2.5次元君

KAZEMICHI

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幼馴染みの恋

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 〝ねぇ!急なんだけど、来月北海道行かない?〟



 そう言って首を傾けた彼女の笑顔が、燦々と降り注ぐ今日の太陽より眩しいのは良いんだけど…。




 〝夏の北海道〟と聞いて思い浮かべるものは特にない。


 なぜなら私はスノーボードが好きで、北海道は冬に行くものだと思ってるから。
それに北海道の美味しい食べ物も冬に多いイメージだし、夏に行っても泳ぐ所ないし。

 まぁ私、泳げないからそれはどうでもいいよ。


「ね~、お願い~。一緒に行ってよ~。私ひとりじゃどうして良いのか分かんない~。」

 幼馴染みの友希ユキはコーヒーショップのテラスで項垂れてみせた。
眉尻と口角をグッと下げて悲しそうにこっちを見る。

 友希がこの表情をした時点で私の心はだいたい負けてる。

「いやいやいや…。ゆっこと行くって言ってたじゃん。私が一緒に行っても滝本君?だっけ? 楽しくないだろうし、わたしが行く意味なくない?」

「だってゆっこちゃん、怪我しちゃったんだもん…」

「ただの捻挫じゃん。笑 もうむしろ1人で行きなよ。大島君と2人で北海道観光しなよー笑」

「いやだよ~!お願いだよ~! あやちゃぁ~ん!!」


 正面の席から腕を掴まれ前後に揺さぶられている私は亜弥アヤ

 自分の事について人に話せるような事は特に無い。

 働く両親のもと、環境的にも経済的にもまぁまぁ困らない生活。どちらかと言うと色々と甘やかされて育った方だと思う。
まぁまぁの女子校を中等部、高等部、大学とエスカレーターで進んで、まぁまぁの企業に就職。

 幼馴染みの友希とゆっことは親同士が仲良くて生まれた時からの付き合い。

 そして、なぜ今こんな事になっているかというと…。



  これは私じゃなくて友希の恋の話。


 今年の二月、卒業旅行と称して三人で北海道旅行をした。
本当は海外にしようかって言ってたけど、大学院に進学予定の友希は論文と早々に始まる研究準備の為に一週間と予定が空けられなかった。
別に無理に旅行とか行かなくても良いんじゃないかと言ったら〝卒業旅行だよ!?〟と友希に怒られた。

  あなた、大学残るけどね。

 何かにつけてやれ旅行だ、やれご飯会だ、と楽しいことを片っ端からやりたがる友希。

  日常を特別に変えたがる。

 私もゆっこもそんな友希がわりと好き。

 ゲレンデのある北海道でも有数のリゾートホテルに泊まり女三人でスノーボード三昧。なんたって目の前からゲレンデ!
今年のボード納めには最高だと思ってた。


     はずだったのに…。


 二日目のお昼、ランチを食べようとレストランの扉に手を掛けた私たちの後ろを足早に追いかけてきた二人組の男性。

『さっきはぶつかってすみませんでした。背中、大丈夫でしたか?』

 同世代くらいの硬派な感じの二人が申し訳なさそうに話しかける。

『本当すいませんでした…。良かったら、お昼一緒しませんか? お詫びとかってのもなんか変なんですけど、ご馳走させて下さい。』


   それは…、ナンパというのでは?笑


 まぁ、確かに友希はモテる。どこに行ってももれなくモテる。
170センチのモデルみたいな体型に、切れ長な目が印象的な大人っぽい顔立ち。
ワンレンボブがよく似合う小さな顔も、筋の通った鼻も全部が完璧だと思う。
でも、そんな彼女の最大の魅力は社交的な性格と万物を虜にする笑顔。

『えー!いいんですか?じゃあご馳走になりまーす♫』

 あのキラキラした笑顔は私でもメロメロになる。

 完全に友希目当ての大島オオシマ君と、話すと波長が合ったのか急激に距離を縮めたゆっこと滝本タキモト君。
その二組を見ていて食事中はニヤニヤが止まらなかった。

 その夜、札幌を案内してくれると言った北海道民の彼らの所へ二人を送り出した時はなぜか私の方が嬉しかった。

 最終日も空港まで送ってくれて、〝また会おうね〟って言い合いながら番号を交換する彼女たちが微笑ましかった。


 人の恋は見ていて楽しいし、こっちまで幸せな気持ちになる。




「にしても、2人とも残念だね。」

「ゆっこと滝本君?」

「そう。実は私、友希より先にあっちの二人の方がうまくいくんじゃないかって思ってたから。」

「亜弥ちゃんがそう言うならあの2人は絶対上手くいくね! 亜弥ちゃんのこの手の予想は絶対にはずれないからな~。」

「なにそれ。笑」

 頬杖をついてうんうん、と頷く友希に笑ってしまった。

「知らなかったの? 私もゆっこちゃんも、亜弥ちゃんが合うって言った人とは必ずうまくいってるんだよね。本当に人のことに敏感だよね。」

、ね。笑」

「亜弥ちゃんはもうちょっと自分の事にもに敏感になった方が良いと思うよー。」

「え…そう言うの、あんまり興味ないかもー。笑」


 グラスの中の氷をクルクルと回しながら他人事のように笑ってしまった。
確かに周りからは鈍感だと言われる事が多いけど、自分ではそうじゃないと思ってる。
〝鈍感〟なんじゃなく、〝無関心〟なのかなって…。

 付き合いたいと思うほど誰かを好きになった事もないし、そもそも友達じゃない〝好き〟がよく分からない。

 そんな事を不意に考えていると、友希がグラスを避けて身を乗り出した。

「で、一緒行ってくれる? 向こうで亜弥ちゃんの食べたいものご馳走するから!」

「お?言ったな?笑」

「するする! なんでもご馳走しちゃう!笑」

「可愛い幼馴染みの頼みなら仕方ない! 海鮮丼で手を打とう!」

 最高級の笑顔を見せた友希に私はいたずらに笑ってそう言った。

「やったぁ~!! 2杯!海鮮丼2杯ご馳走する!」

「やった!笑 夏に北海道行った事ないから、海鮮丼あるのか分かんないけどね。笑」

 〝あ…〟と言う顔をした友希を見て思わず吹き出してしまった。


  どうせ行くなら楽しんじゃえばいっか。




  軽い気持ちで旅行を楽しむつもりだった…。




    あんな出会い…




   あると思っていなかった…────。


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