらったのでこれくらいなら全然大丈夫ですよ。」
「しかし…このまま放置するわけにも。」
ルナさんは自身の顎に手を当てて考え込む。
「神殿の一階の裏に水浴び場があります。私の私服を貸すので身体を綺麗にしましょう。」
「そっそんな、服を借りるなんてルナさんにご迷惑ですよ」
「コウモリの糞まみれで感動の再会をする気ですか?さぁ行った行った。」
ルナさんは私を後ろへ向かせて押して歩いて行った。
ローランさんとその知り合いは匂いを嗅ぐ習性と有無を言わさない習性があるらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃ着替えここに置いときますから」
「何から何までありがとうございます。」
結局ルナさんに言われるがまま私は水浴び場へ来た。糞で汚れた服は白い麻袋の中にしまっておいた。
「何から何まで今日は人に助けられたな…。」
私は髪を洗いながら独り言を呟く。
汚れた髪は瞬く間に綺麗になり、さっぱりとした気分になった。
私は桶にお湯を溜めて頭からかぶる。
「ふぅ…」
ふと、レッサーバットの大群にあった時のことを思い出した。
お嬢様はお逃げください。そう言って大群のほとんどを引き連れて洞窟の奥へ走って行ったペンタクール。
私の家は少し裕福で、ペンタクールは私の従者兼友達の女の子だ。
ペンタクールは自身が死んでしまう目に遭っても私を守ってくれた。次は私が守ってあげないと…
ローランさんやルナさんにも助けられた。
あの時ローランさんが来てくれなかったらと思うとゾッとする。
そしてルナさんがいなければ、ここまで安心することもできなかっただろう。
「この恩、返さなきゃな。」
私は暗い空を見上げてつぶやいた。
恩が返せるくらい強くなろう。
私はそう心に決めた。
私は水浴びを終え、身体を拭き、脱衣所へ向かった。
ルナさんの貸してくれた服は…どれどれ…
「!?」
上は肩が出て、胸元、ヘソも出ているサラシのような黒い服、下はこれでもかと言うくらい短いショートパンツ。
そして何故か入っているガーターベルト。
「ルっルナさんって普段こんな服着るの!?!?」
それは堅苦しい聖女のような服もなく清楚な貴婦人の服でも無い、やたらとパンクでロックな服だった。
ギャップの一言では言い表せない衝撃に私は少し眩暈を起こした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる