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番外編
シュライアとのお茶会
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「シュライアさま、ようこそおこしくださいました」
シュライアがアステリアを訪ねてきたとき、一番に出迎えの挨拶をしたのはマリア。
ドレスを軽く持ち上げて軽く膝を曲げるカーテシーをしてみせる。そして微笑む。
「もー! なんっっっって可愛いの! 連れて帰りたいわ!」
「ふふっ、ようこそシュライア様」
そろそろ到着時刻だからと立ち上がった母親を追い抜いて走って外に出た娘とは思えない気取り方にユーフェミアは笑ってしまう。
「マリア、シュライア様をお部屋にご案内して」
「はい、おかあさま」
その言い方にユーフェミアはまた笑う。
「ねえ、また大きくなったんじゃない? いつ婚約者を決めても大丈夫そうね」
「どうしようか迷っているんです。陛下は結婚どころか婚約者の話さえしたくないみたいで」
「だだこねてるのね」
「ええ」
容易に想像がつくと笑うシュライアにユーフェミアは首を振る。
目の前に並べられるティータイムの用意。それを眺めるマリアの口端からは涎が出ていた。
「マリア、お口が開いてるわよ」
「ッ! だ、だってとってもおいしそうなんだもの! いつもこんなにいっぱい出ないし、こんなに素敵なカップで出てこない!」
「お客様用なんだから当然でしょ?」
「マリアも一緒にお茶会に参加してもいーい?」
「もちろんよ! 色々聞かせてちょうだい。それを楽しみにして来たんだから」
両手を上げて喜ぶマリアは当たり前のようにシュライアの隣に腰掛けて自分のカップを向かい側から引き寄せる。それを見たユーフェミアが手をパシンッと軽く叩いて注意する。
「マリア、ちゃんとカップを持ちなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「ふふっ、ついやっちゃうのよね」
「シュライアさまも?」
「いつもね。本読みながらやっちゃうの。あなたのお母様に怒られちゃうわ」
内緒だと人差し指を立てて笑いながら顔を寄せるシュライアに向けて笑うマリアは至極楽しそうで、ユーフェミアはこの時間が好きだった。
母親とは違う女性。マリアにとって母親は憧れの女性だし愛しているが、シュライアはまた違う憧れがあった。
ユーモアがあって、かっこいいと思うマリアはシュライアが大好きだった。
「マリアはもうパーティーには出席してるの?」
「パーティーというほど大きな物はしていないんですが、国で開く催し物には出席しています」
「素敵な男性はいたかしら?」
「ぜーんぜん。なんかみんな子供っぽくてイマイチ。お兄さまより素敵な男性なんていないの」
まだ八歳でありながら既に男の評価を始めている娘にユーフェミアは苦笑する。
ブラコンであるマリアにとって最上で最高の男は今のところテレンスらしく、いつもテレンスを追いかけている。
「理想の男は?」
「背が高くて優しくてかっこいい人。一番大事なのは女性をうやうやにすること」
「うやうや?」
「敬える、でしょ?」
「そう言ったよ?」
「ふふっ、そうね。次からは言えるわね」
理想の男はテレンス。背が高くて優しく顔も整っている。そして女性を敬うことも知っている。
パーティーに出ると既に令嬢たちが寄ってきている。誰もがテレンスからのダンスの誘いを待っているように見えた。
だがまだマリアがそれを許さない。
頬を撫でると嬉しそうに笑うマリアを誘ってくれる殿方はまだ現れていない。
「やっぱり女の子はいいわね。可愛いわ。私も女の子が欲しかったなぁ」
「男の子が三人というのはどういう感じですか?」
「もうやんちゃやんちゃで大変だったわ。スポーツ大会でもしてるのかって言いたくなるぐらい走り回るし、喧嘩もするしね」
「喧嘩ですか。うちはまだないですね」
「テレンスが優しいから大丈夫よ。テレンスに婚約者ができた時が大変でしょうけどね」
「陛下はテレンスの婚約者を早く見つけることには反対していないんです」
「やだ! だめ! お兄さまはまだ結婚しない! だってマリアと結婚するんだから!」
「これなんです」
婚約者探しの話はテレンスと何度かしているが、その度にどうやっているのかマリアは必ず聞きつけて断固反対を掲げる。テレンスと結婚するのは自分だと言って譲らない。
テレンスがルークに似れば背が伸びるだろう。あと三年か五年でトリスタンを追い越してしまうのは間違いない。トリスタンは男にしては背が低く、ユーフェミアは女性にしては
背が高いが、百七十を超えているわけではない。ルークは既に超えている。聡明さも面影もルークに似てきたなと思ってしまう自分がいる。
血の繋がりは一切ないため結婚したところで問題はないが、テレンスが王になった時に外との交易などを考えると国際結婚をしたほうがいいと思う。
「マリアにとって理想の男性だから仕方ないわよね」
「シュライアさまにとって理想の男性って?」
「あら、それ聞いちゃう?」
「レオンハルトさま?」
ふふっと笑うが、完全に苦笑。
「レオンハルト様はご健在ですか?」
「ええ。軍の人間は相変わらずレオンハルトに怯えてるみたい。時々どうにかしてくれって手紙が届くの」
「あら」
「彼は自分にも他人にも厳しい人間だから──訂正するわ。自分に甘かった」
これには苦笑するしかない。
レオンハルトは無愛想で心がないと言われているが、実際はそんなことはなかった。ただ、勘違いしてしまっただけなのだ。癒しを愛だと。それが見極められていればきっと離婚はしていなかったはず。クライアもきっとクーデターなど起こってはいなかっただろう。
「クライアはどうなっているのですか?」
「まあ、完全に元通りってわけにはいかないけど、ほぼほぼ戻ってきたわ。息子が王位を継いで不安も問題も山積みだけど、それを応援してくれてるしね。ありがたい話よ」
「レオンハルト様は一度も戻っていらっしゃらないのですか?」
「時々、本当に時々、いえ、稀に、一年に一度は帰ってくるわ。会議に出席するためにね」
怒りがこもっている様子にユーフェミアの苦笑は続くが、レオンハルトにこうして感情をむき出しにするということは少なからず彼への情が残っているということだろうと少し安堵する。
「息子が可愛くないのかって言ってやりたいけど、顔合わせると文句言いそうだから会わないようにしてるの」
「そうですか」
「マリアはレオンハルトさま大好き!」
「あら、どうして?」
「だってかっこいいんですもの」
「顔だけはいいのよね、顔だけは」
「あはは……」
そう、レオンハルトはとても整った顔をしている。背も高く細身でありながら鍛えているのがわかる身体。そして顔がいい。トリスタンはいつも横に並ぶのを嫌がっていた。
テレンスが一番だと言うマリアでさえレオンハルトのイケメンさは認めている。
「レオンハルトさまと結婚してよかった?」
「ええ」
シュライアの即答にユーフェミアは少し驚いた。あれだけのことをされたのに即答できるシュライアの広い心にユーフェミアは感動している。
「性格も悪くはないのよ。真面目だったし、世継ぎもちゃんと残したしね。物凄く不器用で、あと馬鹿だっただけ。彼はただ、王の器になかっただけなの。王家に生まれた人間が皆必ず王になれるってわけじゃない。彼は軍人のほうが合ってたのよ」
「そうですね」
突如、一方的な廃妃宣言を受けたシュライア。名家出身のシュライアにとってあんな侮辱はないだろう。廃妃になった理由がシュライアにあったのであれば受け入れるしかないが、シュライアには一切の非はなく、レオンハルトの暴走によるもの。
シュライアが廃妃にされてからあっという間にクライアは傾き、クーデターまで起こった。クーデターは簡単に起こるものではなく、あれは国民の総意である。普段抑えている感情が抑えきれなくなって起こるもの。それは絶対に聞き入れなければならないものなのだ。
自分勝手にした行動で全てが崩れると思っていなかったレオンハルトとの再婚はしなかったものの、こうして即答できるだけの許しは与えているのだと感心する。
「シュライアさまはクライアが好き?」
「ええ、大好きよ。私の両親もクライアが大好きだから私にシュライアって名付けたの」
「そうなのですか?」
「単純よね」
似ているとは思っていたが、そんな理由とは思っていなかったユーフェミアは驚くが、マリアは素敵だと笑う。
「トリスタンはどうしてる?」
「相変わらずですよ。毎日一生懸命仕事をしています。ブラッドリーが宰相を兼任してくれているので助かっています」
「騎士団長はどうしたの?」
「信頼できる部下に任せたそうです」
「大変ねぇ」
ブラッドリーは騎士であることに誇りを抱き、騎士団長まで上り詰めた優秀な人間だ。ブラッドリーに騎士を辞めて宰相になってくれと頼むのは心が痛んだが、ユーフェミアが頼んだ時には既に覚悟ができているようだった。
平和な国の中で起きた大事件によって色々と変えなければならなくなったせいでブラッドリーを巻き込んでしまったことは今も申し訳ないと思っているが、正直新しい貴族を雇うより安心している。
「テレンスとは仲良し?」
「そうですね。ただ、最近は剣の稽古で負けています」
「トリスタンが?」
「はい」
「あっはっはっはっはっはっ! 想像できるわ!」
五年前までは手加減していた剣術も年々トリスタンの本気度は増すばかり。そしてここ一年はずっと本気でやって負けっぱなし。
どっちが稽古をしてもらっているのかわからないぐらい。
「で、ブラッドリーに稽古をつけてほしいと言ってるんです」
「あらー、強くなるつもりなのね」
「騎士になりたいという気持ちもあるそうなんです」
「そういう人間もいるわ」
レオンハルトもそうだった。さっきのシュライアの言葉を聞いてユーフェミアは納得したように頷く。だが、世継ぎは自分しかいないから騎士にはならず王位を継ぐつもりだが、剣術も必要だとは思っていると。
「レオンハルト様に憧れている部分もあるらしくて」
「ロクな人間にならないからやめておけって言っといて」
「そんなことないですよ。強さは確かですから」
「そこだけはね」
レオンハルトのことを話してもシュライアの表情が歪まないのは嬉しかった。
悪い言い方もするが、聞いているマリアが素敵だと思える言い方をしてくれる。
マリアだけではなく、ユーフェミアにとってもシュライアという女性は憧れの人だ。
「テレンスはどう?」
「それが……」
今一番喜ばしくも悩ましくもあるのがテレンスだとユーフェミアが苦笑することにシュライアは首を傾げた。
シュライアがアステリアを訪ねてきたとき、一番に出迎えの挨拶をしたのはマリア。
ドレスを軽く持ち上げて軽く膝を曲げるカーテシーをしてみせる。そして微笑む。
「もー! なんっっっって可愛いの! 連れて帰りたいわ!」
「ふふっ、ようこそシュライア様」
そろそろ到着時刻だからと立ち上がった母親を追い抜いて走って外に出た娘とは思えない気取り方にユーフェミアは笑ってしまう。
「マリア、シュライア様をお部屋にご案内して」
「はい、おかあさま」
その言い方にユーフェミアはまた笑う。
「ねえ、また大きくなったんじゃない? いつ婚約者を決めても大丈夫そうね」
「どうしようか迷っているんです。陛下は結婚どころか婚約者の話さえしたくないみたいで」
「だだこねてるのね」
「ええ」
容易に想像がつくと笑うシュライアにユーフェミアは首を振る。
目の前に並べられるティータイムの用意。それを眺めるマリアの口端からは涎が出ていた。
「マリア、お口が開いてるわよ」
「ッ! だ、だってとってもおいしそうなんだもの! いつもこんなにいっぱい出ないし、こんなに素敵なカップで出てこない!」
「お客様用なんだから当然でしょ?」
「マリアも一緒にお茶会に参加してもいーい?」
「もちろんよ! 色々聞かせてちょうだい。それを楽しみにして来たんだから」
両手を上げて喜ぶマリアは当たり前のようにシュライアの隣に腰掛けて自分のカップを向かい側から引き寄せる。それを見たユーフェミアが手をパシンッと軽く叩いて注意する。
「マリア、ちゃんとカップを持ちなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「ふふっ、ついやっちゃうのよね」
「シュライアさまも?」
「いつもね。本読みながらやっちゃうの。あなたのお母様に怒られちゃうわ」
内緒だと人差し指を立てて笑いながら顔を寄せるシュライアに向けて笑うマリアは至極楽しそうで、ユーフェミアはこの時間が好きだった。
母親とは違う女性。マリアにとって母親は憧れの女性だし愛しているが、シュライアはまた違う憧れがあった。
ユーモアがあって、かっこいいと思うマリアはシュライアが大好きだった。
「マリアはもうパーティーには出席してるの?」
「パーティーというほど大きな物はしていないんですが、国で開く催し物には出席しています」
「素敵な男性はいたかしら?」
「ぜーんぜん。なんかみんな子供っぽくてイマイチ。お兄さまより素敵な男性なんていないの」
まだ八歳でありながら既に男の評価を始めている娘にユーフェミアは苦笑する。
ブラコンであるマリアにとって最上で最高の男は今のところテレンスらしく、いつもテレンスを追いかけている。
「理想の男は?」
「背が高くて優しくてかっこいい人。一番大事なのは女性をうやうやにすること」
「うやうや?」
「敬える、でしょ?」
「そう言ったよ?」
「ふふっ、そうね。次からは言えるわね」
理想の男はテレンス。背が高くて優しく顔も整っている。そして女性を敬うことも知っている。
パーティーに出ると既に令嬢たちが寄ってきている。誰もがテレンスからのダンスの誘いを待っているように見えた。
だがまだマリアがそれを許さない。
頬を撫でると嬉しそうに笑うマリアを誘ってくれる殿方はまだ現れていない。
「やっぱり女の子はいいわね。可愛いわ。私も女の子が欲しかったなぁ」
「男の子が三人というのはどういう感じですか?」
「もうやんちゃやんちゃで大変だったわ。スポーツ大会でもしてるのかって言いたくなるぐらい走り回るし、喧嘩もするしね」
「喧嘩ですか。うちはまだないですね」
「テレンスが優しいから大丈夫よ。テレンスに婚約者ができた時が大変でしょうけどね」
「陛下はテレンスの婚約者を早く見つけることには反対していないんです」
「やだ! だめ! お兄さまはまだ結婚しない! だってマリアと結婚するんだから!」
「これなんです」
婚約者探しの話はテレンスと何度かしているが、その度にどうやっているのかマリアは必ず聞きつけて断固反対を掲げる。テレンスと結婚するのは自分だと言って譲らない。
テレンスがルークに似れば背が伸びるだろう。あと三年か五年でトリスタンを追い越してしまうのは間違いない。トリスタンは男にしては背が低く、ユーフェミアは女性にしては
背が高いが、百七十を超えているわけではない。ルークは既に超えている。聡明さも面影もルークに似てきたなと思ってしまう自分がいる。
血の繋がりは一切ないため結婚したところで問題はないが、テレンスが王になった時に外との交易などを考えると国際結婚をしたほうがいいと思う。
「マリアにとって理想の男性だから仕方ないわよね」
「シュライアさまにとって理想の男性って?」
「あら、それ聞いちゃう?」
「レオンハルトさま?」
ふふっと笑うが、完全に苦笑。
「レオンハルト様はご健在ですか?」
「ええ。軍の人間は相変わらずレオンハルトに怯えてるみたい。時々どうにかしてくれって手紙が届くの」
「あら」
「彼は自分にも他人にも厳しい人間だから──訂正するわ。自分に甘かった」
これには苦笑するしかない。
レオンハルトは無愛想で心がないと言われているが、実際はそんなことはなかった。ただ、勘違いしてしまっただけなのだ。癒しを愛だと。それが見極められていればきっと離婚はしていなかったはず。クライアもきっとクーデターなど起こってはいなかっただろう。
「クライアはどうなっているのですか?」
「まあ、完全に元通りってわけにはいかないけど、ほぼほぼ戻ってきたわ。息子が王位を継いで不安も問題も山積みだけど、それを応援してくれてるしね。ありがたい話よ」
「レオンハルト様は一度も戻っていらっしゃらないのですか?」
「時々、本当に時々、いえ、稀に、一年に一度は帰ってくるわ。会議に出席するためにね」
怒りがこもっている様子にユーフェミアの苦笑は続くが、レオンハルトにこうして感情をむき出しにするということは少なからず彼への情が残っているということだろうと少し安堵する。
「息子が可愛くないのかって言ってやりたいけど、顔合わせると文句言いそうだから会わないようにしてるの」
「そうですか」
「マリアはレオンハルトさま大好き!」
「あら、どうして?」
「だってかっこいいんですもの」
「顔だけはいいのよね、顔だけは」
「あはは……」
そう、レオンハルトはとても整った顔をしている。背も高く細身でありながら鍛えているのがわかる身体。そして顔がいい。トリスタンはいつも横に並ぶのを嫌がっていた。
テレンスが一番だと言うマリアでさえレオンハルトのイケメンさは認めている。
「レオンハルトさまと結婚してよかった?」
「ええ」
シュライアの即答にユーフェミアは少し驚いた。あれだけのことをされたのに即答できるシュライアの広い心にユーフェミアは感動している。
「性格も悪くはないのよ。真面目だったし、世継ぎもちゃんと残したしね。物凄く不器用で、あと馬鹿だっただけ。彼はただ、王の器になかっただけなの。王家に生まれた人間が皆必ず王になれるってわけじゃない。彼は軍人のほうが合ってたのよ」
「そうですね」
突如、一方的な廃妃宣言を受けたシュライア。名家出身のシュライアにとってあんな侮辱はないだろう。廃妃になった理由がシュライアにあったのであれば受け入れるしかないが、シュライアには一切の非はなく、レオンハルトの暴走によるもの。
シュライアが廃妃にされてからあっという間にクライアは傾き、クーデターまで起こった。クーデターは簡単に起こるものではなく、あれは国民の総意である。普段抑えている感情が抑えきれなくなって起こるもの。それは絶対に聞き入れなければならないものなのだ。
自分勝手にした行動で全てが崩れると思っていなかったレオンハルトとの再婚はしなかったものの、こうして即答できるだけの許しは与えているのだと感心する。
「シュライアさまはクライアが好き?」
「ええ、大好きよ。私の両親もクライアが大好きだから私にシュライアって名付けたの」
「そうなのですか?」
「単純よね」
似ているとは思っていたが、そんな理由とは思っていなかったユーフェミアは驚くが、マリアは素敵だと笑う。
「トリスタンはどうしてる?」
「相変わらずですよ。毎日一生懸命仕事をしています。ブラッドリーが宰相を兼任してくれているので助かっています」
「騎士団長はどうしたの?」
「信頼できる部下に任せたそうです」
「大変ねぇ」
ブラッドリーは騎士であることに誇りを抱き、騎士団長まで上り詰めた優秀な人間だ。ブラッドリーに騎士を辞めて宰相になってくれと頼むのは心が痛んだが、ユーフェミアが頼んだ時には既に覚悟ができているようだった。
平和な国の中で起きた大事件によって色々と変えなければならなくなったせいでブラッドリーを巻き込んでしまったことは今も申し訳ないと思っているが、正直新しい貴族を雇うより安心している。
「テレンスとは仲良し?」
「そうですね。ただ、最近は剣の稽古で負けています」
「トリスタンが?」
「はい」
「あっはっはっはっはっはっ! 想像できるわ!」
五年前までは手加減していた剣術も年々トリスタンの本気度は増すばかり。そしてここ一年はずっと本気でやって負けっぱなし。
どっちが稽古をしてもらっているのかわからないぐらい。
「で、ブラッドリーに稽古をつけてほしいと言ってるんです」
「あらー、強くなるつもりなのね」
「騎士になりたいという気持ちもあるそうなんです」
「そういう人間もいるわ」
レオンハルトもそうだった。さっきのシュライアの言葉を聞いてユーフェミアは納得したように頷く。だが、世継ぎは自分しかいないから騎士にはならず王位を継ぐつもりだが、剣術も必要だとは思っていると。
「レオンハルト様に憧れている部分もあるらしくて」
「ロクな人間にならないからやめておけって言っといて」
「そんなことないですよ。強さは確かですから」
「そこだけはね」
レオンハルトのことを話してもシュライアの表情が歪まないのは嬉しかった。
悪い言い方もするが、聞いているマリアが素敵だと思える言い方をしてくれる。
マリアだけではなく、ユーフェミアにとってもシュライアという女性は憧れの人だ。
「テレンスはどう?」
「それが……」
今一番喜ばしくも悩ましくもあるのがテレンスだとユーフェミアが苦笑することにシュライアは首を傾げた。
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